ルイネレーヌとの会食 2
国家間の皇族や施政者の婚姻となれば、人質として差し出すことで、相手国に対して服従すると言う意思表示でもあるが、逆に自分の血族を送る事で国内状況を探らせて報告するという側面もある。
嫁ぎ先から実家へ送られる手紙などは、嫁ぎ先から出る前に必ずチェックされる。
皇女1人が嫁ぎ先へ行くのではなく、付き人として数人を付ける事で、連絡ルートを作成して秘密裏に情報を得る。
または、皇女は何も知らなくても、その付き人が諜報活動を行なって帝国に連絡する。
万が一見つかったとしても、付き人1人を切れば問題は無い。
その後は、諜報活動が難しくはなるだろうが、また、新たなルートを作ればよい。
それなりの人数を送っておけば、それで済む。
帝国は、各国に皇女を送り込む際は、大掛かりな行列をなすほどの人と物を使って、民衆にも威厳を示す。
そのために多くの貢物を用意して、その護衛も含めて、パレードになるように送り出していた。
嫁ぎ先の国では、帝国の皇女の花嫁行列を見る為に沿道を埋め尽くす人だかりができる程の物を用意して送り出している。
穀物の輸出で潤っている帝国だからできるデモンストレーションになる。
民衆に帝国の皇女の存在をアピールして、支持を上げる等の政治的な効果を民衆に与えた。
帝国は、民衆の人気の取り方も怠ってはいない。
大ツ・バール帝国が、建国の際の話を聞いていたルイネレーヌは面白くなかった。
帝国が秘密裏に各国の情報を握って、密かに根回しを始めていることを掴んでいるので、呑気に英雄だとか言っているのを面白く思わなかったのだ。
「お前達は、知らないだろうが、私の情報網には、帝国から嫁いだ連中の付き人から、かなりの情報が、帝国に流れている事は知っている。それに正室だろうが、側室だろうが、その国の王室に入ってから、自分の息子達を王位に付けようと、色々と画策している。おそらく、これからも続くだろう」
ジューネスティーン達は、ルイネレーヌから王族の裏の情報を聞くことで、煌びやかに着飾った王族の裏の顔を聞いたように思う。
「大きな声じゃ言えないが、ゆっくり効く毒を使って、病死に見せかけるとか、流産する側室とかなんて事は、日常茶飯事だと思った方が良い。封建社会では当たり前のように起こることだ。庶民にはわからないだろうがな」
そう言われて、王族の影の部分に触れたようだと思い、ジューネスティーン達は更にゾッとする。
「権力を持つと言うことは、何も無くても妬みや僻みを受ける。権力を欲する者は多い。権力を持つという事は、そういった権力を欲するものをどうやって抑えるか、足を引っ張られないためにどうするか、常にそんな事を考える必要がある。王族とはそういった連中の集まりなんだよ」
ルイネレーヌは何かを思うように言葉を吐き捨てた。
それが何を意味するのか、ジューネスティーン達にはわからなかった。
ただ、皇族や王族の結婚というのは、相手の国の情報を集めるために行っているのだと聞けたこと、現皇帝の子供が多く、他国へ嫁いだという話は聞いたことがある。
単に親戚関係を結んで友好関係を築くだけかと思ったが、相手国の内情を探る為だったとは思わなかったので、それが聞けただけでも良かったとジューネスティーンは思う。
それに自分達では見ることのできない皇族間の水面下で、決して庶民には知ることの無い世界の思惑を知れた事は封建社会で生きる上では知っておかなければならないのだろうと感じる。
「ただ、お前達には関係の無い話だ。だが、これは覚えておいてほしい」
そう言うと、ルイネレーヌは、エルフの2人と亜人の2人を指さす。
「お前達4人は、狙われる可能性がある。と、言うより狙われていると思った方が良い」
4人は、ムッとしたような顔を一瞬するが、そうなのだろうと納得する。
「帝国は、この大陸で祐逸亜人奴隷を認めている国だ。南の国から来た新人冒険者の中にエルフと亜人が居るとなれば、奴隷商人達が狙っている。帝国の監視よりもそいつらの方が直接的な行動に出る可能性が高いから注意することだ。くれぐれも1人で出歩く事はやめた方が良い。できれば頭を隠しておくことをおすすめする」
帝国に来る前の前情報として南の王国のギルドで聞いてはいたが、ここで釘を刺される。
「その辺は、まとまって行動するようにします」
そうは言うが、ルイネレーヌのメンバーは、人属が3人で残りは、ドワーフ2人にエルフが1人と亜人が1人である。
ドワーフ2人は、大きな違いといえば、身長が人属より低いと言われているが、ルイネレーヌのメンバーは、ドワーフでもどちらかと言うと大柄な方で、小さい人属と言っても通りそうだが、中でも亜人は、エランド系亜人のため、身長2メートル10センチと大柄でありツノもあるので、亜人では無いとは言い切れない。




