帝国で初めての会食 〜カミュルイアンの体力〜
カミュルイアンは、ギルドの高等学校時代の、ジューネスティーンに連れられて、訓練させられた時の話を続ける。
ただ、その話は、徐々に、一般人から、かけ離れた話になっていくのだ。
「足は、体を支えているからいつでもどこでも訓練できるけど、腕の筋肉は難しいとか言って、格闘技場の天井から、直径5センチ程のロープを学校に頼み込んで吊させて、それを毎日登ってましたよ」
カミュルイアンは、少し嫌そうな顔をする。
「それも最初は、足も使って登ってたんですけど、そのうちに腕だけで登ってたんですよ。 天井まで、10メートル近く有ったと思うけど、それを腕だけで、毎日、何回も登ってたんです。 僕には、あんなスピードで上がることは結局できなかったです」
その時の事を思い出しているのだろう、カミュルイアンの表情から、あまり面白い思い出ではなさそうに見える。
「そのうちに上り綱を2本持って、逆立ちとかしてたし、2本のロープを持って懸垂とかしてました。 それに、床で倒立して腕立て伏せとか普通にしていたんですよ。 あれは人間技とは思えませんでした」
カミュルイアンの表情は、その時の事を思い出したくなさそうだったので、ウィルリーンとシェルリーンは、カミュルイアンの様子から、話を、それ以上聞こうとは思わなかったのだが、それを聞いて、アンジュリーンも、思い出したように言い始める。
「ああ、それ私もみた事あるわ。 朝とか昼休みとか、空いた時間にやってたみたいね。 昼休みなんかは、授業後は学食が混むから、最初に綱登りしてから食べに行くとかしてたのよね。 それに運動した後の方が筋力が着きやすいとか言ってたわよ」
それを聞いて、カミュルイアンも思い出したことがあったようだ。
「ああ、そう言えば、綱上りを付き合わされ後に食堂に行った時だけど、食べる物もあれだこれだと注文をつけていたようだった。 学食の料理人がそれを聞いて微妙な顔をしていた事があった」
アンジュリーンとカミュルイアンが、ジューネスティーンの学生時代について盛り上がってしまった。
シェルリーンは、なんとかきっかけを作って一緒に話をしなければと思い、これだと思って食いつくように話す。
「おそらく、ジューネスティーンさんは、食生活まで含めてトレーニングをしていたのね。 きっと」
その話に、ウィルリーンは少し引き気味になる。
ユーリカリアも、かなりの筋肉質な体を作ったが、毎日の鍛錬だと言っては戦斧を振り回したりしていた。
それは実際の武器を使って実戦のイメージトレーニングを行う。
しかし、格闘技となったら、モンクのような職業なので、それでも腕に打撃用の金属製のグローブを付け、どちらかと言うと、拳を放つ練習を行うが、上り綱のロープを登るなんて聞いた事が無かった。
だが、ジューネスティーンは必要な筋力を付けるなら、効率的に付けることが可能になる方法を、自分で考えて行ってトレーニングを行ったのだと理解する。
ウィルリーンは、その事に感心する。
「ところで、その成果は何時ごろ出たの?」
ウィルリーンは、ガリガリのジューネスティーンが、どれだけの期間で筋肉をつけたのか気になった。
それにカミュルイアンから、もっと話をさせるには、ジューネスティーンとの話を振る方が、手っ取り早いとも思ったのだ。
「1年の半ばには、クラスの中では、敵なしでした。 それに、2年になった頃には、格闘技の教官も倒してました。 しばらくは、教官もリベンジに燃えていたんですけど、2年の終わり頃には、教官も相手をするの嫌がってましたし、3年の時は、教官は格闘技用の格好はせずに椅子に座って指示だけしてました。 ジュネスが強くなりすぎたせいか、クラスの皆んなが、強くなっているって聞いた事があります。 それで教官が威厳を保つ為に自分たちのクラスの授業の時は、技は教えるけど、一緒に練習の中に入ることはしませんでしたよ」
カミュルイアンは、苦笑いをしつつ話した。
「へー、1年ちょっとで、ギルドの高等学校の教官を、抜いてしまったのですか」
「それと学校全体の格闘技大会は、年に2回あったけど、三年間で5回優勝してましたよ。 だから一番最初の大会だけ優勝できなかったけど、次からはずーっと優勝でした」
「それは凄いわ、上級生も形無しだったのね。 でも、何で、そんなに強くなれたのかしら? ただ、筋力を鍛えただけだと、技には敵わないと思うけど」
それについて、カミュルイアンは、ジューネスティーンに、解説を聞いていた。
「ああ、それについては、技を使うにしても、相手が、強い力で抑えつけてきたら、それまでなんだって言ってたかな。 投げ技で倒そうとしたら、倒す為の前段階の崩しが重要になるから、その崩しの為の力が必要とか、崩しの力をつけるのに、綱上りが一番適しているって言ってたかな。 それと、打撃系でも筋肉を硬くすればある程度は防御できるけど、それ以上の力で来られたら、防御も、へったくれも無いって、そんな事を言ってたな。 打撃の攻撃用にもなったのかもしれない」
ジューネスティーンは、技と力の関係を理解していたのだ。
ただ、カミュルイアンには、ジューネスティーンが言ったことの意味が、全て分かっているようには、話方からは感じられなかった。
「それで、筋力強化を行ったって事なのですか。 細部にわたって、細かな分析が出来てそれを実践してきたのね。 凄いわ」
「うん、凄かった。 あんなに強くなるなんて、出会った時には思わなかったよ」
「でも、出会ったおかげで、あなたも一緒に強くなれたんじゃないの?」
ウィルリーンが笑顔でカミュルイアンに言う。
上手く相手を褒める事に成功した。
ウィルリーンは、その事を顔に出さないようにしつつ、心の中で奇声を上げる。
「うーん、そうかもしれない。 僕は弓が一番得意だったんだけど、学校でほとんどの生徒が引くこともできなかった一番強い弓を弾けたからね。 ジュネスに引っ張られて一緒にトレーニングしてたのが効いたと思う。 でも、弓矢の飛距離だけはジュネスに敵わなかったよ」
珍しく、カミュルイアンが、自分の事を僕と言った。
流石に、初めてのエルフの前では、いつもの、オイラとは言わなかった。
「それは、年齢的なものかもしれないわね。 ジューネスティーンさんは、人属で二十歳位だから、エルフ属のあなたなら、成長が遅いから、あと15年か20年位後なら、今のジューネスティーンさんと、同じ位のことはできると思うわ」
それを聞いて、カミュルイアンは頭の中で何か考えだし、その結論が良い方向で出たのか、顔付きが良くなった。
すると、ウィルリーンに、お礼を言う。
「ありがとうございます。 何だか自信が持てました」
「そう、それはよかったわ」
ウィルリーンは、笑顔で答えるのだが、心の中では、舞い上がるような思いで一杯になるが、それを表には笑顔だけで表している。




