ジュネスの剣
カインクムは、信じられないという表情をした。
それは、鬼気迫るような表情で、剣を見ていたのだが、その表情のまま、ジューネスティーンを見た。
「この剣は何だ」
そのカインクムの剣幕にを見て、ジューネスティーンは、何でカインクムがそんな表情になったのか、理解できずにいた。
そして、何と答えて良いのかと思ったのか、質問の意味が理解してない様子でカインクムを見た。
「それは、私の短剣です」
当たり前の事を答えるジューネスティーンなのだが、それを聞いて、カインクムは、イラっとした表情をした。
そして、ジューネスティーンの答えを聞いて、メンバーの女子達は、答えの内容が違うと分かっているので、それぞれが、イラついたような表情を浮かべていた。
3人には、カインクムが聞きたい事が分かってしまっているので、心の中で何かを囁いているように思ったようだ。
(このバカ、そんな事を聞いているんじゃ無い。 エルメアーナの時の事覚えてないのか。 この反応、あの時と一緒じゃん。 学習しろ)
特に現場に居たアンジュリーンの表情ば、ジューネスティーンを貶すような表情で、一瞬ジロリとジューネスティーンを見た。
また、その時の話をアンジュリーンから詳しく聞いていたアリアリーシャも、ため息を吐いていた。
そして、自分の亭主の剣幕にオドロオドロしているフィルランカがいるのだが、その事も目に入らないカインクムがジューネスティーンを睨んでいた。
「そんな事を聞いているんじゃ無い。 何で、この剣は刃こぼれもしてないんだ。 さっき俺が無茶な切り方をしたのに何で、……。 何で、何とも無いんだ! あんちゃんには付与魔法が適用されるが、俺には適用されない。 そうなれば俺は普通の剣でこの金属の棒を切ったんだぞ、普通なら刃こぼれか傷が付いてもおかしくは無い! それなのにこの剣は何で何もなってないんだ!」
状況が理解出来たジューネスティーンが、納得するような顔つきで、カインクムの質問に答えるのだ。
「あぁ、それなら、ヤイバの部分の強度が硬くて、内部は柔らかくなっているんですよ。 切る為には硬い方が良いのですが、それだと折れやすくなってしまいます。 逆に柔らかいと曲がり易くなりますので、柔らかい素材に硬い素材で覆うように作っているんです」
カインクムは初めて聞く剣の素材の事に驚いた。
「それだけでは無いだろう。 もっと何か色々あるだろう、そうじゃなければこんな剣は作れない」
それだけでは納得出来ないと、カインクムが更に質問してきたので、もう少し説明が必要なのだと感じたのかジューネスティーンは話を続ける。
「素材は鉄なんですけど、若干、別の素材が含まれてます。 って、一旦、その短剣を鞘に収めませんか。 奥さんが怖がってますので。 ハイ」
我にかえるカインクムが、周りを見ると、青い顔をしたフィルランカと目が合い、そして、やっちまったといった顔をしているアンジュリーンとアリアリーシャ、そんな事よりお茶菓子を頬張るカミュルイアンとレィオーンパードに目がいく。
視線を感じたレィオーンパードがカインクムを見る。
「?」
何かあったのかと思うが、どうでも良いと思い、また、お茶菓子を口に頬張りながら、何もなかったように気にせずにお茶菓子を食べ続ける。
そして、カインクムは剣を鞘に収めると、フィルランカは、ホッとため息を吐いた。
「すまんかった、兄ちゃん」
苦笑いのジューネスティーンが、エルメアーナと初めて話をした時の事を思い出したのだろう。
アンジュリーンやアリアリーシャの反応を見ていて、その時の事を思い出したようだ。
「いえいえ、もう慣れました。 その剣を見たエルメアーナも同じような感じになりますから」
「そう、エルメアーナの時、すごかった」
ジューネスティーンの言葉に反応して、シュレイノリアがカインクムの娘の事を言った。
アンジュリーンは、パンツ丸出しで馬乗りになってジューネスティーンに剣について迫ったエルメアーナを思い出したのだろう、思わずつぶやくように言葉にする。
「さすが、親子」
アンジュリーンは、エルメアーナがジューネスティーンの剣を見た時の事を思い出して、思わずポロリと声に出してしまったようだ。
「行動パターン、一緒」
そのアンジュリーンの反応に、シュレイノリアが更に呟いた。
その2人の言葉は、カインクムにもフィルランカにも聞こえたようだ。
フィルランカは、それだけで何かを察した様子で、ぴくりと頬を引き攣らせた。
それは、カインクムも同様だったのか、神妙な表情をした。
2人は、娘のエルメアーナが何かしたのだと予想がついたようだ。
そしてカインクムは、気まずそうにジューネスティーンに罰の悪そうな顔を向けた。
「あんちゃん、親子共々、迷惑を掛けたみたいだな。 本当にすまない」
そう言って頭を下げるカインクムなのだが、そんな事はないような顔をしたジューネスティーンは答える。
「気にしてませんから、お気になさらないで下さい」
恐縮したように言うとジューネスティーンは剣の説明を始めるのだった。




