魔法に対する誤解
カインクムは、工房で見た、シュレイノリアの魔法で魔法紋を描く方法を考えていた。
それを嫁である、フィルランカが使えるようになったらと考えると、カインクムは夢が広がるのだ。
リビングでお茶をすすりながら、カインクムがシュレイノリアに尋ねる。
「なぁ、魔法の嬢ちゃん。 さっきの魔法紋を描く魔法なんだが、あれって難しいのか」
カインクムは、嫁のフィルランカに魔法紋を付与する魔法を、覚えてもらえないかと、考えているのだ。
フィルランカは、水魔法を使える。
ただ、水を出す事ができるというだけで、それ以外の魔法は使えない。
だが、魔法適性が有るからフィルランカは使えるかもしれないのだ。
シュレイノリアからフィルランカが教えてもらって、魔法紋付与の魔法を覚えられなかったとしても、今と何ら生活は変わらない。
だが、もし覚える事が出来れば、それはカインクムにとっても、嫁のフィルランカにとっても、今後の生活水準に大きな変化をもたらす事になる。
その可能性をカインクムは感じて、シュレイノリアに頼んだのだ。
魔法紋が使えるようになると自分の作った装備に付与する魔法の費用が浮く。
魔法付与を装備に行う場合、魔法紋を描くが、簡単な方法は、インクで描く事になるが、擦れて模様の一部が消えてしまうと、効果が無くなってしまうので、一般的には、スクロールに描かれている魔法紋を装備に焼き付ける方法と、装備に軽く傷をつけるように刻んで描く物になる。
スクロールで焼き付ける魔法紋は、その魔法紋のスクロールを購入して、スクロールの魔法で焼き付けるのだが、装備1つにスクロール1枚が必要になる。
簡単ではあるが、スクロールを作ることができない人は、高額で購入する必要がある。
また、スクロールを作れるとしても、魔法紋を描く高額な羊皮紙が必要となる。
スクロールを購入するより、羊皮紙を購入する方が、はるかに安いが、羊皮紙の供給量を考えると、一般人が、そう簡単に買えるような金額ではない。
また、魔法紋を刻み込むには、時間と労力が必要となる。
その為、魔法付与の装備や武器は高額取引となる。
安物の剣に魔法付与するだけで、金額が跳ね上がる。
それを、いとも簡単にやってのけたシュレイノリアの魔法は、カインクムとしてみれば、いや、鍛冶屋であろうが、道具屋であろうが、喉から手が出る程、欲しがる物になる。
魔法適性の有るフィルランカが覚えてくれて、自分の作る剣や防具に魔法を付与してくれれば、魔法スクロールを購入する金額が浮く。
浮いた分の金額は、自分達の利益になるなら、その分をカインクムは、押しかけ女房であるフィルランカの為に使いたいと考えていたのだ。
カインクムは、シュレイノリアの魔法紋を付与する魔法について、使えた時の事を考えているのだろうが、それは、誰もがシュレイノリアの魔法を見れば思う事である。
シュレイノリアが、カインクムの質問に少し考えるが、直ぐに答える。
「それ程難しくは無い。 魔法適性が有れば簡単」
シュレイノリアは難しくないと言う。
しかも魔法適性があれば、簡単に魔法紋は描けると言っているのだ。
それを聞いて、カインクムは、フィルランカをチラリとみる。
フィルランカに、魔法紋を描く魔法を使える可能性が上がってきたと思うと、思わずフィルランカを見てしまったのだ。
カインクムは、可能性の上がった事に、自分の妄想が現実になると思った様子で、シュレイノリアに聞く。
「それ、本当なのか」
「魔法は、イメージ。 イメージすれば簡単」
シュレイノリアの説明があまりに簡単なので、少し驚くカインクムだが、イメージと聞いて、少し難しい顔をする。
「イメージって、魔法紋をイメージするだけで良いのか。 でも、魔法紋を覚えるのは結構しんどいな」
カインクムは、複雑な魔法紋の紋様を思い出してたのだろう。
魔法紋の紋様を、隅から隅までイメージとして、思い浮かべているのだろうが、見た事のある魔法紋を思い出しても、人の記憶というものは、意外に曖昧なイメージしか思い浮かばないのだから、カインクムは、難しそうだと首をひねる。
そのカインクムの考える様子を見て、シュレイノリアは、誰もが陥る間違いをしていると見抜いたのか、ジーッと、カインクムを物色するように見る。
それは、根本的な魔法についての解釈が、歪められて伝わっている事に気がついている、シュレイノリアやジューネスティーン達なら理解できる。
しかし、魔法適性がないと思っているカインクムなら、魔法は呪文が、そして、魔法紋ならその紋様が重要だと、勘違いしていると、直ぐに見抜いているのだろう。
カインクムが、難しい顔をした時点で、その事にジューネスティーン達も、気が付いていると言えよう。
「魔法紋を描くのでは無い。 状態をイメージする。 魔法紋は、魔法の実行される結果として魔法紋になるだけ。 魔法紋をイメージするのでは無い」
シュレイノリアの説明では有るが、淡々とポイントだけ説明するだけなので、その工程が見えてこない。
「魔法紋を描くのに、魔法紋をイメージしないって、どう言うことなんだ」
理解に苦しんでいるカインクムは、何の事なのかと、難しい顔をしてつぶやくように言葉を発した。
「魔法はイメージ。 魔法紋は、魔法の補助をするみたいなもの。 魔法のイメージを魔法紋として描くだけ。 だから、紋様は関係ない」
考え込むカインクム、シュレイノリアの言っている事が良く分かってないのだろう。
ますます分からない、そんな顔をする。




