ジュネスの剣、エルメアーナの対応
そんなシュレイノリアの天然ボケのような発言と、それにイライラしているアリアリーシャをほっといて、アンジュリーンは、話を続ける。
「私にはよく分からなかったんですけど、その時、ジュネスが、剣の整備をエルメアーナに、お願いしにいったらしいですけど、ジュネスとは、話も出来なかったみたいだった様です。 それで、代わりにシュレに頼んでも、上手く伝わらなかったらしくて、ほとんど理解できてないんですよ。 シュレは、こんな話し方だから伝わらなかったらしくて、剣を持ち帰ってきたので、それで、私が説明にいったんです」
その時の話の中には、嫌な思い出でも有るのか、アンジュリーンは、少し嫌そうな顔をすると話を続ける。
「それで、私がジュネスの剣を持っていって、説明したんですけど、エルメアーナに、その剣を渡して、鞘から抜いた瞬間、顔つきが変わったとおもたら、いきなり大きな声で、奇声をあげたかと思ったら、“これお前が作ったのか!” って、すごい顔で聞くもんだから、表に居るジューネスティーンだと伝えた瞬間、店のカウンターを飛び越えて、表に居たジューネスティーンにすっとんっで行ったんです。 抜いた剣を持ったまま」
そこまで言うと、アンジュリーンは、凹んだような顔になる。
それをフィルランカは、何も言わずに聞いているのだが、アンジュリーンの顔色がコロコロと変わるのが面白いのか、じーっと、アンジュリーンの顔を見ては、顔色が変わるたびに、笑みをこぼしている。
「それで、“この剣はどうやって作った!”とかって言って、食ってかかってました。 不意を突かれて、思わず倒れたジューネスティーンの上に、馬乗りになって聞いてたの思い出すわぁ。 私も、エルメアーナの後を追ったら、ジュネスを襲う女かと思ったのか、シュレが凄い顔で、後ろから杖で叩こうとしていたのを、慌てて私が止めたんですよ」
もし、止めに入らなかった時の事を考えているのだろう、アンジュリーンは大きなため息をついた。
話を聞いていて、シュレイノリアも、その時のことを思い出したみたいだ。
「あれは、エルメアーナが悪い。 私は、ジュネスを助けようとしただけ。 それにエルメアーナはパンツ丸出しだった」
確かにシュレイノリアの指摘は、正しかったのだろう、アンジュリーンは頷いて、シュレイノリアの、話を肯定するような態度をとった。
「まぁ、巻きスカート履いていたエルメアーナだったし、重なり目も後ろだったから、倒れた男に馬乗りになってたなら、パンツも見えるでしょうね」
それを聞いてフィルランカが、堪えるような笑い声を出す。
「あの娘らしいですわ。 その状況が目に浮かびます」
エルメアーナの性格を考えたら、すごい剣だと思って、それ以外の事に、頭が回らなくなってしまったと思ったのだろう。
そんなフィルランカを見ると、また、アンジュリーンは、話を続ける。
「それで、その後、店の中で剣の素材がどうのとか、鍛造の方法とか、焼入れだとか、細かい事まで根掘り葉掘り聞いてたわ。 私とシュレが、店の中で、ずいぶん待たされ、た、……、わ」
アンジュリーンが、その話をしていて、エルメアーナの父親の店に来ている事を思い出し、親子で似たような性格だという事に気がついた。
アンジュリーンが、店で待たされていた時の事を思い出したのだろう、それが、どれだけ退屈な時間だったのかを思い出したのか、アンジュリーンの顔から血の気が引いていくのがわかる。
「って、今日、まだ、カインクムさんに、誰も剣を見せて無いわよね」
(エルメアーナと似た性格のカインクムさんなら、さっきの行動を見て同じ事をするわよ、きっと)
アンジュリーンの心の中で不安が広まる。
アンジュリーンは、話を止めると、3人の顔を、一人一人確認するように見ると、あまり良い感情は無さそうに思える顔をしている。
そこに居る4人に嫌な思いが頭に浮かぶと、アンジュリーンは、ボソリと言葉を発する。
「工房に行った連中、剣、持ってたよね」
3人もその事に気がついた。
「「持ってた」」
アンジュリーンの問いかけに3人が同意すると、沈黙が流れる。
「「「「……」」」」
アンジュリーンとすれば、あの時の、暇な時間を、もう一度味わうのかと思うと、どうしたものかと考えるように周りを見ると、ふと、フィルランカの顔が目に入る。
(前回との違いは、エルメアーナの父親と言う事なら、シュレは、あんな行動を取る事は無いわ。 それに目の前には、フィルランカさんが居るのなら、あの時のように、店で椅子に座っているだけにはならない。 シュレは、自分の世界に入ってしまうだけだし、それに、アリーシャも居る。 なら、今回は3人で無駄話でもしていれば、時間は潰せる事になるわ)
そう思ったら、今回は暇を持て余す事もないと考えたのか、アンジュリーンは気が楽になった。
「まぁ、その時はその時という事で」
何事も起こらない事を祈るが、その時の対策も可能だろうと判断する。




