パワードスーツのセキュリティー
この大陸で、魔法に関する内容は、南の王国にあるギルド本部が、一番進んでいると言われている。
そんな中、ギルドの高等学校の教授陣でも、理解出来ない魔法を、シュレイノリアが開発していたのだ。
そのため、パワードスーツの魔法紋が、帝国に渡ったとしても、それを、まともに使いこなせるようになるには、相当な時間を要すると考えられるのだ。
そんな事もあり、ジューネスティーンは、自分達の技術が盗まれたとしても、それを活用できる人が居ないだろうと思っていたのだ。
だが、技術というのは、そこにサンプルが有れば、それを見て研究し、同じ物を開発する事も可能となる。
それが、開発段階のサンプルが有れば、発展の経過を見ることで、基本コンセプトも見えてくるのだ。
「そうでしたか。 まぁ、確かにそうなのですけど、多分、ギルド本部でも、同じ事を考えていると思いますが、ギルド本部では、これ以上の性能を出す事は無理だと思います」
ジューネスティーンは、平然と言うが、ギルドが本気で各パーツ毎に調査をし、資金を注ぎ込んできたら、ジューネスティーンの、パワードスーツ以上の性能のものを、作ってしまうのではないのかと、カインクムは考えているのだ。
「何故、そう言い切れる」
カインクムは、ジューネスティーンの考えていたことを、具現化した、プロトタイプのパワードスーツには、開発段階の問題点を見つけたりしたのだから、1号機と2号機の違いから、かなりのノウハウが流れると考えたのだ。
カインクムは、今の自分のパワードスーツ以上の性能を、ギルドが出せないと言ったので、その理由をジューネスティーンに尋ねた。
「今の魔法では、シュレを超える魔法紋を開発できないから、見様見真似で作ったとしても、まともに動かせる物は作り出せないと思います。 特に魔法紋には、ギルドも知らない魔法紋になってます。 ベアリングの精度と同様に、魔法紋を描く時には、特別な方法を取っております。 そのノウハウを知らなければ、パワードスーツでは無く、ただの魔法付与したフルプレートアーマーになってしまいますので、強力な動きをすることは出来ません。 むしろ、重量が増した分動きが鈍くなってしまい、攻撃する事は出来なくなるでしょう」
ジューネスティーンは、そう言うと、フィルランカに向いた。
「奥さん、すみませんが、水を一杯もらえませんか」
カインクムとの会話をしていたジューネスティーンが、突然、フィルランカに話しかけてきたので、フィルランカは、少し慌てたような表情をしたが、頼まれたものが、水を一杯だったので、それなら問題無いと思った様子で、立ち上がった。
「今、台所から取ってきますね」
そう言うと、奥の方に入って行った。
戻ってきたフィルランカは、水差しと水の入ったコップを、トレーに乗せて持ってきた。
トレイーから水の入ったコップを、ジューネスティーンの前に置くと、その横に水差しも置いた。
フィルランカは、念の為、水も用意して戻ってきたのだ。
「ありがとうございます」
ジューネスティーンは、フィルランカにお礼を言うと、コップの水に人差し指を入れて濡らすと、その指でテーブルに円を描いた。
「魔法紋の基本は、円と線による図形が基本です。 ここに描いた円にも魔法の効果を乗せれば、効果は変わってきます」
そう言って指を鳴らす。
するとテーブルに描いた円の水が沸騰し始めると、水は蒸発して、テーブルの濡れた部分は乾いてしまった。
「おったまげた、あんちゃんの魔法も大したもんだ」
一般的な魔法は、詠唱が必要なのだが、ジューネスティーンは、指を鳴らすだけで魔法を発動させてしまったのだ。
フィルランカは、簡単な水魔法を使うので、その様子をカインクムも見たことがあるが、詠唱して水を出していたので、ジューネスティーンが指を鳴らすだけで魔法を発動してしまったので驚いたのだ。
「まぁ、手品みたいなもんなのですが、魔法紋を見て同じ物を描いても同じ効果が出ないようにしてあるので、見ただけではコピーする事は出来ないようになっております」
「じゃぁ、盗まれたらどうなる」
カインクムは、魔法のスクロールのように誰でも使えるものを思いついたのだ。
魔法紋なら一般人でも使うことが可能なので、それを盗まれたら、勝手に使われるのでは無いかと思ったのだ。
カインクムの思う事は、ジューネスティーン達には、納得できる事ではあるが、それについても対応策が有ったのだ。
「それも問題有りません。 同じ魔法でも、人によって微妙に違いが出るのですが、それは、自分の持つ魔力量によると考えられてます。 でも、それだけでは説明のつかない事が色々と有ったんです。 それで、行き着いた結論が、人の魔力には、波長とか周期とか、色々な要素が含まれているみたいなのです」
ジューネスティーンは、そこまで言うと、少し考えるような表情をした。
自分の言っている内容に、専門用語が含まれている事に気がつき、それを、簡単に説明する単語を探しているのだ。
しかし、それは、直ぐに見つかったようだ。
「人の声が、それぞれ違うみたいな感じですね。 それが同じでなければ、自分のパワードスーツを盗んでも、使う事は出来ないでしょう。 学校に居た時や、ここのメンバーとか、色々な人で試してみたのですが、誰も動かすどころか、開くことも出来ませんでした」
カインクムは、それを聞いて本当なのかと思ったようだが、今まで見たものを考えたら、信じるしか無いと思ったようだ。
「なら、盗まれたとしても使われる事も、コピーする事も出来ないってことか」
「そうですね。 持ち主以外は、エントランスの飾り程度にしか価値は無いですね」
そう言って、ジューネスティーンは腰に付けている予備の短剣をテーブルの上に鞘ごと置いた。
ジューネスティーンが、テーブルの上に置いた剣を見て、メンバーの女性3人が微妙な顔をした。
3人には、その後の光景が目に浮かんだようだ。




