パワードスーツの組み立て方
魔法紋の描き方を教えてもらう約束を取り付けたので、最初に組立てるパワードスーツのパーツの入った木箱を、工房の中央の作業台の脇に持ってくる。
作業台の脇に2体置いてあった、パワードスーツ組立用の建具は、アリアリーシャのものを残して、もう一方は壁際に片付けると、ジューネスティーンは、カインクムに話しかける。
「組立は、カインクムさんにお願いします。 組立方法を言葉で指示しますから、その順番で組み立てて下さい。 その際に手が必要な時は、自分達がサポートします」
一般的な教え方としては、1台のパワードスーツを組むところを見せて、もう一台をカインクムに組み立ててもらうのだろうが、ジューネスティーンは、そうでは無く最初からカインクムに組み立ててもらうという。
その事にカインクムは驚いた。
自分が覚えた鍛治の時とは全く違う方法なので、驚いているのだ。
もし、ジューネスティーンが上手く説明できないということなら、一度ジューネスティーンが組み立てるのを見せてから、もう一台を組み立てさせた方が良い。
しかし、自分が設計して3台のパワードスーツを組み立てて完成させており、その組み立て方法を熟知しているのだ。
また、南の王国に居た時にパーツの加工から、寸法合わせの時に一度組み立てているので、的確な指示ができる。
ジューネスティーンの説明力なら、素人同然のカインクムでも組み立てができると、判断しているのだろう。
また、組立作業を早く覚えさせるために、作業の手順を覚えてもらうのなら、1度でも多く組み立ててもらった方が良い。
組み立てた後に分解して、また、組み立てる方法もあるが、それでは時間的に、今日一日で2台のパワードスーツを、組み立てる事はできないと、ジューネスティーンは考えているだろう。
なお、口で説明して他人に組立させる方法が出来るのは、その物の特性や性質について熟知しており、完成後の形もイメージできて、問題になりそうな部分やコツがいるところまで分かっていなければならない。
ジューネスティーンには、その辺も熟知しているから出来ると判断しているのだろう。
理解できてないことを説明することは人には不可能である。
また、その人の作業の熟練度を計るためには、この様に初めて作業をする人に口だけで説明させて、その説明の内容が良いのか悪いのかを聞くことで分かる。
初めて作業をする方としても、ただ、作業をするのではなく、解説付きで組み立てられることで、1回分の作業を行うことができるので、経験値を稼ぐには都合が良い方法と言える。
その組立の指示を聞いて、自分が組み立てるという話を聞いて、カインクムは戸惑う。
「おい、お前が中心に組立てるんじゃ無いのか? 一度、組立作業を見て覚えると思っていたんだが」
自分の経験の中には無かった方法なので、少し戸惑っているのだ。
職人の世界では師匠が行う作業を何度も目で見て覚えたのだ。
槌のふるい方、力加減等、師匠が口で説明する事は無い。
師匠が作るものを見て弟子は覚える。
そして、師匠に言われるがまま槌をふるう。
そのふるい方を見て師匠はどの程度の腕になったのかを判断する。
その為、弟子入りしても全く芽が出ず諦めて辞めていく弟子もいる。
師匠は、才能のある弟子には声をかけるが、才能無しと判断された弟子には声もかけないどころか目も合わせない。
そんな兄弟子や弟弟子を何人も見てきたのだから、ジューネスティーンの話にカインクムは驚いた。
教えるのではなく、見て覚えるのが当たり前の世界に居たカインクムにとって、口で説明するから作ってみろと言われて、師弟関係の教え方とは異なるので、戸惑いを覚えたのだ。
カインクムが、少し戸惑っているのを見て、ジューネスティーンは、カインクムの様な、師匠と弟子の様な、教え方でも良いかとも思うのだが、その方法だと、一度で覚えられる可能性は、低いと考えているのだろう。
ジューネスティーンの様に、何度も組み立てた経験があるなら、それでも良いかもしれないが、パワードスーツの様な機械的な部分が多い物を、組み立てた経験が無いと思われるカインクムでは、見ただけでは難しいかもしれないと考えていたのだ。
それなら、フルメタルアーマーの組み立ての経験が有るなら、最初から自分が説明しながらカインクムに組み立ててもらって、ポイントになる部分を説明していった方が、カインクムの経験値になると判断したと見える。
また、何も知らないというのは、教える側としても好都合なのである。
何も知らない人に言葉だけで教えると、自分では気がつかなかった点を逆に指摘してくれる事がある。
相手に手順を説明して、相手の手を動かさせて組み立てた時、自分では当たり前と思っていた部分でも、初めて見る人には、新鮮に見える。
そんな目線で見てもらった時に、自分の気が付いてない部分を、指摘してもらえる事もあるのだ。
玄人の考え方で、素人の手を使って作業をさせることのメリットはその辺にある。
「それでも構わないのですが、もう直ぐ、王国で残り3台も組立前まで完成します。 それについては、全面的に、お願いする事になることもあると思いますので、今回は可能な限りご主人に組立を覚えてもらう為にお願いします。 少しでもパワードスーツに触れて組み立てた方が、習得できると思いますから、今日はその方法でお願いします」
やれやれと言った感じで、カインクムが答える。
「あんちゃん、案外、人使い荒いな。 まぁ、分かった。 なんなりと言ってくれ、あんちゃんの言った通りに組み立ててやる」
「よろしくお願いします」
そう言ってジューネスティーンは、微笑んだ。




