東街道に出た東の森の魔物 〜今後の活動〜
府に落ちないような顔をしているが、今の件には触れないようになる。
「それより、あんな魔物は大ツ・バール帝国にはウジャウジャ居るのですか?」
ジューネスティーンは、疑問をルイネレーヌに尋ねる。
「あれだけ強い魔物になると、帝国の東側にある森だけだな、今回のように森から出てくるやつは、時々、居るみたいだ。 だが、あんなに人間のように行動する魔物は聞いたことがない。 ギルドも、東の森の魔物については、調査はこれからになると言っていた。 私も、詳しい事は調査中と言うより、これからになる」
簡単に倒せない、東の森の魔物については、謎の部分が多いと言うより、ほとんど分かってないのだと、今の話でメンバー達は理解した。
「これから調査なのに、何で、今の魔物が、東の森だけだと言えるんだか」
アンジュリーンが、気に入らない様子で、ツッコミを入れると、ルイネレーヌはニタァと笑って答える。
「情報を得るものは、それなりに横の繋がりがあるのさ。 それが敵であっても繋がりは有る。 時にはそう言った人物からも、情報を得ることが出来るんだよ」
「敵もいるなら、ガセを掴まされたなんて事はないのかしら」
アンジュリーンは引き下がらない。
だが、ルイネレーヌは、余裕の表情で答える。
「情報の世界は辛辣なんだよ。 ガセだったと判れば、そいつの情報は使えないと言うことになる。 次からそいつには真の情報は流れなくなる。 そうなったら情報屋は廃業さ。 隠す事は有っても嘘は言わない。 それが情報を得るって事だよ」
そこまで言われてしまうと、アンジュリーンは黙るしかない。
言い負かされたアンジュリーンが黙るので、ルイネレーヌは話を続ける。
「最近は、帝国内のギルドも軍も活発に動いているみたいだ。 帝国に滞在中は、同じような魔物に遭遇する事も視野に入れて活動した方が良い。 それと、その装備だから帝国軍には気をつける事だ。 装備は、奪われないようにな」
「にいちゃん気をつけてね」
レィオーンパードが呑気に言うと、ルイネレーヌは本質を分かってないと思う。
「おいおい、呑気な事を言うねぇ。 この坊やは、お前にも言っているんだよ」
「えっ!」
ルイネレーヌは、現在の大ツ・バール帝国では、人属至上主義をとっており、亜人の奴隷を、この大陸で、祐逸認めている国なので、学校卒業後のC・Dランク冒険者を狙った奴隷組織もある。
なので、帝国以外にも危険な組織が、彼らを狙っている可能性があり、ジューネスティーンとシュレイノリアの秘密を知れば、それを狙った裏社会からも狙われる可能性がある。
そんな中で、レィオーンパード・アンジュリーン・カミュルイアンの若手の3人と、ウサギ系亜人のアリアリーシャとなれば、そういった裏組織から、狙われる可能性は大きい。
また、南の王国で人気の鍛冶屋であるエルメアーナの剣については、ジューネスティーンの開発した技術の事を考えれば、誰か1人の剣だけでも、売りに出せば、破格の値段が付く可能性が高い。
パワードスーツや魔法以外にも、機密の塊のようなパーティーなのだから、ひったくりのような連中にも狙われる事になる。
それを、なんと呑気に、自分は関係ないような発言をするので、ルイネレーヌは釘を刺しておく必要があると判断したのだ。
「お前達の1人でも喉から手が欲しいんだよ。 基本お前達の装備している剣だけでも一級品になる。その細身の剣と一般の剣で叩き合ったらどっちの剣が先に折れるのかな。 作ったのはジュネスだろうが、持っているのはお前達だ。 第一ターゲットになるのは、ジュネスとシュレになるだろうが、それが駄目だったら、他のメンバー達か、メンバーの持ち物を狙う方にシフトチェンジするか、人質って事も考える可能性がある」
黙ってしまうメンバーを見て、ルイネレーヌは、さらに続ける。
「ジュネスの装備、シュレの魔法、どちらも喉から手が出る程欲しがっているに決まっているだろ。 誰か一人、人質にしてジュネスに言う事を利かす。 軟禁し、その装備を作らせる事にすれば、帝国でも犯罪組織でも、技術力や魔法力は大きく進歩することになる。 組織からしたら、お前たちは、金の成る木なのだから、簡単に考えてもらっては困る」
脅かされているように聞こえるが、可能性の無い話ではない。
それを聞いた4人は、あり得る話だと、元気をなくしてしまう。
ジューネスティーンは、ギルドもジュエルイアンもその事が分かっているから、周辺を秘密裏に探り、事あらば、その危険を排除するために、別働隊としてルイネレーヌを送り込んだのだろう。
それだけの事をしても、東の森の先にある大陸の東側には、価値があるという事になる。
ジューネスティーン達パーティーを東の森に送り込むにあたって、万全を期す必要があるなら、それまでの安全は絶対に確保したいのだ。
それなら、自分達に依頼を出したギルドや、ジュエルイアンのような商人は、ルイネレーヌに依頼を出し、無事にジューネスティーン達を、調査に向かわせようと考えたこととなる。
「それは、最初から分かっていた事です。 こちらにも目的が有るから帝国へ向かう。 その為に貴女が来たのでは?」
ジューネスティーンは、ルイネレーヌ程の腕のたつ人が、連絡程度で自分達と接触したとは思ってない。
彼女は、裏社会の暗殺者ともやりあえるだけの能力を持つメンバーを揃えているのだ。
自分達が知らない間に、表に出てこない戦いを行なっている事もあるのだと考えられるのだ。
ジュエルイアンからも、ギルドからも何らかの依頼を受けていると思っていた事と、それと今までの話で、今後の自分達の動向を監視を兼ねて、安心してジューネスティーン達が目的を果たすために、影になり表になり助けるのが、ルイネレーヌ達の仕事なのだろうと確信する。
「全く。 こちらの動きも、お前には察しがついているようだね」
ジューネスティーンの表情を見て、ルイネレーヌは、自分の仕事の内容を理解したと見たようだ。
「ギルドの考えも大凡察しがつきます。 そうで無ければギルドも帝国へ行く事を許可しなかったはずです。 優秀な監視役に期待しています」
(こいつ、本当に周りのことがよく見えている。 頼もしいと言うか、ホント、怖いくらいだ。)
ルイネレーヌが思っていると、ジューネスティーンは、話をまとめるようにメンバー達に話をする。
「そう言う事なので、帝国に入ったら単独行動は禁止だ」
自分達の身の危険があると考えると、単独で行動した際は、何らかのアクションがある可能性が高いと考えると4人は納得する。
封建社会の怖いところは、権力を持つ人間が、気に入らなければ、簡単に人の命も無い。
逆らうようなら殺してしまえば、証拠は残らない程度にしか考えてないことと、何か問題があっても家の権力をかざしてしまえば、冒険者でも一般市民でも何とでもなってしまうのだ。
そういった社会なら、裏社会としても裏金などで、罪を握りつぶす事も可能になる。
そんな裏の事情を面と向かって言われ、自分達がターゲットに上げられると分かると、誰も、いい気はしない。
黙って、ジューネスティーンに言われたように、単独行動は行わないことが、自分の身を守る第一歩なのだと実感する。




