ウィルリーンとシェルリーン 3
エルフの男性事情については、ユーリカリアも察している。
極めて稀な男性エルフとの接触で、なんの妨害もなく話ができるような事は、かつて無かった事なのだ。
この機会に、ウィルリーンもシェルリーンも、男性エルフである、カミュルイアンと親交を深めておいて、今後に繋げたいと思っていることは、手に取るように分かっているのだ。
そんな思いをさっしたのかユーリカリアが、ウィルリーンとシェルリーンを見ると、自分達では言いにくい様子だったので代わりに答える。
「ああ、そういう事で良いと思う」
ユーリカリアが代わりに言うと、ジューネスティーンはカミュルイアンに、お互いのリーダーどおしが話した内容で良いか確認をとる。
「構わないか?」
「……。 オイラ、女の人に積極的にされた事無いから、何とも……」
それを聞いて、ジューネスティーンが納得したような表情をすると、ユーリカリア達に解説を加える。
「問題無いみたいです。 ちょっと面食らっているみたいなので、そちらのお二人次第ですので、上手く扱ってやってください」
その言葉にウィルリーンは、久しぶりに出会う男性エルフに、こうも簡単に話が進んだことに、緊張の色が隠せずにいるが、礼儀として答えなければと思いつつ答える。
「ひゃい、よろひぃく、おねぎゃい、しみゃす」
しかし、普通に話すことができすに、また、カミカミで応えると、後ろから、シェルリーンが、ウィルリーンより落ちついた口調でお願いをする。
「それでは、今日の夕食をご一緒させていただけないでっ」
後ろにいたフェイルカミラが、今日会ったばかりで、しかも長旅での疲れもあるから失礼だろうと考えたのだろう、後ろからシェルリーンの頭を小突いて話を途中で止める。
シェルリーンは、小突いたフェイルカミラを、恨めしそうに睨むので、フェイルカミラは理由を説明する。
「あちらのパーティーは、帝国に来たばかりなんだ、しかも強力な魔物を倒した後で疲れているだろ、少しは遠慮しろ」
シェルリーンは、頭をさすりながら、少し涙目でフェイルカミラを見るが、言われた通りかもしれないと思ったのだろう、流石に今日は無理かと諦めようとする。
ウィルリーンも、自分が誘おうと思っていたらしく、シェルリーンが言ってくれたので助かったといった表情をしていたが、フェイルカミラの言う通りだと、こちらも今日は無理だと思い、残念そうな顔をする。
それを見てジューネスティーンが、助け舟を出す。
「うちのほうは構いません。 来たばかりなので、右も左も分かってないので、色々教えて頂ければ、こちらとしても助かります」
ウィルリーンとシェルリーンが、ジューネスティーンの意外な申し出に、驚いたり、喜んだりしているので、まともに、お礼もできないと思った様子で、ユーリカリアが2人を代弁する。
「ああ、助かる。 それじゃあ、私達は、金糸雀亭と道路を挟んで向かいにある金の帽子亭に居るから、それじゃあ、今日は私達がそちらの金糸雀亭の方に行くよ」
その提案にジューネスティーンは、格上のパーティーに対して失礼なのではと思ったようだ。
「よろしいのですか? こちらから出向かせてもらっても構いませんけど」
ユーリカリアはジューネスティーンの近くに寄って、小声で話したいのか顔を寄せるようにと、指でジェスチャーする。
身長180センチのジューネスティーンと、ドワーフにしては大きめだといっても、身長160センチのユーリカリアでは、身長差が20センチもあり、ジューネスティーンの耳に、ユーリカリアの口を持っていくには、流石に、届かないのだ。
ジューネスティーンは、少し腰をかがめてくれたので、隣でユーリカリアを睨むように凝視しているシュレイノリア側の耳元に顔を近づけると、シュレイノリアにも聞こえる程度の声で囁く。
「すまない、うちのエルフ2人が、お宅の男エルフに夜這いを掛ける可能性があるかもしれない。 だけど、逆は無いだろう。 なので、2人のエルフの顔を、金糸雀亭の従業員に、覚えておいてもらおうと思ってな。 万一、2人が夜這いをかけて、泥棒か強盗と間違えられても困るから、顔繋ぎさせてくれ。 少しでも不安要素は潰しておきたいんでな」
その話を聞いていたシュレイノリアは、納得したような表情をすると、すぐに、通常モードの無表情に変わる。
一方、ユーリカリアの言葉に、ジューネスティーンは、なんとも言えない表情をする。
(確かに、それで騒ぎになっても困るな。 ユーリカリアさんは、有名なパーティーらしいから、そんな事で騒ぎになっても困るな)
ジューネスティーンも、ユーリカリアの提案に同意する事にする。
「そう言う事なら、でも、そう言ったことは、個人の意思を尊重しますから、自分は目を瞑ります。 でも、積極的に協力はしませんし、妨害もしませんよ」
あくまで中立をしようとするジューネスティーンの発言にユーリカリアは安心する。
「ありがとうよ。 それで構わない。 それじゃあ、私達は、今日の稼ぎを換金したり、汗も流してからにしたいんだ。 少し時間をもらう事になる」
2人のエルフの事情を分かってもらって、夕食の約束も取り付けたので、ユーリカリアは、具体的な話を始めた。
「ええ、こちらもそれで構いません」
ジューネスティーンも、ユーリカリアの提案に同意した。
「じゃあ、今晩は金糸雀亭に行くので、後で落ち合おう」
「よろしくお願いします」
そう言ってから礼をしてジューネスティーン達は、ユーリカリア達を見送ると、ギルドを出て金糸雀亭に向かう。
一方、ユーリカリア達は、ルイゼリーンに連れられて受付カウンターに向かうと、シェルリーンから、急かされるようにして、今日の換金を済ませる。
終わった後も、ユーリカリア達は、2人のエルフに急かされて、急いで金の帽子亭に帰ったのだった。




