制御
力というものは、制御されて、初めて使い物になる。
人類が最初に火を使い出した事から始まって、現在では、核エネルギーを使うまでに至っている。
ただ、大きすぎる力というのは、制御を間違うと、使う側に大きな代償を払わす事になる。
何も制御を考えなければ、爆弾となり、制御をしていても、誤った使い方や、想定外の災害によって制御を失ってしまうこともある。
力が大きくなったらそれを抑制するブレーキが必要となる。
自動車においても、どれだけ高速運転できるとしても、ブレーキが無ければ交通事故を起こしてしまうもこともある。
それは、権力の様なものにも言える。
大きな力を持った、大ツ・バール帝国においては、自国の権力を使う事によって、より大きな権力を持とうとしている。
ただ、どんな力であっても、制御しきれて無かろうと、その力を凌駕する力と出会えば必ず負ける。
権力を持ったという事は、それを抑えること、力の誘惑に負けないこと、その事を自覚しなければならないのだ。
しかし、大ツ・バール帝国の覇権の拡張は続いている。
どんな力でも力を持つということは、それを抑制する為の、ブレーキも兼ね備えていなければ、大きな事故になってしまう。
パワードスーツにおいても、力を制御する必要がある。
中に入っているのは、生身の人なのだから、人の動きに合わせて動かなければ意味はない。
強力すぎる力を、そのまま使ってしまっては、中にいる人に跳ね返ってくる。
完全な人の動きの模倣は、パワードスーツでは不可能なため、例えば、無理矢理、正座をさせたとすると、外装骨格が中の人の、腰や膝を破壊してしまう事になる。
力というものは、条件の中で最大限の力を行使する。
それは、仕様の範囲内、パーツの性能の範囲内、安全規格の範囲内といった物作りの基本的なこととなる。
シュレイノリアは、カインクムに制御について話をする。
「そう、無制限に魔法を発動したら、パワードスーツでは無く、人の形をした弾丸になってしまう。 そんな状態で突進したら、その反動は中の人に跳ね返ってくる」
そこまで話すと、シュレイノリアは考えながら、工房の中を見渡す。
何か良い例えるものがあるか探すように、周囲を見渡すと、鍛治用の、ふいこを見て、顔付きが変わり、話し始める。
「鍛治の炎にしても、必要以上に温度を上げてしまったら、鉄も溶けてドロドロの液体になってしまう。 叩くのに丁度良い温度にするのと似ている」
それを聞いて、カインクムも考え始めるように、顎に手を当てた。
(鍛治の時の、鉄の温度を調べた事はないが、昔から鉄の色で判断していた。 もし、この嬢ちゃんのいう通りなら、叩くときの温度は、いつも一定なのかもしれんな)
その制御の話に、ジューネスティーンが入る様に寄ってきた。
ジューネスティーンも、制御に関する事に付いては、カインクムと、早い段階でしっかり話をした方が良いと思っていたのだろう。
丁度良いと思ったのか、2人の会話に入ってきた。
「カインクムさん、これは人が入って、人と同じ動きに、ついていかなければならないので、かなり複雑な制御プログラムになったんです。 人が移動する時って考えてみて下さい」
何を言っているんだと思った様な顔で、カインクムが答える。
「それなら、歩いてとか、走ってとかになる」
ごくごく、当たり前の事を答える。
人は、空を飛んで、移動することは出来ないのだから、歩くか、走るか、または、乗り物に乗って移動になる。
「移動はそうですけど、目的地に着いたら、止まりますね」
「あぁ、そうだ。 止まらなければ、目的地を通り過ぎてしまう」
何を当たり前のことを言うのだという顔するカインクムに、ジューネスティーンは説明を続ける。
「そう、止まらなければ、目的地を通り越してしまう。 だから、目的地に辿り着くには、力を制御して、止まる事も考える必要が有るんです。 今日の外部装甲の魔法紋は、単純な魔法構造ですけど、本体の方の、魔法紋には、動きに対する魔法と、防御に関する魔法を付与してます。 そこにある、足に付ける第二装甲板は、二重構造になっているんです。 外側が防御に関する魔法紋を描いて、内側は風魔法の魔法紋を描きます。 風魔法については、魔法発動時の発熱を放熱させる事も考えてあるので、風魔法の魔法紋は、移動・放熱についての術式が入ってます」
成る程と言って、カインクムは考え込んだ。
(風が弱い時なら、歩いていても風の影響は無いが、強風の時に歩くとなると、風の影響をもろに受ける。 それが、前からの風であれば、吹き飛ばされない様に前に傾斜を付けて歩く事になる。 必要以上の力は不要というわけか)
風の強い日に、外に出るのは、そんな感じになる事を思い出したのだ。
(魔法紋が無制限に風を送ったら、風魔法は、基本的には攻撃魔法の方が多い。 強すぎる風魔法では自分の体の周りを風が強く吹いているのだろうから、歩くのも大変になる。 そうなると、必要以上に風を起こす必要が無い。 それなら通常の魔法の様な使い方にするのではなく、必要な量の風を起こす。 それが制御なのか)
カインクムは、制御を、その様な形で理解する。




