金糸雀亭の亜人奴隷
ルイセルから、指示を受けたリアミーシャは、ジューネスティーンに向くと笑顔で応対する。
その応対にも、奴隷特有の陰湿さは全く見受けられず、普通の宿屋の従業員の対応だと感じる。
「本日は当店をご利用いただき誠にありがとうございます。 お客様のご来店を心より感謝いたします。私は、当店のルイセルの奴隷のリアミーシャと申します。 御用の時は、お気軽にお声かけください」
リアミーシャは一般的な従業員としての対応をする。
ジューネスディーンは、奴隷がこんな丁寧な応対をするとは思ってなかったので、少し呆気に取られて、軽く返事をするだけにとどまった。
そんなジューネスティーンの反応を気にすることなくリアミーシャは続ける。
「お客様、馬車の入れる場所まで私がご案内致します」
ジューネスティーンは、一般的な奴隷とは違い、無理やりやらされているような、陰湿な様子が無いことに驚きつつ答える。
「あ、ああ、ありがとう」
そう言うと、レィオーンパードに指示を出す。
「馬車を入れてきてくれるか」
「分かった、にいちゃん」
そのやり取りを聞いていたリアミーシャが、レィオーンパードに向いて応対する。
「それでは御案内致します。こちらへ」
そう言って、2人は今入ってきた玄関に向かった。
そのやり取りを見ていたジューネスティーンが、ルイセルに語りかける。
「あの娘は、ここの奴隷なのですか?」
ジューネスティーンは、あまりに奴隷らしく無いリアミーシャの接客が気になり、思わずルイセルに聞いてしまった。
「ええ、そうなんですけど、小さい頃から一緒だったから、兄弟みたいな感じです」
ルイセルは、リアミーシャの説明をどうしようかと思ったが、ジュエルイアンの客人ということで、彼女も含めた金糸雀亭の亜人奴隷についての説明をする事にする。
「彼女達は、死んだ両親が奴隷として買ってきたのですが、本当に小さい頃にここに来た時から、一緒に暮らしてましたので私達の妹みたいなものなんです。 それに父も母も自分の子供のように扱っておりましたから、私達も家族のように接しておりました。 なので、後から来た他の子達も彼女と同じように扱っております」
奴隷として買われてきた亜人なのだろうが、家の中で温かく兄弟のように扱われていた事で、接し方が違うのかとジューネスティーンは感じる。
「それでですか。 奴隷紋を持つ亜人は、何処か寂しげだったり、暗い雰囲気が有ると聞いたのですけど、今の娘にはそれが全く感じられなかったので、つい聞いてしまいました」
「私達の両親が亡くなった時に、彼等のマスターが私の父だったので、奴隷紋の効力が亡くなったので、奴隷紋を消そうとしたのですが、その時に彼らが、帝国では亜人の地位が低いので、誘拐されても困るからと、彼女らの希望でそのままにしておいたのです。 その後、私と彼女らの間で奴隷契約を行ったのです。 なんだか妹や弟を奴隷にするみたいで嫌だったのですが、誘拐されて別れてしまったらと思うと、その方が悲しい結果になるかと思って、奴隷契約しているのです。 それに、何かあった時は奴隷紋の魔素を辿って見つける事も可能ですし、いつも一緒に暮らせるようにしているだけですから、名目上奴隷となっているだけなのです。 昔から、彼女らとは、何をするにも一緒なので、他の奴隷達とは待遇が違うのでしょうね。 他の奴隷と違うと感じたのは、きっと、そのせいでしょう」
一般的には、主人と奴隷は同じようには扱われない。
食べるものも食べる場所も全て別として扱われ、必ず、主人より下に位置するのだが、金糸雀亭では帝国という人属至上主義、亜人奴隷を公式に認めている国なので、奴隷でない亜人は人攫いに会うこともあるので、身元を明確にして人攫いに合わないようにと奴隷契約を行っているだけなのだ。
それが、リアミーシャの表情に出ているのをジューネスティーンが指摘したのだ。
「そうだったのですね。見ているとあなた方の関係が気持ち良い感じなので、こちらとしても落ち着きます」
ジューネスティーンは、率直に自分の意見をルイセルに話しただけなのだが、ルイセルとすれば、それは最高の評価となる。
顧客が落ち着いたと感じさせる事ができたのなら、自分たちの接客の評価が高いと見てもらえているのだから、良い評価をもらえたと喜んだ。
「ありがとうございます。お客ように喜んでいただければ幸いです」
そんな話をしていると、レィオーンパード達が戻ってきた。
部屋の場所や鍵の扱いについて一通りの説明を受けて、宿帳に記載する。
終わったところで、ジューネスティーンは、ユーリカリアとの約束を思い出して、夕食の予約ができるか尋ねる。
「今日の夕飯をお願いしたいのですが、店の食堂は使わせてもらえますか?」
「ええ、問題ありません」
ルイセルは、キッパリと答えるのだが、人数が増えてしまうことが気になった。
「他のパーティーと一緒になりますので、合計で12人で自分とシュレ以外が亜人にになりますけど、よろしいですか?」
ジューネスディーンは、帝国の中、特に帝都での事なので気になって聞くが、ルイセルはそんなジューネスディーンの心配を吹き払うように笑顔になる。
「問題ありません」
キッパリと、問題無いと答える事で、お客に安心感を与える。
若い女性ではあっても、宿屋の支配人である。
会食での売り上げを考えれば、断る理由がない、それに支払いはジュエルイアンに付けておけば良い。
ジュエルイアンから購入している食材と相殺すると考えれば、大きな問題にはならない。
ただ、急な食事の追加で食材の量の不安はあるが、常に補充している事を考えれば、その程度の人数の追加ならなんとかなる。
後は、料理人である兄の負担を抑えて、どうやってスムーズに運用するかになるが、先程のリアミーシャの他に2人のメイドも妹のアイセルも居るのだからなんとかなると考える。
「ありがとうございます。 お席の方をご用意させていただきますけど、お料理の方はどうなさいますか? 何かリクエストがあれば、厨房の方に伝えておきます」
そう言われて、ジューネスティーンは困った顔をする。
「自分達は、この辺りの料理は分からないので、彼女らにお任せしようと思ってます」
「では、メインディッシュはリクエストしてもらって、それ以外はシェフのおまかせという事でどうでしょうか?」
その提案にジューネスティーンは同意すると、ルイセルはジューネスティーンの会食の相手が、人属ではなく、彼女らと言った事で、浮かぶ顔ぶれがあるので確認の必要があると判断する。




