金糸雀亭
ユーリカリアのメンバーと夕食の約束を取り付けてからギルドを出て宿屋に向かう。
ギルドの建物から門までは距離がある。
そこには、馬車が何輌かあり止められている。
どれも、馬車には馬や地竜が繋がれていて、ギルドの用事が済んだら直ぐに移動するための駐車場になっている。
時には、冒険者の訓練や試験に使われるので庭として大きな広さを確保している。
建物から門までの間には、ギルドの中に居る人数に比べると馬車の数は圧倒的に少ない。
冒険者と言っても、ピンからキリまでなので、常時馬車を使える冒険者は少なく、どちらかと言うと、レンタルして目的地の往復に利用して、依頼が済んだら返却する程度だ。
ギルドの正面の通りを馬車で西に移動すると直ぐに金糸雀亭がある。
馬車を入口付近の馬車止めに止めて宿屋に入ると、奥のカウンターにむかう。
カウンターの呼び鈴を鳴らすと、20代後半かと思われる女性が1人奥から出てきた。
出てきた女性はジューネスティーン達に愛想良く応対をする。
「いらっしゃいませ。 お泊まりですか?」
聞かれて、ジューネスティーンが、自分の名前を伝える。
「ジューネスティーン・インフィー・フォーチュンと言います。 今日からしばらくこちらに泊まりたいのですが?」
その女性は、名前を聞いて予約の入っている人物だと思い出すと笑顔で答えてくれた。
「ジュエルイアン様からお話は聞いております。 遠いところ、良く来ていただきました。 歓迎します」
そう言って、一度礼をするとジューネスティーンが話しかける前に話し出してきた。
「私は、金糸雀亭の支配人のチェオル・フィル・ルイセルと申します。 ここは、帝国臣民ですので、チェオルがファミリーネームになりますので、チェオルだと家族の誰か分からなくなるので、ルイセルとお呼びください。 何か御用がございましたら、遠慮なくお申し付け下さい。 それと、ジュエルイアン様から、全員が一緒の部屋にと言われておりますので、家族用の部屋をご用意しております。 ですから6人でも十分に使えると思います。 それに部屋の中には寝室が3部屋とバスルームとトイレが有りますのでご満足頂けると思います」
一気に捲し立てるように言われたが、なんとか全部を聞き取ったジューネスティーンが、随分高級そうな部屋だと感じる。
通常なら、一部屋で6人が3つの二段ベットで寝泊まりするだけの部屋で、用を足すのも部屋の外の共同トイレで、風呂は桶で湯浴みをさせてもらう程度が一般的なのだが、貴族が使うような部屋を用意してもらっている事に恐縮する。
「いや、そんなに良い部屋で無くても構わないのだが」
それを聞いた、ルイセルが笑顔で答える。
「お部屋はジュエルイアン様からご指示されております。 ジューネスティーン様とお連れの皆ようにお使いいただくようにご用意させていただきました。 それと、お支払いは、ジュエルイアン様が行いますと伺っておりますので、ご心配には及びません」
「え、そう言う話は聞いてないのですが」
ジューネスティーンは、困ったような顔をする。
ありがたくは有るが、ジュエルイアンに借りを作る事で、後で何かを要求されるのではないか考える。
「そう言われても、あなた方は、自分の客人なので、くれぐれもあなた方からは絶対に宿代は取らないように言われております」
ジューネスティーンは、してやられたと思いつつも、ルイセルも譲る気配が無いので、渋々納得する事にする。
「分かりました。そちらの部屋を利用させていただきます。 それと、使っている馬車と引いている地竜も預けたいのですが」
「かしこまりました。馬車を入れる車庫、馬や地竜を入れる厩舎が裏に有りますので、そちらをご利用ください。 世話も当店で行いますので遠慮無くご利用ください。 厩舎には、店の横から行けますから、今、別の者を案内させますので少々お待ちください」
馬車と言ってはいるが、馬車を引くのは、馬だけとは限らない。
馬以外には、地竜と言う草食系爬虫類と羽が退化した大型の鳥類が一般的な馬車を引く動物になる。
馬は4足歩行だが、地竜と鳥類は、2足歩行なので厩舎の作りが少し変わってくる。
ルイセルが、奥に声を掛けると、ウサギ系の亜人が現れた。
アリアリーシャと同ように背丈は低い、耳がウサギなのでウサギ系の亜人と分かった。
ただ、V字に開いた襟から、わずかに胸の奴隷紋が見えているので、この店の奴隷と直ぐにわかる。
ルイセルは、その亜人に指示を出す。
「リアミーシャ、お客様を厩舎に案内して、馬車を車庫に、地竜は地竜用の厩舎に入れてあげて。 それと、イドディーンに言って地竜の世話をするように言っておいて、旅で地竜も疲れているだろうから、十分に労ってあげるように伝えておいて」
ルイセルに指示されると、リアミーシャは笑顔で答える。
「はい、かしこまりました」
その答え方には、奴隷独特の陰気な感じは見受けられず、ルイセルを慕っている感が出ているように元気に答えるので、ジューネスティーンには新鮮に見えた。
「リアミーシャ、この方達は、ジュエルイアン様のお客人です。 しばらくこちらに滞在するようになりますからご挨拶をしておいてね」
「はい、ルイセル姉様」
リアミーシャのルイセル姉ようには、少し驚く。
胸に見えているのは、奴隷紋がある。
それは、店の亜人奴隷なのだろうから、人属のルイセルに対してルイセルようなら分かるのだが、姉様と付けているので、まるで姉妹のような対応に心地よいような違和感を感じる。




