魔法紋付与の魔法 〜カインクムの妄想〜
カインクムは、嬉しそうにしている。
魔法紋を描く魔法を見て、その方法をフィルランカに伝授してもらえれば、フィルランカに魔法紋を担当してもらうことで、自分の武器や装備が魔法付与のものになるのだ。
今まで、高額な魔法紋付与を外注していたのだが、フィルランカが、魔法紋付与をできるようになったら、その費用が浮いてくる。
普通の武器に魔法紋付与を行うとなれば、武器と同額の費用は、最低でも請求される。
それが、自分の身内ができる事になったら、魔法紋付与の費用が大きく浮いてくるのだ。
また、武器や装備については、相場というものがある。
無闇矢鱈に価格を下げる事は、自分の所属している組合からつけ上げられる事にもなるので、無闇に価格を下げて販売することはできない。
お祭りの際に、割引価格として販売する等は、黙認されるが、店先で販売している剣や防具が、格安になってしまうと、暴落する事もあるので、そう簡単に値札を安くする事はできないのだ。
そうなると、身内で魔法紋付与ができるとなれば、一般的な価格として販売する事になるので、店としての利益は大きくなる。
カインクムは、今の物を軽くする魔法紋も、フィルランカに覚えてもらおうかと考えているのか、なんだか、嬉しそうにしている。
(これで、フィルランカも一緒に工房に入って仕事ができる事になるだろう。 ……。 そうなると、店番を誰かにお願いする必要があるのか。 いや、今の魔法紋付与を見たら、一瞬だった。 だったら、フィルランカも一瞬で魔法紋を刻めるのだったら、店番の片手間で、出来るかもしれないのか)
カインクムの妄想は、どんどん膨れ上がっているようだ。
ジューネスティーンは、カインクムの台車に描いた魔法紋がひと段落すると、何か考えているようだ。
考えがまとまったのか、シュレイノリアを見ると話しかける。
「なあ、シュレ。 うちの馬車に、その魔法紋を付ければ、帝国への旅は、もっと楽だったんじゃ無いのか」
「あっ!」
シュレイノリアは、ジューネスティーンに指摘されると、声を上げた。
その反応は、完全に頭になかったという証拠だろう。
そして、何かを察したのか、少し嫌そうな顔をする。
「地竜さん、可哀想。 もっと早く気がついていたら、帝国への旅も楽だったでしょうに」
気が付いてなかったシュレイノリアに、アンジュリーンが、ツッコミを入れた。
それを聞いて、シュレイノリアは、がっかりした様子を見せた。
アンジュリーンは、そんな事をしなければ、美人のエルフで、人気も高かったのだろうが、その無意識に言ってしまう一言が、学生時代でも、周りから敬遠されていた原因の一つなのだが、当人は気が付いてないみたいだ。
その突っ込みにシュレイノリアは、反省するように答える。
「すまない。 後で、地竜に謝る。 好物のアップルパイを差し入れておく」
その発言に、アンジュリーンは、不思議なことをシュレイノリアは、知っていると思ったのか、感心している。
「ふーん。 って、あの地竜、アップルパイなんて食べるんかい」
地竜は、草食動物だと一般的には知られている。
だが、その地流がアップルパイを食べると聞いて、感心してから、またツッコミを入れる。
そんなアンジュリーンに、シュレイノリアは平然と答える。
「あの地竜は、甘い物大好き。 王国で、少し仕入れて収納しておいた。 時々、渡してあげると、喜んで食べてくれた」
その2人の話を聞いていたアリアリーシャは、今までの事を思い出したように、2人の会話に入ってくる。
「それで、あの地竜さんは、シュレさんと仲が良かったのですねぇ」
南の王国から、帝国への旅の途中で、妙に地竜が、シュレイノリアに懐いていたのを、不思議に思っていたのだろう。
アリアリーシャは、納得したような口ぶりで話した。
そんな話を聞いていると、ジューネスティーンもシュレイノリアに話しかける。
「お前は、動物と相性が良いんだな。 人とは上手くコミュニケーション取れてないけど」
シュレイノリアは、それを聞いて、後の言葉は不要だと言うように、ジューネスティーンを睨む。
また、ジューネスティーンの脇腹に、シュレイノリアのロットが、入るのかと思ったのだが、それは、工房のドアが開いて、フィルランカが入ってきた事で、シュレイノリアの意識がそっちに向かった事で、不発に終わった。




