身だしなみチェック
バスルームでは、カミュルイアンの背中をレィオーンパードが、頭をジューネスティーンが洗う事になった。
備付けの石鹸・シャンプーを使って、洗うが、さすがに体の前を洗うのや、足を洗うのは、流石に嫌がったカミュルイアンだったので、その辺は自分で洗わせる事にした。
特に足の爪先や股間を洗うのは、3人とも自分で洗う方が良いとなった。
足の指の間は、念入りに洗うように指示すると、カミュルイアンは、足の指と指の間だけでなく、指の裏側まで丁寧に洗っていた。
それを見てジューネスティーンは、カミュルイアンの性格が出ていると感じる。
また、旅の途中ではバスタブに浸かる事もなかったので、軽く風呂にも浸かってから、もう一度同じ作業を行って、湯に浸かった後にバスルームを出る。
男3人が、バスルームから、腰にバスタオルを巻いて出てくると、女子3人は着替え終わって、リビングのソファーにいた。
ただ、持っている服は、南の王国にいた時に購入した物しか無いので、服のデザインは、帝国風ではなく南の王国風である。
アンジュリーンは、言った手前、かなり良いものをチョイスしている。
男3人も久しぶりに湯に浸かったので、満足して気の抜けた表情でバスルームを出てきた。
バスルームから出てきた3人に、気づいたアンジュリーンが、立ち上がり、スタスタと3人のそばに来ると、睨みつけるように覗き込む。
「3人、そこに整列!」
その勢いに圧倒されて、カミュルイアンとレィオーンパードが、慌ててジューネスディーンの両脇に立つ。
アンジュリーンは、男3人を整列させた前に立つと、近寄ってクンクンと匂いを嗅ぎ出す。
首の周りや脇に顔を近づけて確認しているのを、男達は恥ずかしそうにする。
しかし、ここで、何かを言ったら、アンジュリーンから返ってくる言葉が気になったのだろう、反論することなく、気の済むようにさせている。
アンジュリーンのチェックは、2人は直ぐに済んだが、1人だけ、カミュルイアンには念入りに匂いを嗅いでいる。
まず、顔の周りの匂いを嗅ぐと、胸の周りを脇の匂いが無いか確認して、後ろに回って、腰回りの匂いを確認して、前に戻って膝の辺りまで顔を下げって爪先を確認しながら、足の匂いも確認する。
アンジュリーンは、そこまで確認すると、納得した様子で顔を上げると、カミュルイアンに言う。
「用意できているから、それに着替えて!」
テーブルの上に置いてある服を指差す。
カミュルイアンの服だけ、テーブルの上に広げて、並べて置いてあり、ジューネスティーンと、レィオーンパードの服は、畳んだままの状態で、ソファーに置いてあった。
3人はそれぞれの服を持って、部屋割りの決まった寝室に入っていく。
「さっさと、着替える!」
男3人が、ホッとした様子で、部屋に移動するので、アンジュリーンは、喝を入れるように声をかけた。
慌てて着替えて出てきた3人を、アンジュリーンが、ジロリと睨みつける。
「お前ら、そこにならべ!」
その言葉に一気に緊張が走る男達が、出てきたドアから慌てて先ほどバスタオルで巻いただけで立たされた場所に慌てて移動して綺麗に横に並ぶ。
顔は、10代半ばのアンジュリーンなのだが、エルフ族ということで、転移後でもカミュルイアンと34年の人生を生きているのだ。
若く見えるわりに迫力はある。
まるで、母親に凄まれた子供達のようである。
ソファーに座って待っていた女性陣なのだが、アンジュリーンは、やっぱりといった表情をする。
「あのなぁ、今日の会食の相手は、格上なんだって事を分かってないのか。 これだから男どもは!」
右手の拳を握りしめて、自分の顎の辺りで力を込めると、眉間に縦皺を浮かび上がらせ、こめかみの血管が浮いて、口の端が吊り上がる。
拳からギシギシと音が出そうな位である。
今日は、上位冒険者であるユーリカリアのメンバーとの会食で、カミュルイアンの、お見合いも含まれているのだ。
身だしなみは、綺麗にする必要があると考えていた、アンジュリーンなのだが、男どもには、その重要性が理解できて無い事に苛立ちを覚えたのだ。
確かに男3人を急がせたのは、アンジュリーン達だが、急いでいるからと言って、いい加減な事はしてほしくはないのだ。
急ぐというのは、確実に言われた事を終わらせるのは当たり前で、いい加減に終わらせて良いというものでは無い。
完璧にこなして急ぐなら、褒められるのだが、適当に急いで行った完成度の悪い仕事は、必要以上に叱られるのは当たり前の事なのに、男達はそれを怠ったのだ。
「それで着替えたつもりなのか?」
なんでアンジュリーンが怒っているのか、男3人には、分からないようなので、その質問の意味が掴めずにキョトンとしている。
「全部言わないと、分からないみたいだな」
アンジュリーンの言葉に女性2人は、やれやれと言った感じで、男3人を見ていると、アンジュリーンが男3人の身だしなみチェックが始まる。
「お前達、なんで髪の毛が濡れている。 濡れた髪で服を着るとはどういう事! それと、ジュネス、ボタンは全て留める。 カミューもレオンも一緒。 それと、レオン、シャツはズボンの中に入れる。 カミュー、お前の左足なんだけど、ズボンの裾が靴下に入っているんだけど。 片足だけズボンの裾を靴下の中に少しだけ入れるって、どういう事なの! そんなファッションが世の中に存在するのですか。 ズボンのベルトは、止めっぱなしで手前でブラブラさせているのは、あちらのエルフを直ぐに持ち帰ってイチャイチャしたいからですか? がっつき過ぎじゃないですか。 そんなに溜まっているんですか?」
アンジュリーンは、徐々にカミュルイアンに近付いたと思うと、爪先立ちになって、上から覗き込んでおり、真剣すぎたのか、自分の発言内容がどういった事を言ったのか理解出来て無いようだ。
ただ、アンジュリーンの剣幕に、誰もその事を突っ込む者はいない。




