受付嬢 ルイゼリーン 2
ユーリルイスは、慌ててルイゼリーンを席に誘導してから話しかける。
「うまく、お前が担当することができたようだな」
「ええ、人属以外の方も含まれているパーティーでしたから、他の方々は、早々に担当する事を放棄していただけましたので、私の担当に入りました」
ギルドに入った時に、受付嬢が立ち上がって、奥に下がったのは、自分は担当したく無いという意思表示だったのだろう。
1人残ったルイゼリーンの所にジューネスティーンが向かうようにと他の受付嬢が仕向けたのだが、ジューネスティーン達の情報を予め知っていたルイゼリーンは、他の受付嬢達の考える事を考慮して上手く立ち振舞ったのだ。
ジューネスティーンは丁度良いと思って、初めて見た時の違和感をルイゼリーンに聞くことにした。
「失礼ですが、人属の方ですか」
ルイゼリーンは表情を変える事なく笑顔で、ユーリルイスに視線を送る。
ルイゼリーンは、自分から話す事ができない内容に触れる可能性があるので、上司であるユーリルイスに助けを求めたのだ。
「なかなかの慧眼の持ち主なのだな」
ジューネスティーンの質問にユーリルイスが口を挟むと、ジューネスティーンの質問に答える。
「表向きは、受付嬢を行わせているが、ギルド情報部の所属だ。 何かあった時は彼女に知らせてくれれば良い。 ギルドの支部の職員は、大半が現地採用となるのでな。 中には帝国の軍や貴族の息の掛かった人間も何人かギルド内に居るので、気をつけてくれ」
その話の後をルイゼリーンがはなす。
「それとエルフに変装しているのは、こちらでは人属以外を下に見る傾向がありますので、それで、このような形をしております。 受付嬢の中には帝国出身者もおりますので、人属以外でしたら、新人パーティーは私の方に担当が回って来ますし、帝国で雇われた受付嬢の方々とは殆ど接触の機会も少ないので便利なのですよ」
笑顔で答える。
ルイゼリーンは、自分の身分が情報部にあり、受付嬢として働いているのは、表向きなので、他の職員に秘密を知られない為にも、可能な限り孤立するようにエルフの格好をしているのだ。
帝国では、人属以外の亜人種に対する奴隷制度が認められている。
その為、ルイゼリーンの耳を見てエルフ属と認識されているので、帝国内で雇ったギルド職員からルイゼリーンは浮いた存在になっている。
他の職員との接点が少ないことで、自分の身分が他の職員には知られにくくしている。
そんな話を聞いていて、アンジュリーンが話を総合してから、ある事に気がつく。
「じゃあ、受付で驚いたような顔は演技だったんですかぁ?」
アンジュリーンが気づいたことをそのまま言葉にした。
情報部の所属となれば、ルイネレーヌの報告について聞いているはずで、情報を得る事売る事を商売にしているルイネレーヌなら、ギルドの情報部絡みの仕事も多くこなしているはずなのだから、情報部のルイゼリーンがルイネレーヌを知らないはずは無い。
それにルイネレーヌはギルドから別の依頼を受けて、ジューネスティーン達と昨日接触したのだとすれば、その依頼の達成報告は、この帝国支部で依頼達成の処理を行なっているはずである。
それなら、昨日のうちにルイネレーヌが報告をしていたのであれば、ルイゼリーンの耳にも入っているはずである。
「はい、東街道の魔物を討伐したジューネスティーン様達のお話は予め伺っておりました。 でも、受付嬢の立場上あのような態度を取らざるを得ませんでした」
「う、う、う、騙された」
シュレイノリアは、呟くように言うと、ルイゼリーンは笑顔を向ける。
「お気遣い頂きまして、ありがとうございます」
ジューネスティーンは、ルイゼリーンの耳もそうだったのだが、態度についても初めて聞く話の態度にしては芝居がかったように思えたので、その辺りの違和感から、なんとなく感じていたのだが、今の話を聞いて納得する。
そんな事を考えていると、今の会話が、外に漏れたらどうなるのか?
ルイゼリーンが身分を隠して受付嬢をしているのなら、その話が漏れるのは問題になるのでは無いかと感じる。
「ところで、ギルド内に帝国の息のかかった人が居るとなると、ここでの会話は大丈夫なのでしょうか? 」
ジューネスティーンの質問にユーリルイスは、落ち着いて答える。
「特に問題無い。 遮音については3重の遮音と偽会話を流せるようにして有る。 遮音防御は2重になっていてそれを突破されても偽会話しかきくことができない。 それに遮音防御の魔法を突破しようとすると、知らせが入るようになっている。 こちらとしても情報部が常駐して確認をとっているので問題は無い。 それに帝国で雇った職員については身元の確認を行なっている。 繋がりのある貴族も分かっている。 もし、ギルド職員を使って君達に接触を試みるなら、入ってきたタイミングになるが、それも見受けられなかったから、今のところギルド内は大丈夫だと考えている」
少し安心するジューネスティーン達、ジューネスティーンはアリアリーシャに視線を送ると。
「特に変わった動きは無いですぅ。 盗聴している人もいないみたいですぅ」
「やはり、ウサギ系の亜人の方は、お耳が良い様ですね」
少し、嫌な顔をするルイゼリーンに、ジューネスティーンは答える。
「念には念をと言いますから」
ただ、ジューネスティーンは、シュレイノリアの探知については何も聞かない。
ジューネスティーンの言葉に、ユーリルイスは抜かりがないと感じる。
「まぁ、構わない。 それと、これからの予定だが、最近東の森の魔物が帝国内に現れる事が有る。 その魔物の討伐を行ってもらいたい。 幾つか依頼をこなして貰えれば東の森への切符を帝国が出してくる。 東の森への進入はその後になると思うが、昨日の戦いっぷりは、ルイネレーヌから話は聞いているので君達なら問題無いと思っている」
「わかりました。 では、今日は宿に向かいます」
「これからも宜しく頼む」
そう言うと、ユーリルイスは、さっきの事を思い出す。
「それと、さっき話してくれた、東の森の魔物の事なんだが、ルイーゼに伝えておいてくれ」
ジューネスティーン達にそう言うと、ルイゼリーンに指示を出す。
「ルイーゼ、すまんが、昨日の東の魔物に付いて彼らから話を聞いてまとめておいてくれ。 大会議室なら空いているはずなので、そこで、話を聞いて内容をまとめておいてくれ。 多分、本部から報告書にまとめるように指示が出ると思うので、今のうちにまとめておてもらえないか」
「かしこまりました」
そう言うと席を立ってユーリルイスの執務室から出るジューネスティーン達をルイゼリーンが案内をする。
ルイゼリーンは、大会議室にジューネスティーン達を案内するのだが、話を聞くだけならそんな数十人が入れる会議室ではなく、人数に相応しい会議室も有ると考える。
だが、会議室で6人の話を聞いて、会議室の黒板が必要だったと理解した。
黒板に一通りの内容を記載しておき、その内容を羊皮紙にまとめるのだが、全員がそれぞれの役割分担から感じた内容を明確に話してくれたので、報告書に纏めるには通常の6倍の羊皮紙が必要になり、ルイゼリーンは経理から小言を言われ、半分しか支給されなかった羊皮紙をユーリルイスに泣きついて、融通してもらったのは、後日談である。




