シュレイノリアの過去
シュレイノリアは、ジューネスティーンを抱き枕代わりにしなければ寝る事ができないのだが、それについて、周りが、なんで血相を変えているのか、シュレイノリアには分からないので、困った顔をしている。
だが、アンジュリーンの苛立ちを抑えなければという使命感からなのか、コクコクと頷いているシュレイノリアを見て座り直す二人。
アンジュリーンは、フィルランカに話し始める。
「この娘は、見た目と頭の中が、違うんです。 年齢は二十歳位ですけど、中身は幼児なんです」
アンジュリーンの説明を聞いて、シュレイノリアは、ムッとした表情で反論する。
「私は、ギルドの高等学校を、次席で卒業した。 年相応の能力はある」
ため息を吐くアンジュリーンは、学力の事を言ったのでは無いのだが、シュレイノリアには通じないので、はっきりと伝える必要があると思ったようだ。
特にフィルランカのような、天然なのか、おっとりしているだけなのか、何だかわからないタイプには、ちゃんと伝えっておかないと、とんでも無い事になる。
シュレイノリアが、知らなくてもいい事まで、フィルランカが、話してしまいそうなので、聞いてもらう必要があると考えたようだ。
「確かにその通りです。 でも、それは学校の勉強だけで、それ以外はって事」
キョトンとしているシュレイノリアを、ほっといて、フィルランカに向き直った、アンジュリーンが、2人の異常な生活というか、とんでもない関係を、話す必要があると考えたのだ。
「シュレとジュネスなんですけど、1日違いで始まりの砂漠に現れたんですよ。 ジュネスは、たまたま、通りかかったパーティに助けられて、そこの魔物から逃げられたのですけど、次の日に、シュレが現れた時は、この娘、魔物に瀕死の重傷を負わされてたところだったらしいのです」
「まあ、転移者だったのですね」
フィルランカが、呑気そうな、合いの手を入れた。
アンジュリーンは、その呑気な様子を見て、フィルランカもシュレイノリアと同類なのかもしれないと思ったようだ。
「シュレは、大怪我をした状態で、通り掛かりの冒険者に助けられて、ギルドに運び込まれたらしいんです。 意識不明だったらしいんですけど、治療して目が覚めたら、目の前に居たジュネスを見るなり、いきなり、抱き付いて大泣きしたらしいんです。 それ以来、お風呂とトイレ以外はいつも一緒なんです。 この二人」
「いや、最初は、風呂も一緒に入ってた。 風呂はダメだと言われて、仕方なく別になった。 それだけだ」
アンジュリーンとアリアリーシャは、それを聞いて、少し引き気味になる。
(この2人、いつ迄、一緒の風呂に入っていた? ひょっとすると、寮でも? いやいや、それは無いな。 あの部屋に風呂は無かった。 共同浴場だった)
アンジュリーンとアリアリーシャは、シュレイノリアの様子を伺っている。
(えっ、ひょっとすると、入学前は、一緒に入っていたのか、この2人!)
2人は、どうしようかと思ったようだが、次の言葉が出てこないようだ。
フィルランカは、風呂はともかくトイレはカインクムと一緒に入るのは嫌だと思ったようだが、思った時には、シュレイノリアが言わなくてもいい事を言う。
「ジューネスティーンの体温は暖かいぞ。 抱いて寝ると気持ちよく寝れる。 体をピッタリ寄せて張り付いて寝るのが心地よいのだ」
素っ頓狂な言い方をするシュレイノリアを、呆れた顔のアンジュリーンと、アリアリーシャをフィルランカは見て、自分は、カインクムと一緒のベットに寝るわけでは無いので、羨ましく思ったのだが、そんな事は気にせずに、アンジュリーンが話を進める。
「これだから、シュレとジュネスの話はしたくないのよ」
それを聞いていたアリアリーシャも、うんうんと、横でうなづいている。
フィルランカは、今の話をカインクムと照らし合わせて、自分の事を考えているのか、ぼーっと、上を見上げている。
そんな周りの表情を気にする事なく、アンジュリーンは、話を続ける。
「これは、ギルドの高等学校の寮に入る時なんだけど、その時、シュレが、ジュネスと同室にしろと寮監に食って掛かったんですよ。 いい歳の男女を同室にする事は出来ないって、寮監は、無理矢理、別室にしたのですけど、2・3日もするとシュレが、目の下にクマ作って、フラフラで歩いていて、それを見たジュネスが、なにを考えたのか、寮のロビーで毛布で包まって朝まで一緒に寝てたんです」
アンジュリーンは、当時を振り返って話を続ける。
「これは、聞いた話なんですけど、初めてこの世界に現れて直ぐに魔物に瀕死の重傷を負わされて、気が付いたら、目の前にジュネスが居て、小鳥とかの擦り込みみたいに、ジュネスを自分の親とでも思ってしまったみたいなんですよ。 まあ、転移した当時って、少年少女ですから、始まりの村のギルドとしても、子供2人が一緒に寝泊まりしても構わないと思ったのでしょう。 当時から、ずーっと一緒に寝泊まりさせていたらしいです」
それを聞くと、シュレイノリアが口を挟んだ。
「あの時は、ジュネスだけ、言葉が通じた」
それを聞いて、アンジュリーンは、納得するような顔をする。
(なるほど、それでだったのね。 知らない言葉で周りが話していて、1人だけ言葉が通じたら頼るわよね)
アンジュリーンとアリアリーシャは、それを聞いて納得したような表情をした。




