シュレイノリアの恋愛感覚
学校での寮の話を、アンジュリーンが話題にするのか、シュレイノリアには、よく分からないといった様子で聞いていた。
聞いていたシュレイノリアが、学校での話を思い出したようだ。
「思い出した。 中央ドームの公演に一緒に行かないか誘われた。 たしか、“黄昏の休日”だった」
それを聞いて、アンジュリーンとアリアリーシャの、目の色が変わった。
「あの、お話しって女性の為に、作られたような、恋愛ドラマだったわね」
「そうですぅ。 私も、あの主人公の女性みたいなぁ、恋がしたいですぅ」
その“黄昏の休日”という舞台は、女性に人気の恋愛物語だったのだ。
アンジュリーンもアリアリーシャも、見てみたいと思っていたのだが、チケットは、直ぐに売り切れてしまい買えなかったのだ。
その理由についてアンジュリーンは、記憶を辿っていったようだ。
そして、その顔色が徐々に変化していった。
「ん、あの時って、人気の、あの女優と、相手方の俳優って、超人気の二人が共演するってことで、チケットが、直ぐに完売して、プラチナチケットって言われなかったですか。 欲しくても手に入れられないって言われたやつ。 確か、一席の価格が、中銅貨1枚で、ペアチケットだと、中銅貨2枚だったかしら」
それを聞いて、アリアリーシャが、その後にチケットの金額が高騰したことを思い出したのだ。
その事を思い出すように、話していた内容に付け加えるのだった。
「それはぁ、通常価格ですぅ。 買えなかった人がぁ、転売でぇ、確かぁ、チケット1枚が銀貨10枚位にぃ、なったなんてぇ、聞きましたぁ。 でも、ペアチケットならぁ、金貨1枚どころか、それ以上出して買ったとかいう、独身の貴族がいたとかぁ、聞きましたぁ」
金貨1枚以上出して買った貴族と聞いて、アンジュリーンは難しい顔をした。
金貨1枚は、最低通貨である白銅貨なら、一千万枚となる。
それ程の高額取引になってしまっていたのだ。
アンジュリーンは、何か思い当たるような表情をし、ゆっくりと、シュレイノリアの顔を見た。
シュレイノリアは、何食わぬ顔で、お茶を啜っているのをアンジュリーンは見ると、話しかけようとするのだが、そのアンジュリーンの顔には、思いああたる節があり、それを本当に聞いて良いのかと、自問自答するようだ。
アンジュリーンは、その事を聞いてはいけないような気もするのだが、聞かなければいけないのでは無いかと考えているようだ。
アンジュリーンの表情には、迷いがうかがえた。
そんなアンジュリーンは、感情が顔に現れつつ、引き攣った様子で、シュレイノリアに聞くのだ。
「それで、誘われて、どうしたの?」
恐る恐る、アンジュリーンが、シュレイノリアに聞くが、シュレイノリアは、何のことだと言うような顔つきで、アンジュリーンを見た。
そして、シュレイノリアは、何の事だというように、表情を変える事なくアンジュリーンを見た。
「ん、興味が無かった。 見たいと思ってなかったから、要らないと言った」
その答えにアンジュリーンは、凍り付いた。
チケットのプレミア度を聞いて、そのチケットの代金が気になったアリアリーシャも、青い顔をした。
しかし、アンジュリーンは疑問を持ったようである。
(断っただけなら、あの貴族のボンボンの、落ち込み用は何だったのかしら。 デートに誘って断られただけの、落ち込みようとは、ちょっと違ったように思えたわ。 ……。 まさか、シュレのやつ何かとんでもない事を言ったんじゃないかしら)
アンジュリーンは、思うところがあるような顔をすると、シュレイノリアに真相を確認する事にしたようだ。
「ねえ、シュレ、ただ、断っただけなの? ……。 あなた、それ以外にも、何か言ったでしょう。 ちょーっと、その時の事を、思い出して話してみてくれないかなぁ」
そう言われて、シュレイノリアは、面倒くさそうに、思い出すような表情をするが答えてくれた。
「この演劇は、観るべきだからと言ったので、じゃあ、ジュネスに聞いて、ジュネスが行くと言うなら行くと言ったと思う」
その答えを聞いて、アンジュリーンもアリアリーシャも、その時の貴族の落ち込みようがなんでなのか、その一端が見えたように思えたようだ。
その話を黙って聞いていたフィルランカは、何か言おうとするのだが、話しかけて良いのか気になったようだ。
(あー、この娘に、男の恋心は伝わらないのかしら)
それは、アンジュリーンもアリアリーシャも一緒だったようだ。
シュレイノリア以外の3人は、デートに誘われているのに、別の男を連れて行くと言ってしまった事に、驚きを通り越してしまい、誘った男子に同情してしまったようだ。
3人の沈黙が続いていると、シュレイノリアは、さらに、思い出したようだ。
「それにチケットを取る時の話をされた。 それ程言うなら仕方がないと思った。 2枚有るのだったら、ジュネスと行くと言った。 それと、その彼には、チケット代を払うと言った、確か金貨1枚だったと言ってたから、後でジュネスに聞いて払う。 私が色も付けて、金貨2枚で、買い取るように言うから、貴方に損はさせないと言ったら、ガッカリしてそのまま帰っていった。 だが、私に観るべき公演だと言ったのに、そのチケットを持ったまま行ってしまったんだ」
頭を抱えるアンジュリーンとアリアリーシャは、チョット手が震え気味に、気持ちを落ち着かせるために、お茶を啜った。
シュレイノリアは、フィルランカを見てから、仲間の2人を見ると、不思議な顔をした。
そして、3人に尋ねるのだった。
「どうかしたか。 私としては、彼に気を使って、買取ろうと言ったのだが」
当たり前の事を言ったと思っている、シュレイノリアに、アンジュリーンが、自分の虚脱感と戦っているようだ。
そして、イラついた表情をシュレイノリアに向けた。
「それは、彼が、シュレと、一緒に行きたかったのよ。 確か、一つ上の主席で、かなりの秀才だったはずよね。 魔法も、剣技も、叶うもの無しって言われてたけど、次の年に、アンタら二人が入学してきてから、影が薄くなってたって言われてたわね」
酷い振り方をしたのだが、シュレイノリアには、その認識が無かったのだ。




