帝国の鍛冶屋 6
ジューネスティーンは、パワードスーツの後ろに行って、背中に手を当てる。
「少し下がってもらえますか」
カインクムは、片時も目を離したく無いのか、後退りながら距離を取る。
「では」
そう言うと、背中に当てていた手に魔力を流す。
パワードスーツは、少し前傾になって、腰の後ろの部分が開く。
腕の盾を床に付けると、後頭部が開き、頭が前に倒れると、背中が、背骨を中心に開くと、ふくらはぎ部分の第二装甲が上に跳ね上がる。
「どうぞ。 ただ、中に入るのはご遠慮ください」
そう言ってカインクムに、開いた背中側に来る様に促すと、カインクムは、恐る恐るパワードスーツの後ろに回って、中を真剣な面持ちで覗き込む。
「今の動き、スムーズだった。 金属の擦れる音も違う。 背骨、それを中心で別れる様にしているが、動物の背骨の様に、何個も別れたパーツになっているのか。 中は、確かに空洞だ。 人が入れる位だ。 チョットこの羽に乗っかって良いか」
そう言って、ふくらはぎの跳ね上がっている第二装甲を指差す。
ジューネスティーンは、右手をかざして、頷くと、カインクムは、そそくさと、その上に登り内側から覗き込む。
内部から僅かに覗ける関節部分を見ている。
「腕の稼働部分は、見えないが、これは、作る時に確認させてもらう。 しかしこの背骨も、うまいことかんがえた。 普通の鎧は、胴に当てる様に作っているから、動きづらいのが欠点だったけど、胸と肩を固定の鎧で覆っているのか、腹は、この3枚の板が、縦に重なる様に内側の、鎖帷子に取り付けてあるから、これなら体を前に倒す事も可能だ。 ん。 腰はどうなっているんだ」
中を覗き込むが、内装によって見る事はできない。
それを見たジューネスティーンが、アドバイスをする。
「外からの方が腰は確認しやすいですよ」
そう言うと、カインクムは、ふくらはぎの第二装甲から降りて、腰の周りに垂れ下がっている装甲の下から覗き込む。見た感じは、中年オヤジがミニスカートを下から覗き込む姿に似ている。
「おぉ〜お。 このU字のパーツで腰と足を繋いでいるのか。 腰の中心で固定してある」
カインクムは、足を左右に開く動作を、このU字のパーツと腰のシリンダーにつながっているのを確認すると、声に出していた。
「そこを中心に、そのU字のパーツが動きますので、足を横に開く事ができます。 足は180°まで開く必要が無いので、これでも十分に可動できます」
腰のU字パーツについて、ジューネスティーンが説明を加えた。
「そうなのか。 じゃあ、足を前後に動かしているのは、この外側のジョイントか。 これで、胴体と足を固定しているのか。 恐れ入った」
感心するカインクム、右手を顎に当てて考え込む。
「恐らく、骨格は、組み上がっていると思いますので、後は付与魔法の付けた装甲と内装を付ければ完成となるはずです。 ただ、骨格も足は、はずしてあるかもしれません。 前衛用のパワードスーツを、先に完成させてくれと言って、南の王国を出ましたから、今、届いているのは、2台分のパーツで届いているはずです」
今迄、見た事も無い物を見て、カインクムは、感心するばかりなのだ。
「パーツには、魔法紋を、シュレイノリアが描きます。 その後に組立になります」
はっとなったカインクムが、ジューネスティーンの腕を掴んで、南の王国から送られてきた箱の事を思いだす。
「あんちゃん。 これとおんなじように物を2体作るんだな」
カインクムが何かを思い出した時の表情が少し怖かったのか、ジューネスティーンは、少しビビリ気味に答える。
「え、ええ」
「って事は、あの、送られて来た荷物の中に、これが入っているのか」
カインクムは、送られてきた荷物の事を考える。
(送ってこられたのは、大きな木箱が6個だった)
その大きさから考えれば、パーツ毎に分けられて入っているはずなのだが、6個の箱の中に、どんな形のパワードスーツが入っているのか気になったようだ。
「そ、そうですけど」
「じゃあ、あの荷物、今から開けるから、工房に行くぞ」
「って、今からですか」
「今からだ」
そう言って、ジューネスティーンの腕を引っ張る。
「チョット待ってください」
慌てるジューネスティーンが、パワードスーツの背中に触れて魔力を流し、パワードスーツを元に戻すと、カインクムはジューネスティーンの腕を引っ張って歩き出す。
「シュレ、パワードスーツしまっておいてくれ」
そこまで言うと、部屋を出て行ってしまった。
すると、その様子を見ていた、レィオーンパードが、2人が、パワードスーツの箱を開けて中身を確認すると思ったのだろう。
前衛であるレィオーンパードのパワードスーツが有るなら、自分も今すぐ見たいと思ったのだろう、慌てて、立ち上がる。
「僕も行く」
そう言ってジューネスティーン達の後を追う。
今回のパワードスーツは、レィオーンパードとアリアリーシャ用に作られている。
自分の物が見れると思って、慌てて追いかけ始めた。
それを見ていたカミュルイアンも男の子の本能の様に、立ち上がった。
「じゃあ、オイラも見に行ってくる」
そう言って、カミュルイアンも後に続いた。
シュレイノリアは後に残されたパワードスーツを収納し始める。
男子たちは慌ただしくリビングを出て行ってしまったので、女子達はどうしたものかと思うが、結局、全員がテーブルについて、フィルランカのお茶を飲む事にした。




