帝国で初めての会食 〜シェルリーンの弓〜
シェルリーンは、カミュルイアンに笑顔を向けると、ウィルリーンに顔を向けていた事を謝ると弓の話を始める。
「ごめんなさい。 私も弓が、得意なんですよ。 子供の頃から、村で食用になる動物を、弓で狩っていたんです。 それに、動いている動物とかでも、私の命中率は、村に居た頃から高かったんです」
それを聞いてウィルリーンが、さっきの、お詫びと思ってなのか、シェルリーンをフォローする。
「ああ、走って逃げる的でも、この娘の命中率は高いわよ」
走る獲物を弓で当てる大変さは、弓を使うカミュルイアンにも良く分かる。
動く速度を計算して、弓矢が放たれて、到達するまでの距離が長ければ、なかなか当たらない。
何度も経験しているので、逃げる的を当てるのは相当に苦労する。
それを知っているので、ウィルリーンの話に乗って、シェルリーンに同調する。
「そうなのですか。 走っている的に当てるのは苦労しますよね。 弓を射った時と矢が届くまでの時間でどれだけ進むかとか、変な動きをしないかとか、色々、考えながら、動きを予想しながら、射らないと全く当たりませんから、そんな事が、できるのって、ある種の才能ですよね」
カミュルイアンが、シェルリーンを褒める。
褒められた事に、気がつき、顔を赤くするシェルリーンが、恥ずかしそうにする。
「なんて言うか、集中して獲物を狙っていると、その獲物が、次にどう動くか見えてくるんですよ。 弓を引いて目を凝らしていると、その獲物がどう動くのか見えてきて、その先を、どういう風に動くかとかが、モヤのように獲物の先に見えるんです。 それで、その先に、獲物と一緒に動いている光点が見えてきて、そこに一本の光の線が見えてくるんですよ。 その光の線に沿って、矢を射ると、その光点に獲物が入ってきてくれるんです。 でもその光点も線も動いていますから、光点を捉えた瞬間に、矢を射らないと当たりませんけど」
アンジュリーンは、不思議な顔をする。
いつもなら、アンジュリーンが、色々、その内容を聞くのだが、不思議そうな顔をするだけで、質問する様子も無い。
カミュルイアンが、話出そうとすると、その前に、アンジュリーンが、話出すので、出遅れるのだが、今日は、アンジュリーンが、いつものように話を進めずに考えているので、カミュルイアンが先に話をする事ができた。
「あのー、今のモヤのようなものが見えるって言うのは、獲物が、これから進む道筋を辿るように出てくるの?」
「ええ、そんな感じです。 普通、早く動く物を見ると、後ろに残像が残ったりしますけど、それが、これから進むであろう、通り道に浮き上がって、モヤのように見えてくるんです。 それで、光点と線がここに射てと言うように現れるんです」
シェルリーンは、獲物を射る時の事を思い出しながら答えた。
カミュルイアンは、その内容を頭の中で想像しながら、不思議なこともあると思いつつも、面白いと思う。
「そのモヤの先に、光の光点が現れるのか。 面白そうですね」
「でも、少し遠くなると、私の技術的な問題で、的を外してしまうんです」
少し恥ずかしそうにシェルリーンは俯き加減に言う。
「遠距離の命中精度なんて限度がありますよ。 多分、うちのジュネスに言わせたら、自分の命中精度の有効射程を把握して、その中で勝負しろって言うよね」
(そういえば、学生の時に馬鹿な連中は、自分の有効射程を把握してないから外す。 相手の有効射程、ギリギリに移動しながら、相手に弓を射らせるんだったな。 運頼りなんて事をせず、自分の勝負できる範囲を把握すれば、弓なんて百発百中だから、相手の命中率が落ちる距離を保ってとか言ってたよな。 フル装備の大会の時に、弓使いの人と戦った時に一定の距離を保って動き回って、相手の弓を使い果たさせてから近接戦で倒したんだったな。 その時に言ってた話だけど。 あれ、今の話とちょっと違うかな。)
シェルリーンに言いつつ、学生時代の時のことを思い出した。
「そうですよね。 自分の命中精度の範囲を分かっていれば、その範囲の中で弓を射れば良いわけですよね」
「それに、撃つ場所が見えるなんて凄い事だよ。 何かのスキルかもしれないね」
「達人の域の話だわ。 未来予測とかなら、その動く方向が見えるのかもしれないけど、撃つ場所が光点になって現れるって、達人超えて神の領域みたいだわ」
横からアンジュリーンが、声をかけてきた。 だが、その話が、あまりに自分には、不相応な上位の事なので、少し慌ててしまう。
「めっ、滅相もありません。 私なんか、そんな、大それた事はありません」
そう言って、顔を赤くして両手を胸の前で振る。
「はは、お前の弓の精度は、そういった事があったからなのか。 何で今まで言わなかったんだ」
ウィルリーンが、少し茶化したように言うので、シェルリーンは、少し怒った様子で反論する。
「何を言うんですか。 話した事はありましたけど、そんな事あるもんかって、笑い飛ばされました。 だから、それ以来、誰にも言わなかったんですよ。 それに、村にいたときも、そんなもの見えないって言われてたから、自分だけのものなのかもしれないし、嘘つき呼ばわりされても嫌なので、それ以来メンバーの人達には話していません」
そう言って、ウィルリーンとは反対の方向に顔を逸らしてしまう。




