帝国で初めての会食 〜アンジュ達の転移〜
一方、ウィルリーンとシェルリーンのエルフ2人は、カミュルイアンとどうやって床を一緒にするかを考えている。
その思惑を知ってか知らすなのかカミュルイアンは、顔を赤くして下を向いて黙り込んでいる。
テーブルに届いたビールをソフトドリンクにい変更してもらうと、なるべく話さないようにして届いたソフトドリンクとお通しの料理をひたすら食べている。
アンジュリーンもどういった話をすれば良いのか困っていると、ウィルリーンは、本丸を落とすには外堀を埋めるところから始めるといった感じでアンジュリーンに話しかけてきた。
「あなた方は、今まで他のエルフと会った事は有りましたか?」
本質的な事は避けて、別の話を聞いてきた。
当たり障りの無い話をして緊張をほぐそうとしているのだ。
「私達は、南の王国の西の砂漠に突然現れたんです。 その時、私とカミュルイアンが2人一緒だったんです。 通りがかった冒険者の人に助けられて、始まりの村に送られたのですけど、それ以来34年、エルフ属の人と出会ったのは始まりの村のギルドマスターと王都でもう1人だけです」
すると、アンジュリーンは一瞬考えると直ぐに話を続ける。
「そういえば、そこのギルドマスターから、この子を見て、珍しいと言われたような覚えがあります。 その時は、何の事か分かりませんでしたが、お二人の話を聞いて何となく理解できました」
「そうでしたの。 でも、34年も前なら、まだ、小さかったのかしら」
「ええ、身長も、今より、もっと低かったし、体型も子供でした」
ウィルリーンは、転移者と話をするのは初めての事なので、転移した事を聞き始めた。
(第二次成長期に入ったばかりか、その直前位に現れたのね。 まだ、本当に子供の頃に2人だけで……。 さぞ心細かったでしょうね)
ウィルリーンは、そんな事を思いながら話を続ける。
「でも、西の砂漠で、良い冒険者に拾われて助かったわね」
(もし、人攫いにでも拾われれば、2人の人生は奴隷として終わっていたわね)
ウィルリーンは、少し黄昏れたような表情をすると、アンジュリーンが当時のことを思い出しながら話しをする。
「西の砂漠で見つかった人を、始まりの村に連れて行くとギルドから報奨金が出ますから、それで助かったのでしょう」
ただ、今のアンジュリーンの説明で、ウィルリーンは表情を戻した。
(なるほど、ギルドは転移者の囲い込みの為に、転移場所の近くに、ギルド支部を置いているって話は事実の様ね。 ギルドはこの2人に何を見出したのかしら)
昔に聞いた話とアンジュリーンの話を聞いて、転移者についての事が繋がったっと感じるのだった。
ギルドは、転移者の保護を行なっているので、始まりの村近くの西の砂漠で見つかった人を保護する為に高額な報奨金を出している。
転移者の記憶の断片によっては報奨金以上の価値があるとギルドは考えているので、生きたまま連れてきた場合は、かなり高額な報奨金が支払われる。
近年では、ジェスティエンの銃が有名だが、ギルドの創設者も転移者だったと言われていることから、自分と同じ境遇の子供の為にギルドを創設したとも言われている。
ただ、ギルドが設立されたのが、南の王国だったこと、転移点も南の王国ということもあり、そんな話も流れているに過ぎない。
ただ、南の王国では、ギルド本部の他に王都と始まりの村にギルド支部が置かれているのだが、他国ではギルド支部は1箇所のみとなっている。
その国の別の都市に支部の傘下の支所や出張所は有っても、一国にギルド支部が2つ有るのは南の王国だけでそれ以外の国に複数の支部は無い。
ギルドにとって、南の王国は特別な国になっているのだ。
ギルドの創設者が転移者だった事もあり転移者の保護を行っているのかもしれないが、ギルド創設者以降の歴代ギルド支配人と、ギルドの幹部は何度も入れ替わっている。
もし、ギルド創設者の情けだけで転移者の保護を行っていたのであれば、幹部が何世代に渡って転移者の保護を行う事は無い。
それが今でも続いているのは、新たな転移者を保護することで利益につながると判断しているからだろう。
最近、台頭してきたジェスティエンにしてもそうだが、自分達でも倒せるかどうかも分からない東の森の魔物を倒したジューネスティーン達、そういった目立つ存在もあるが、生活に関する新たな発見や発明は、ギルドから流れてくる。
表立って目立つ存在以外にも転移者は居る。
例えば、部屋でシャワーやトイレが使えるようになってから100年に満たないが、それも、ギルドから流れた技術である。
その為、都市部の生活環境が大きく改善されたと言われている。
そういった才能を持つ転移者のノウハウやスキルを可能な限り均等に各国に配分する事で、各国のバランスを保つ。
もし、強い魔物が台頭してくれば、その国に強い冒険者を送り、軍事バランスを保つようにする。
ギルドは世界の均衡を保つように動いているのではないか。
それに転移者との繋がりを持ち、何か特筆する才能を見つける事ができる場所となれば、始まりの村に支部を置き転移者の才能が開花したら、それをギルド本部に報告して手厚い加護を与えれば、ギルドと転移者との繋がりは強くなる。
アンジュリーンの話を聞いていると、ウィルリーンはそんなことが頭をよぎった。
東の森の魔物が活発化した事でジューネスティーン達を送り込み、その魔物をジューネスティーン達に倒させる。
ギルドは、冒険者の保護に手厚いので、そう簡単に冒険者を死なせないように、依頼を出すにしても慎重に行なっている。
ウッドタカスの件は、例外的な例で、その後、ウッドタカスの担当受付嬢が、受付嬢の仕事から外されたこともあるので、ギルドの思惑とは別の何かがあってウッドタカスに依頼が回ってしまったとも言える。
そう考えると、ジューネスティーン達の実力的に東の森の魔物に対抗できる戦力を持っていると判断してギルドは送り出しているのではないか。




