魔法紋 1
リビングでくつろいだ後、全員で工房に行く。
工房に移動しようとすると、フィルランカが話しかけてきた。
「私も、一緒に行っても構いませんか?」
今まで、作業中は、工房に居なかったフィルランカが聞いてきたのだ。
その問いを聞いて、カインクムがジューネスティーンの顔を見る。
それは、決定権は、ジューネスティーンに有ると訴えているようだ。
「ええ、問題ありません」
ジューネスティーンの了解が取れると、フィルランカは笑顔を向ける。
「ありがとうございます。 さっき、魔法紋を付与する魔法が有るって言ってたじゃないですか。 それを私にも教えてもらえないでしょうか?」
フィルランカは、少し恥ずかしそうにお願いしている。
その反応に、ジューネスティーンは、不思議そうな顔を向けるが、直ぐに答える。
「大丈夫です。 それじゃあ、作業を始める前に、終わらしちゃいましょう」
それを聞いてカインクムは、心配そうな顔をジューネスティーンに向ける。
「いいのか、それで」
「ええ、それ程、面倒じゃないと思いますので、先に終わらせてしまいましょう。 準備はメンバーが行います」
「そうか。 それは助かる」
カインクムは、ジューネスティーンが、自分たちの、魔法紋を付与する魔法を覚える方を先にしてくれた事に感謝した。
ジューネスティーンにしてみれば、カインクムのさっきの水魔法を使えるようになった時の事を考えれば、組立前に行っても、大した時間は掛からないと思ったのだろう。
さっさと済ませてしまった方が良いと考えての提案だと思われる。
「じゃあ、シュレが中心に教える事にしますが、足りない部分は、自分が補助します。 それで覚えられると思います」
ジューネスティーンは、覚える事が前提で話を進めているのだが、先ほど水魔法を覚えてしまったこともあり、カインクムは、その事を気にする事は無かった。
ジューネスティーンが話をまとめると、シュレイノリアが、話に入ってきた。
「ドロウイングは、魔法紋を描く魔法。 魔法紋を描くのは二次的要因。 何か作っておきたい魔法が有ればその方が良い」
シュレイノリアの提案に、フィルランカは、何かを閃いたように話だした。
「それなら、水瓶にさっきの魔法を描くのはどうでしょう。 水瓶を上に置いて、細い管を付けて、管の出口を開け閉め出来るようにしたら、台所作業は楽になると思うわ」
フィルランカの話を聞いて、ジューネスティーンは、疑問を感じたみたいだが、カインクムは、難しい顔をする。
「フィルランカさん、面白いアイデアですね。 でも、ご自分で水の量を調整できるのだから、今更、水瓶にそんな魔法紋を付けなくても問題無いのではないですか?」
フィルランカは、水魔法を制御して使う事ができるようになったから、そんな水瓶など無くても不要のように思えたのだ。
「ええ、私は、それでも構いませんけど、お隣の道具屋さん、シュンクンさんのお店に居る亜人さん、リルキーシャさんなんですけど、彼女はウサギ系の亜人さんですから、背が低いじゃないですか。 水を運ぶのが重労働だって、ぼやいていたので、プレゼントしようかと思ったんです。 お台所での作業って、結構お水を使いますから、水はよく使いますし、魔法紋で水瓶に水が貯まるなら、大変便利になると思ったんですよ」
それを聞いて、ジューネスティーンもメンバー達も、フィルランカが優しい人なんだなと思ったようだ。
だが、カインクムは、難しい顔をして考えていたのだが、今の話を聞いて、口を開いた。
「その話、面白いアイデアかもしれない。 ジュネスのにいちゃん、今ので、魔法紋を描く魔法を始めよう」
「分かりました」
ジューネスティーンは、カインクムが何かを閃いたように思えたが、それについて聞く事は無かった。
だが、カインクムは、何か思惑が有りそうだった。
結果として、魔法紋の付与については、カインクムとフィルランカの2人共が覚えたいということになり、全員で工房に入った。
工房に入ると、ジューネスティーンは、カミュルイアンとレィオーンパードに指示を出す。
「レオンと、カミューは、レオンのパワードスーツを、梱包箱から出して、作業台に並べておいてくれ。 胴体は、建具に掛けておいて構わない。 それと、アンジュは、2人を見ていてくれ。 手伝っても構わないけど、重い物は2人に任せるようにして、軽い物だけで構わない」
「わかったわ」
アンジュリーンは、直ぐに了解するが、レィオーンパードとカミュルイアンは、微妙な顔をする。
「「分かった」」
男子2人は、気のない返事をして、梱包箱の方に行く。
レィオーンパードとカミュルイアンは、レィオーンパードのパワードスーツを、組立易くするために準備を始めさせる。
だが、アンジュリーンは、その2人の側で、何やら、口うるさく色々と指示を出していた。
アリアリーシャは、特に何も指示が無かった事で、アンジュリーンと一緒に居るが、アンジュリーンのように、何か口に出すでもなく、2人の様子を見ているだけだった。
どうも、それが男子2人には分かっていたのか、さっきの気のない返事の原因のように感じる。




