シュレイノリアの恋愛観
アンジュリーンは、シュレイノリアを、 “黄昏の休日” に、誘った一つ上の先輩の事を思うと、やりきれない気持ちになった。
シュレイノリアには、その誘った先輩の気持ちが、全く伝わらなかった事に、アンジュリーンは、その先輩に同情しているのだ。
「確か、その先輩だけど、伯爵家の人だったはずよ」
「フラレた挙句ぅ、簡単に金貨2枚で買取るなんて言うからぁ、財力でも敵わない相手だと思ったんでしょうねぇ。 自分が口添えしたらぁ、その位の大金でも出してくれる相手が居るぞって事よねぇ」
アリアリーシャも、アンジュリーンと同様に、やりきれない様な表情で、アンジュリーンに同意する様に話した。
相手の事を思うと、可哀想な事をしてしまった事なのに、善意で買い取るとまで言ってしまったシュレイノリアに、3人はやるせない気持ちになったのだが、シュレイノリアの天然は続く。
「……。 そうだったのか、今度会ったら謝罪しておこう」
アンジュリーンの解説を聞いて、納得したシュレイノリアが、とんでもないことを言いだした。
それを聞いていた3人は、唖然とする。
おっとり気味のフィルランカも、今の話には、驚いたようだ。
「それはぁ、やめっておいたほうが良いですよぉ。 もうぅ、そっとしておいた方が良い話しですぅ」
慌てて、アリアリーシャが、シュレイノリアを止めると、アンジュリーンも、それに続いてシュレイノリアに話しかける。
「今になって謝ったら、その人の黒歴史を、抉り出すようなもんだよ。 そっとしておく事が、その人のためにもなるわ」
シュレイノリアは、少し考えてから、そんなものなのかという顔をして答える。
「分かった」
その話を聞いていたフィルランカが、お金の話を聞いてから、顔が引きつった様になっていたのだが、それ以上に、シュレイノリアの恋愛観についても、人とは違うと思った様だ。
ただ、この場に、エルメアーナが居たら、フィルランカの恋愛観も、人とはかけ離れていると、突っ込まれただろう。
フィルランカは、シュレイノリアの恋愛観にも驚いたのだが、それ以上に、金銭感覚にも驚いていた様だ。
流石に、押し掛け女房で、店番もこなしているのだから、貨幣価値はわきまえている。
庶民が1年で稼ぐ金額より多く、自分の家計と店の売上と比較して、肝を冷やしているのだ。
この帝都では無理ではあっても、金貨2枚も有れば、田舎であれば、庶民が暮らす一般住宅なら、中古であって条件さえつけなければ、見つける事が出来る。
それを、学生のときには、所持していて、簡単に出す事ができると言った、そんな、シュレイノリアを、恐ろしいと思ったのだ。
それに気がついたのか、アンジュリーンが、フィルランカに説明をする。
「この娘とジュネスは、学生時代も何か有れば、ギルドの仕事を手伝っていたんです。 公休扱いで、ギルドに協力したりとかあったわ。 だからその報酬が、かなり溜まったって、ジュネスが言ってたわ」
アンジュリーンの話を引き継ぐ様に、アリアリーシャが、話を続ける。
「この2人はぁ、特待生でぇ入学していてぇ、学費も寮費も払わないで良かったからぁ、衣食住の食と住にお金は掛かって無かったしぃ、シュレを見て分かると思いますがぁ、衣の方でも、必要最低限位しか使ってなかったんですぅ。 だから、貯まる一方だったみたいですしぃ、入学前も、かなりの金額を貯め込んでた見たいですぅ」
「ああ、そう言えば、レオンの学費も寮費も、ジュネスとシュレが出したみたいよ。 レオンは、特待生にはなれなかったから、そうしたって、ジュネスが話していたわよ」
「そうですねぇ。 あの3人は、始まりの村から、一緒だったみたいですから、離れたくなかったのでしょうねぇ」
その話に、フィルランカは、引き攣った顔をしていた。
ギルドの高等学校の費用は、高いという話を聞いた事があるので、その費用まで簡単に稼いでしまったのだと思うと、このパーティーメンバーの稼ぎが大いに気になった様だ。
「でも、そのお陰で、私達もエルメアーナと面識を持てたんです。 エルメアーナは、あんなだから、腕の良い鍛治職人って、聞いてたんですけど、ジュネスは、門前払いにされたとかで、このシュレに仲介を頼んだみたいなんだけど、上手く伝わらなくて困っていたらしいのよ」
アンジュリーンは、昔の事を思い出してなのか、面倒くさそうな表情を浮かべて話を続けた。
「まぁ、私って、エルフ属って事で、私もクラスの中ではういていましたのだけど、パーティーメンバーだったこともあって、ジュネスとしたら、他の同級生より私の方が話し易かったんじゃないかと思うんですけど、その私にジュネスが仲介役をお願いしてきて、エルメアーナとは私はそこからの付き合いかな」
その話を聞いたアリアリーシャは、頭の中で反論を唱えていた。
(アンジュ、自分が浮いていたって事は、自覚していたのですね。 でも、浮いていたのは、エルフじゃなくて、その喋りだったんだけどね)
アリアリーシャは、思った事は口にせず、黙って、お茶を啜っていた。




