ルイネレーヌとの会食 〜大ツ・バール帝国〜
倒した東の魔物の話が終わると、その後は、食事を取りながら、カミュルイアンをルイネレーヌが、からかいつつ進んだ。
食べ終わるとルイネレーヌが話しかけてくる。
「帝国には、もう、お前達が、東街道に現れた東の森の魔物を倒した話は伝わっている。 帝国軍の監視も付いているみたいだから注意しておいた方が良い」
「ええ、今日の買い物の時も付けられていました」
「わかっていたか。 なら、安心だ」
「ところで、帝国軍は、東の森の調査を、今まで行ってなかったのでしょうか?」
「いや、行っていたさ。 ただ、殆どが戻ってこない」
「なら、戻ってきた調査隊も居たのですね」
「ああ、戻ってきた。 だが、戻ってきたものは、帝国軍が保護名目で隔離している。 軟禁に近い感じだが、待遇は悪くないみたいだ。 帝国軍内で貴族待遇の役職と、護衛目的の副官という監視が付いているから、こっちもおいそれと近づけそうもない。 状況を確認しようと思ったが、それらしい人物まで辿り着けないってのが実情だ」
そこまで話すと、レィオーンパードが口を挟んできた。
「何で、帝国はそこまでしてくれるんだ? 何だかケチ臭そうな国に思えるから、てっきり、戻った後は、ほったらかされて野垂れ死してそうだけど」
それを聞いて、アンジュリーンが見下すようにレィオーンパードを見る。
「あんた、そんな事も分からないの。 戻ってきた調査隊を監視して、東の森の情報を外に漏らさないためでしょ。 帝国は、主力産業の穀物生産量を増やしたいのよ。 その為に、東の森の開拓を行っているのだから、極力情報を漏らさないようにしているのよ。 学校で教わったでしょ」
「帝国は、新たな農業技法と、東街道の警備で、興った国って事は知ってるよ。 不毛の土地を、穀倉地帯に変えた初代国王、大量の穀物を周辺国に輸出している国だって事も知っているよ」
レィオーンパードが、アンジュリーンに言い返すと、ジューネスティーンは、アンジュリーンが、レィオーンパードに突っ込みすぎるのを制する。
「なら、その輸出品の出荷量を増やす為に、広大な東の森を切り拓いていることは分かるわね」
「うん」
ジューネスティーンが諭すように聞くので、レィオーンパードの気持ちも落ち着いた様子で答えた。
「軍隊の維持には、その国がどれだけの経済力を持っているかなのよ。 帝国が輸出できる穀物が増えれば、それだけ国が潤うのよ。 潤ったその分を軍事費にまわせるって事だから、周辺国からはそれだけ脅威になるわ。 だから、これから先帝国がどれだけ穀倉地帯を広げられるかは周辺国には恐怖でもあるのよ」
ジューネスティーンの一言で、アンジュリーンの言葉にも、棘が無くなって、レィオーンパードに話し始めた。
「だったら、周辺の国々は、帝国からの輸入を減らすとかすれば、帝国の脅威は小さくなるんじゃないの?」
「ところがそうもいかないのが現状なのよ。 どの国も国内だけで自国の食料を賄えないのよ。 どの国も穀物は生産しているけど、自国の全員を賄える程の生産量は無いから、どの国も食料に関しては帝国に依存しているのよ」
「だけど、帝国が強大になるのは困るって事なのか」
「それに帝国の土地はそれ程高低差が無いのよ。 だから、輸送にも便利なのよ。 これだけ広い平らな土地なら荷馬車での移動も楽なの。 山を登ったり降りたりとか、狭い峠道なんてことになると、馬でも地竜でも大変なんだから、そういった場所の国は、収穫した物を市場に持って行くだけでも一苦労になるわ。 だからそういった国は、穀物のような安い作物から、嗜好性が高くて高額な作物に、生産作物をシフトしてしまっているのよ。 今更、帝国からの穀物輸入を止めて、国内自給率を上げるなんて事になったら、土地の確保から考えなければならないわ」
「ふーん」
アンジュリーンの説明に、レィオーンパードは、納得する様子を見せた。
「帝国の魔物は、他国よりも強い魔物が多いことと、不毛地帯と、昔は思われていて誰も自国に組み入れようとしなかったのよ。 これだけ広大でも作物も育たず、魔物も強いから放置されてた土地だったのを、今の帝国の初代国王のツ・エイワン・クインクオンが、その両方を解決した。 当時は、辺境の不毛の土地だったのに、廃れてしまった街道の安全を守って、尚且つ不毛の地を穀倉地帯に変革させ、周辺国家から国として認めさせたんだから、建国の英雄よね」
アンジュリーンは、ツ・エイワン・クインクオンの成果を英雄と言った。
アンジュリーンが、今の帝国の初代国王を英雄と言ったことに、ジューネスティーンは補足する。
「それだけじゃないさ。 特に北の王国は、この大陸内では最大の国家だけど、あの国に認めさせたのは、大きいよね。 初代から何代も王女が、北の王国へ嫁いでいる。 それも正室では無く側室としてだったり、北の王国の王の意向で臣下の嫁にもなっている。 一度、北の王国が衰退しかけた時にそれも無くなったようだっだけど、それまで、北の王国の庇護下にあったことも大きいと思うよ。 それが、今では、帝国が無ければどの国も成り立つのかって位に穀物を依存している。 今では、帝国からの穀物輸出が途絶えたら、輸入国の中には、国の危機になりかねないところも有るね」
ジューネスティーンの話を聞いて、ルイネレーヌは、364年の歴史を持つ帝国の歴史についても調べているのだと感心する。
ただ、現皇帝である、第21代皇帝のツ・リンクン・エイクオンについても北の王国どころか、各国に正室として嫁入りさせるだけでなく、側室として送り込んでいる。
だが、建国当初は、北の王国の庇護を受ける為に、初代国王から数代に渡って人質として北の王国に送り出しているのだ。
「そうよね。 それに今の皇帝陛下って、何人も子供を持っているわよね。 その皇女殿下達は、周辺国家や、有力な国内の貴族の家に嫁いでいっているから、今では、表面上は、どの国も帝国と友好的に振る舞っているわよね」
ルイネレーヌは、帝国が友好的にと言う、アンジュリーンの言葉に顔色を顰める。
「バカか、お前は! まず、国の頭に“大”なんて付いている国にろくなものはない。 自分の国は、大きいと周辺国に向かって宣言しているんだぞ。 国の考え方として、自分たちは周辺国より優良民族だと言い回っている国なんだ。 それが国名になっているんだ。 施政者もだが、それを洗脳のように国民に植え付けるんだ。 その事を忘れるな!」
吐き捨てるように言い、更に話を続けるのだった。
「ふん。 帝国の皇女達は、皇帝の意向を汲んで各国に嫁いで行っている。 嫁ぐ時には、皇女殿下1人で嫁ぐわけではないからな。 付き人の中に諜報活動をする連中も混じっているんだよ。 皇女の側近として一緒に入国するときに、何を持ち込んだかも分からないんだ。 国の乗っ取り位考えているかもしれないぞ」
ジューネスティーン達の話にルイネレーヌが割り込んできた。
それには、強い毒が含まれているように思える。
それにこれまで、ルイネレーヌは、大ツ・バール帝国をツ・バール帝国と呼んでいる。
頭の“大”を抜いて呼んでいた。
それが何なのかは分からないが、ルイネレーヌの中には、何かこの帝国に思うものがあるようだ。




