帝国の鍛冶屋 2
ジューネスティーン達との接触は、外部に知られない様にする為に、近所とも打ち合わせをして秘密を守る事になっており、ちゃんと口止め料も前払いで貰っている。
「なら、話は簡単だ。 この辺は何らかの形で、ジュエルイアンに縁のある商人達が商売しているんだ。 そういった事にも対応できる。 隣の店に行って、“今日の鍛冶屋は機嫌が悪いみたいだ。お茶菓子を食べ損ねた”、そう伝えるんだ。 “お茶菓子”を忘れるなよ。 いいな、今直ぐここを出たら、直ぐ隣の店にはいれ」
そう言うと、全員を店から追い出し始める。
後ろに居る女性陣がビックリしているが、カインクムに押されたジューネスティーンがぶつかって、倒れそうになりながら入り口に向かう。
「お前達も今直ぐここから出て行くんだ」
剣を物色していたカミュルイアンとレィオーンパードに矛先が向かう。
ビックリして、手に持って物色していた売り物の剣を慌てて元有った場所に戻して、慌ててジューネスティーンの後を追う。
メンバー達も一緒に追い出され、全員が出ると、カインクムは捨て台詞をはく。
「とっとと行っちまえ!」
そう言って、閉店の札をドアノブに掲げて、ドアを閉めると鍵のかかる音がし、窓のブラインドを全部締め始めた。
追い出されたメンバー達が呆気に取られている。
「にいちゃん、どうなっているんだ」
「さぁ、何だかよく分からないが、追い出された」
言いつつ、“今日の鍛冶屋は機嫌が悪いみたいだ。お茶菓子を食べ損ねた”を思い出しつつ、鍛冶屋で、“お茶菓子” は無いだろうと思いつつも、“お茶菓子”と言うワードが入る事で、暗号と区分けしているのだろうとジューネスティーンは考えていた。
「ちょっと酷いですぅ」
「仕方がない。 隣の店に行くとしよう」
そう言って、隣の店に行く事にする。
その店は、金属製品を取り扱ってはいたが、生活必需品といった感じの物になっている。
奥のカウンターに主人らしい初老の男が椅子に座って居る。
主人は入ってきたジューネスティーン達を見ると、さっき隣の店を追い出されたのを窓越しに見ていたのか、あまり上等の客ではないのかと思いつつ、色眼鏡で見ているので、ジューネスティーンはさっき教えられた言葉を伝える。
「今日の鍛冶屋は機嫌が悪いみたいですね。 お茶菓子を食べ損ねました」
ジューネスティーンがそう伝えると、初老の男が、顔色を一瞬厳しくするが、満面の笑みで答える。
「そうか、それは大変だった。 おーい、ちょっと来てくれ」
そう奥の方に言いながら、ジューネスティーンに近づいてくる。
「お前さん達、旅行者か。 じゃあ、長旅用の日常品なら、奥に良いものがあるから、そっちの方を見てくれ、種類も豊富に有る」
そう言って近づくと、小声でジューネスティーンに話しかける。
「話は分かっている。 ところで、なんであんな勢いで追い出されたんだ」
さっきの経緯を見ていたのだろう。
ジューネスティーンは、その経緯を話し始める。
「ええ、実は、あちらの店に自分宛の荷物が届いているんですが、それをあちらの主人の娘さんのエルメアーナに頼んで作ったんです」
「おお、嬢ちゃんの仕事か! そりゃ、親としては一人娘の仕事なんだから早く見たいだろう。 じゃあ、すぐにでも行ってあげるんだな」
さっと、話を伝えると、今の話を隠す様に女子の方を見て、大きな声で話しかける。
「おや、お嬢さん達、良い調理道具は、一生物だよ。 それに良い料理を作るには良い道具が無くてはダメだからね。 男の胃袋を抑える事が出来れば浮気の心配も無くなる。 良い品があるからじっくり見て行くと良い」
アンジュリーンは、その主人の言葉に顔を赤くしている。
それをレィオーンパードとカミュルイアンが不思議そうに眺めているが、アンジュリーンが男2人が自分を見ている事に気がつくと、反対の方を向いてしまう。
店の主人は、ジューネスティーンの横にいるシュレイノリアを見る。
「この旦那の、奥方様かな。 若くて美人な奥方様には、うちの道具で作ってあげれば、旦那の胃袋はあんたのもんだ。 若いうちはしっかり、旦那の胃袋を抑えておいて損は無いよ」
「奥方様。 そんなぁ」
一瞬、目を白黒させるシュレイノリアだが、奥方様が気に入ったのか、顔を赤くして、両手で頬を覆い、モジモジしていると、奥から、兎耳の亜人が出てくる。
身長は、アリアリーシャより少し低い位だが、毛の色は灰色をしている。
ジューネスティーン達を見るとお客様だと分かり。
「いらっしゃいませ」
満面の笑顔で挨拶をする。
シュレイノリアはまだ、嬉しそうにモジモジしている。
「お前、女の子みたいだな」
言わなくても良い一言を言うジューネスティーンの言葉に、先ほどとは打って変わった表情になるシュレイノリアがジューネスティーンを見る。
ほんのり頬をピンクに染めていたシュレイノリアが、ジューネスティーンの一言に、顔を赤くすると、目を釣り上げる。
「わっ、私は、女の子だぁ」
言い放つ。
ジューネスティーンは、シュレイノリアが平常運転に戻ったと思って店の主人の言葉に合わせる。
「折角なので、見させてもら、うっ」
シュレイノリアが持っていたロットがジューネスティーンの脇腹に入り、青い顔をしている。
流石に、意識して無い時に打ち込まれたので、モロに入ってしまった。
「旦那、大丈夫ですか」
ジューネスティーンを心配そうに気遣って、店主は言った。




