帝国での買い物 4
金糸雀亭を出て、しばらくすると、アリアリーシャが、ジューネスティーンに近寄ってきて、つぶやく様にいう。
「付けられてます。 多分、金糸雀亭を出た後からずっとですぅ」
もう帝国の監視が付いたのかと思いつつも、それも、想定の範囲だと、ジューネスティーンは思った様だ。
アリアリーシャは、部屋のリビングでの、あのなんだか分からなかった着替えた後の態度から、もう完全に切り替わっている。
ジューネスティーンは、そんな、アリアリーシャを、恐ろしと思った様だ、女子独特の気持ちの切り替えなのかもしれないとも思った様だ。
自分が、あんな態度を取ってしまったら、もっと引きすってしまうと、ジューネスティーンは、思った様だが、これが男女の違いなのかと、自分を納得させている様だ。
そんなアリアリーシャを、怖くも思うのだが、ジューネスティーンは、その事を顔に出さない様にして答える。
「気にする事は無い。 こっちが、監視に気付かれている事が、分からない様にしておいてくれ」
できれば、ジューネスティーン達は、監視に気付いてないと、帝国の監視役に思わせておきたいのだ。
監視役を気にせず、そのまま、進んでいると、通り沿いに“フィンシェルの店”を見つける。
店の前で止まって、店の建物を物色する様に外観を眺める。
玄関から進行方向の壁を確認して、来た道の方まで、じっくりと眺める。
その際に、後ろに居た見張り役を確認してから“ フィンシェルの店”に入った。
“ フィンシェルの店”は、冒険者用の道具を扱っている店だが、武器や防具は置いて無い。
「いらっしゃいませ」
店員は、入って来たジューネスティーン達に挨拶してくれた。
ジューネスティーン達は、挨拶をしてくれた人の元に行くと、胸ポケットから手紙を出す。
「ジュエルイアンさんから、帝国に入ったら、この店に顔を出す様にと言われてきました。 それで、これを渡す様にと預かってきました」
そう言って、ジュエルイアンから預かった手紙を渡す。
手紙は、羊皮紙を、丁寧に折り曲げてから、蝋で封印してある。
挨拶してくれた店員は、渡された手紙の蝋を開いて、内側に書かれた内容を確認する。
その店員は、手紙の内容を読むと、納得した様な表情を見せると、ジューネスティーンを見る。
「ああ、あなた達ね。 私はフィンシェル。 話は聞いているから、何か必要なものが有ったら、私に相談して。 もし、ここで揃わない物でも、持っている店を紹介してあげるから、必要なものが有ったら、いつでも来て下さい」
フィンシェルは、ジューネスティーン達の事を、予め、ジュエルイアンから聞いていたのだ。
特に、冒険者という事なら、自分の店を使う事もあるかと思ったのだろう、フィンシェルは、喜んで話しかけた。
「ありがとうございます。 自分はジューネスティーン・インフィー・フォーチュンと言います。 ジュネスと呼んでください。 この6人で、パーティーを組んでいます。 駆け出しですが、よろしくお願いします」
挨拶をすると、後ろから、アンジュリーンが、ジューネスティーンに、声をかけてきた。
店の、ショウケースの中身が気になっており、物色したくて、うずうずして、思わず聞いてしまう。
「ちょっと、見てきて良いかな。 なんだか、良さそうな物があるような、気がするの」
そう言って、ショウケースの方を指差す。
「ああ」
アンジュリーンに、答えてから、ジューネスティーンは、フィンシェルを見ると、笑顔でアンジュリーンに付け加えてくれた。
「うちには、魔法付与されたアクセサリーとか、置いてありますから、気に入った物が有ったら言って下さい」
「ありがとうございます」
アンジュリーンは、お礼を言うと、アリアリーシャと一緒に、ショウケースの方に行く。
ジューネスティーンは、部屋のリビングでの一件は何だったのだと思ったのだろう、2人の様子を、しばらく、目で追ってしまった様だ。
アリアリーシャといい、アンジュリーンといい、こうも変わり身が早いので、ジューネスティーンは、少し戸惑うのだが、2人が引き摺ってないのを確認する。
2人の女子をフィンシェルは、目で追いながらジューネスティーンに話しかける。
「あなたは、どんな御用かな。 うちにジュエルイアンさんの手紙を、持ってきただけではないでしょう」
ジューネスティーンは、ジュエルイアンの手紙をこの店に届けた後、ルイネレーヌに言われた通り、帝国風の服を購入しようと思っていたのだ。
さっき、フィンシェルが、何でも聞いてと言ってくれたので、その言葉に甘える事にしよう思った様子で正直に話しだした。
「今日は、帝国見物と、帝国風の服を買おうと思っています。 これだと目立つので、全員分の服を買おうと思ってました。 でも、ジュエルイアンさんの手紙が有ったので、先に届けようと思って、こちらに寄りましたから、この後にブティックを探しに行こうと思ってたんです」
「ああ、その格好だと、直ぐに南の王国から来たと分かりますね。 でも、王国のデザインに慣れてしまうと、帝国のデザインだと、趣味に合わないかもしれないわね。 ……。 でも、リーシェルリアの店だったら、気に入った服が見つかると思うわ」
自分の店の物に興味は無さそうだと、フィンシェルは、思った様だったが、言った手前、情報は渡してくれた。
「デザインとかですけど、俺たちは、問題無いんですけど、問題はあそこでショウケースを見ている2人、かな」
ショウケースの中を見て、2人で色々と言いあっている2人を指差す。
どんなに、即断即決する女性でも、服に関して選ぶとなると、優柔不断になる。
それは、ショウケースの中の商品を見つつ、あれが良い、これが良いと、話している2人を見てフィンシェルも納得した様な顔で、どこの世界でも年頃の女子は同じだと思った様子で答えた。
「そんな感じですね。 でも、大丈夫だと思いますよ。 きっと」
アンジュリーンとアリアリーシャの様子を見たフィンシェルが、商売人の感が囁くのか、2人が気になりだした。
「少しよろしいですか? ちょっと彼女達の様子を見てきます。 それと、よろしかったら店の中を見ていってください」
フィンシェルは、ジューネスティーンにことわると、ショウケースの2人の方に歩み寄って行く。




