アンジュリーンがパワードスーツから出る時
アンジュリーンは、少し赤い顔をして、惚けたような表情をしているので、アリアリーシャは不思議に思ったのだろう、なんでそんな顔をしているのか、収納魔法の中にパワードスーツをしまうと言うのに、動こうとしないアンジュリーンを不思議に思ったのだろう。
そんな顔をしているアンジュリーンにアリアリーシャは声をかけた。
「ねえ、アンジュ、何かあったのですか?」
アンジュリーンは、アリアリーシャの声に反応は無い。
変に思って、もう一度声をかける。
「アンジュゥ、何かあったのですか?」
すると、今度はアンジュリーンに反応が戻った。
アンジュリーンは、声の方向に視線を向けると、アリアリーシャが不思議そうに見ている視線と合う。
視線が合うと、アンジュリーンは慌て出した。
「えっ、何? 何かあった?」
その反応を不思議そうにアリアリーシャは見る。
「何かあったの? じゃないですぅ。 何かあったは、アンジュの方ですぅ。 何、惚けているんですか? パワードスーツを収納しますから、少し下がります」
そう言われて、アンジュリーンは、状況が掴めたようだ。
「あ、ああ、収納ね。 収納」
そう言って、後ろに後ずさるように下がる。
周りを確認したシュレイノリアが、パワードスーツを収納魔法の中に収めると、アンジュリーンがジューネスティーンに話しかけてくる。
「ねえ、外に出る時は誰かが補助しないと出れないのは、ちょっと面倒よ。 何とかならないの? 今は、アリーシャ姉さんだったから、私でも大丈夫だったけど、私もシュレも姉さん程軽くないわよ」
南の王国では完全に組立た状態ではなく、部分部分のパーツ毎に体につけてパーツ毎の調整を行っただけだった。
今、初めて、完成体になったパワードスーツに入ってもらったのだ。
南の王国ではパーツ毎だったので、気が付かなかったが、アリアリーシャでも、腕だけで支えて足を引き抜くという、ジューネスティーンのような芸当は無理な話である。
体重が軽いが、やはり女子なので、腕力がそんなに強いわけではない。
そうなると、アンジュリーンの指摘は納得できる事なのだ。
それにシュレイノリアは魔法職なので、腕の筋力は、メンバー内では一番弱い。
一般的な女子よりは辛うじて有る程度なので、彼女を出す時は確実に介助が必要になる。
アンジュリーンの見た目は、人の16歳程度であり、まだ、成長期の女子といったところだ。
その程度の体重なら、簡単に支えることが自分には可能だと、ジューネスティーンは思っているのだろうが、アンジュリーンは、自分がパワードスーツから出る時の事を考えると、誰が介助するのか気になるところなのだろう。
ジューネスティーンは、少し考えると、直ぐに結論が出たのか、アンジュリーンに話す。
「だったら、その時は俺が出してあげるよ」
ジューネスティーンは普通に言う。
アンジュリーンは、今自分がアリアリーシャにした事を、ジューネスティーンが自分にした時の事を考えたのか、今の話を聞いて顔を赤くした。
(えっ、わっ、私がパワードスーツから出る時は、ジューネスティーンに脇を両手でもたれて持ち上げられるの? さっき、アリーシャの胸に触ったわよ、私。 えっ、私の手のひらよりジュネスの手の方が大きわよ。 そんな手で、私の脇を持たれるって事? それに腰骨のところを持つのよ。 ジュネスに私、腰を持たれるの? 冗談でしょ)
アンジュリーンは、自分がパワードスーツから出る時の事を想像して、顔を赤くする。
そして、両手で胸を抱くようにして体を引きながら、耳まで赤くして答える。
「え、シュレじゃないんだから、私の、あんなところを、あんたに持たせるなんて、できる分けないでしょ」
ジューネスティーンはキョトンとした顔で、何で駄目なんだという顔で答える。
「そうかぁ。 アンジュは軽そうだから、簡単に持ち上げられると思ったんだけどな」
そのジューネスティーンの態度に、イラつくアンジュリーンは、少し顔を引き攣らせる。
「あんたって人はぁ〜っ」
2人の会話を聞いていたカミュルイアンも、それは少しやり過ぎだと思ったのか、2人の会話に入ってくる。
「にいちゃんは、シュレといつも一緒だから、感覚が男じゃないよね」
「そうだね。 姉妹感覚で話してるよね」
レィオーンパードも追随する。
おそらく、2人の男子には、アンジュリーンの考えている事が理解できたのだろうが、ジューネスティーンには、アンジュリーンの考えている事が、わからなかったのだろう。
「いや、そんなつもりは無かったんだけど、子供なんだから別に構わないと思ったんだ」
そのジューネスティーンの発言に、アンジュリーンはムッとする。
アンジュリーンは、見た目は人の16歳位に見えるがエルフ属は長命な為、成長も人種に比べると遥かに遅い。
実年齢は、40代半ばの44歳なのだが、エルフの性質上いまだに成長期である。
アンジュリーンとカミュルイアンも転移者では有るが、その成長がゆっくりな為に、年齢的にギルド高等学校に入学できる年齢に達しても、幼稚園児か小学生低学年程度の体なので、体力的に付いて行けないとの事で、20年程を始まりの村で過ごしていた。
転移後、20年が過ぎて、体力的にギリギリ付いていけると判断されたので、やっとギルドの高等学校に入学資格が有るとされたのだが、ジューネスティーン達のように特待生として学費免除、寮費免除とはならなかった。
当時は幼児体型だった事もあり、始まりの村周辺では、それ程の稼ぎを得る事が出来なかった事もあり、冒険者として生計を立てることもできてなかった。
始まりの村周辺の狩場は、良い所は、別の冒険者に抑えられているので、なかなか、割り込むことができない。
やっと、その頃から本格的な狩が出来るようになったのだが、始まりの村周辺では学費を貯める事が出来ないと判断した2人は、学費を貯める為に活動拠点を移して活動を開始している。
当時32歳のアンジュリーンとカミュルイアンは、見た目は、人の13歳程度だったのだが、20年間、それなりに、技や技術は向上していたので、活動の場所を王都のギルドに移している。
ちょうど、ジューネスティーン達と入れ替わりに移動しているのだ。
その甲斐あって10年掛けて、学費を稼ぐ事ができた。
そんなアンジュリーンを、ジューネスティーンは子供扱いしたのだ。
「あんたは、何で私が子供って言えるのよ」
イラッとしたアンジュリーンは、頭に血が上った。
さっきまで頬が赤かったのだが、今度は、その赤い場所が上に上がってしまって、今は目の周りと額が赤くなっている。
そんなアンジュリーンにジューネスティーンは、何食わぬ顔で答える。
「だって、体型的には子供だろ。 その証拠に、胸無いし」
その発言に、カミュルイアンとレィオーンパードは、不味いと思ったのだろう、2人は最初にその場所から逃げた。
アリアリーシャは、アンジュリーンがジューネスティーンの方に向かおうとするので慌てて、背中から手を回してアンジュリーンを抑える。
「ジュネス〜ゥ。 お前ってやつはぁ!」
鬼の形相でジューネスティーンを睨みつけて、何発か殴ってやると、アンジュリーンの表情から窺える。
それにアリアリーシャに腕を回されて抑えられている事に気がついてない。
アンジュリーンの背中には、大人と子供の違いのようなものが当たっている事に気がついてない。




