表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

523/1356

魔法紋の付与


 カインクムは、ジューネスティーンとシュレイノリアの、気分の変わらないうちに、早く済ませておこうと思ったのか、直ぐに話しかけた。


「この台車に、その魔法を付けてくれ」


 シュレイノリアは、持って来てくれた台車を裏返して、何かを確認している。


 おそらく、魔法紋を描けるか確認しているのだろう。


 一通り確認すると、カインクムとジューネスティーンの顔を交互に見ると、カインクムに答える。


「大丈夫。 いける」


 そう答えると、シュレイノリアが直ぐに魔法紋を描こうとしているので、そんなに直ぐにできるかと、ジューネスティーンは不安になった様子で、シュレイノリアに尋ねる。


「そんなに簡単に、術式の構築できるのか」


 ジューネスティーンの不安そうな質問に、シュレイノリアは余裕の表情で答える。


「問題無い、ホバーボードの魔法紋の、“失敗作” の中に、軽くするだけのものが有る。 それをここに付与する」


 シュレイノリアは、失敗作を強調した。


 この世界に無い、物を軽くする魔法なら、これだけでも、引く手数多な魔法と言えるのだが、パワードスーツに使うホバーボードなら、その魔法だけでは不足なのだが、それをシュレイノリアは、失敗作と言ったのだ。


 シュレイノリアは、ロットを台車に近付ける。


 すると、代車の中央に5mm程の円ができる。


 台車の裏に魔法紋ができると、シュレイノリアは、カインクムを見るとニヤリとする。


「出来た。 試しに、アリーシャ姉さんが乗ってみる」


 台車の魔法紋が有効なのかを、証明する必要が有ると、シュレイノリアは考えたのだろう、パワードスーツを着けている、現在のアリアリーシャなら、約120kgある。


 それを乗せた台車なら、証明できると考えたのだ。


 直ぐ近くにアリアリーシャが、パワードスーツを着けたまま立っていたので、実験に丁度良いと思い声を掛けたのだが、アリアリーシャは少し不安そうな顔をする。


 アリアリーシャとすれば、パワードスーツを着けている重量が、本当に、この台車の積載重量を超えてしまうのでは無いかと心配しているのだろう。


 台車を見たり、シュレイノリアを見たり、ジューネスティーンを見たりしている。


 だが、誰を見ても、その表情は、さっさと乗れと、言っているように見える。


 アリアリーシャは、周りの雰囲気に負けると、パワードスーツを着けたまま、恐る恐る、台車に後ろ向きに乗ると、台車の後ろに有る取手を握る。


「ちょっと、グラグラしますぅ」


「じゃぁ、試してみる」


 シュレイノリアは、片手で軽く台車を押すと、スムーズに動き出す。


 その瞬間、アリアリーシャの顔が引き攣った。


 パワードスーツを着たアリアリーシャなら、約120kgが乗っているのだが、空荷の状態のように動く。


「きゃっ、ちょっと!」


 慌てて、アリアリーシャが、バランスを取るのだが、無理と思い、後ろの取手を掴む手に、力が入ったようだ。


「姉さん。 台車の取手、壊さないようにね」


 アリアリーシャの様子を見て、ジューネスティーンが、呑気に注意する。


 そんな、ジューネスティーンの言葉に構う事なく、シュレイノリアが、片手で軽く台車を動かしているのを、カインクムは見て、先程の組立で、パワードスーツの重さも分かっているので、台車に乗っているからといって、簡単に動かせる代物ではない事は、分かっているのだろう。


 その動きを見て、顔を顰めている。


 それだけの重量物が乗った台車なら、少し腰を入れて押さないと動かないし、台車の車輪の軋む音が聞こえる事を、長年の経験から分かっているので、カインクムは、自分でも、どの程度なのかを確認せずにはいられなくなる。


「おおぉ。 ちょっと俺にも」


 そう言って、カインクムは、シュレイノリアから台車を奪いとって、そのまま台車を押して、工房の中をグルグル回り出す。


「こりゃぁ、いい。 これだけの重量物でも問題無い。 これは、いい」


 喜ぶカインクムだが、台車に乗せられたアリアリーシャは、屁っ放り腰で、代車の取手につかまている。


 アリアリーシャは、流石に自分の意思で動けない事が不安なのだろう、その恐怖が限界にきたようだ。


「怖いですぅ。 早くおろしてくださいぃ。 それとぉ、私を重い物のように言わないで下さい」


 慌てて、止めると、アリアリーシャが、台車がとまった瞬間、慌てて降りる。


「自分で制御出来ないから、怖かったですぅ」


 少し涙目で言うので、相当に怖かったのだろう。


 それを見て、少し調子に乗り過ぎたと、カインクムは思ったのか、アリアリーシャに詫びを入れる。


「いやいや、ウサギの嬢ちゃん、すまんかった。 あまりに軽かったので嬉しくてな。 それと、魔法使いの嬢ちゃん、ありがとうな。 これで、作業が楽になる。 それにあんちゃんもありがとう」


 これから先の、重量物を移動させる時の事を考えると、作業が楽になると、カインクムは喜んでいる。


「私は、“失敗作” の魔法紋を付与しただけ」


 シュレイノリアは、あっけらかんと言い放つ。


「だそうです。 失敗作が役立ったみたいです」


 やれやれといった感じで、ジューネスティーンは、カインクムに言うのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ