東街道に出た東の森の魔物 〜戦闘終結〜
パワードスーツは、人の動作を完全に再現しているわけでは無い。
人は骨格を中心に筋肉覆われていて、その筋肉の収縮で動くが、パワードスーツはそれに合わせて動けるようにしている。
しかし、膝関節も股関節も人の動きのようには出来てない。
もし、正座をするなら、太ももの裏とふくらはぎのガードが邪魔になる。
パワードスーツは戦闘用に作られているので、正座をする必要性が無いので膝は直角より少し曲がる程度に、股関節も胡座をかくことはできないが、歩く、走るには問題無い程度には自由度が有る。
コアと金塊を拾うと、ジューネスティーンはメンバーに労いの言葉をかける。
「皆んな、よくやってくれた。全員、怪我とかは無かったか」
ジューネスティーンが言葉をかけると、直ぐにレィオーンパードが答える。
「問題無いよ、にいちやん」
「私は、ちょっと手が痺れた程度だけど、問題無いですぅ」
アリアリーシャは、身長130センチと小柄なのに、身長2メートル50センチの魔物と対峙して、最初の一撃を与え、その後も攻撃を加えている。
それに硬い鱗に覆われていたのだから、その反動を受けて手が痺れたのだろうが、その程度で済んで良かったと思う。
ただ、中衛の2人は、第一射の時に、ルイネレーヌに気を取られてしまったカミュルイアンの事をアンジュリーンは根に持っていた。
「このバカは、あの女に気を取られて、弓を射るタイミングが遅れたんだけど」
慌てるカミュルイアンが反論する。
「あっ、あれは、少しずらした方が効果があるかと思って」
その後に言葉を続けようとするが、アンジュリーンがそれを遮る。
「ふん、どうせエロい事でも考えてたんでしょ」
「そっ、そんなこと無い!」
「あんたが遅れなかったら、何方かの矢は当たってたんじゃないの。一本でも当たっていれば、リスクも減ってたとあんたは考えないの」
まだ、ルイネレーヌの事を根に持っているアンジュリーンなのだが、これ以上言い争いにしてもと思いジューネスティーンが口を挟む。
「あの魔物は、知能も高かったから、それに後から2本同時に射た矢でもギリギリで受け止められていたから少し遅れても問題なかったんじゃ無いか? だから、そんなにカミューを責めなくても」
「でもぉ」
不満そうにアンジュリーンが言うが、それ以上言ってこなかった。
上手い言葉が見つからないのか、頬を膨らませているとシュレイノリアが話しかける。
「森の中が心配。 外れた火魔法の矢の行方が不安」
最初に放った後、魔物に躱された矢はそのまま森の中に飛んで行ったのだ。
矢の行方の事を言うと、アンジュリーンとカミュルイアンが慌てる。
「「あっ」」
声を上げると、全員が慌てて、矢の飛んで行った方向の森を見ると、煙が上がっているのが見える。
「アリーシャ姉さん、2人を連れてちょっとみて来てくれないか。 シュレの魔法じゃ無いから山火事にはなってなだろうけど、後始末を見て来てくれ」
「了解ですぅ」
アンジュリーンとカミュルイアンだけでも問題は無いだろうが、念の為周辺の警戒も兼ねてアリアリーシャを一緒につける。
多分、ルイネレーヌのメンバーが周りを警戒しているので危険は無いが、2人だけで行かせると口喧嘩で仕事にならない可能性があるので、3人で行かせることにする。
そう言って、アリアリーシャが、2人のエルフを連れて森に入っていく。
3人が動き出すと、シュレイノリアが不満そうにジューネスティーンに話しかけて来た。
「私は、出番が殆ど無かった。大きな魔法を一発出したかった」
少し物足りなさそうにシュレイノリアが話すと、ジューネスティーンの隣にいるレィオーンパードの顔がちょっとひきつる。
氷魔法も水魔法の延長のようなものだからと、ジューネスティーンが言っていた事を思い出したのだ。
だが、ジューネスティーンは、そんなレィオーンパードの表情を気にする事なく、シュレイノリアに答える。
「氷魔法は撃ったよな」
「せめて、魔物が出てきた瞬間に、炎の魔法を撃ちたかった」
魔物が思った以上に強かったという事で、自分にも出番が欲しかったと思い不満を漏らす。
「それは、周りに木が生い茂ってない所でお願いするから、周りに燃えるものがある時は駄目だからね。 でも、氷魔法は撃ったよね」
氷魔法であるアイスランスを放ったことを言うジューネスティーンに、シュレイノリアは何とかごまかそうと何か考えている。
ただ、炎の魔法と聞いて、レィオーンパードは以前の事を思い出す。
炎の魔法によって、火傷をしそうになった時の事を思い出すと、なんだか、シュレイノリアの弁護をするより、ジューネスティーン側に回って、その時の事を反省させなければいけないのではないかと思う。
「シュレ姉ちゃんは、この前の事覚えてないのかよ。 俺と、アリーシャ姉さんの服の事。 にいちゃんはパワードスーツだから問題無かったけど、こちとらスピード重視で軽量防具しか付けてないんだから、あんなでっかい炎じゃあ、こっちの退避もままならない。 その時の焦げ目がまだ残っているんだよ。 見てよ、ほら」
そう言って、背中を見せると、革鎧の背中の部分に焦げ目が少し残っている。
「うううう。 でも、今回は誰にも迷惑かけてない」
シュレイノリアは納得してないみたなのと、レィオーンパードが自分側に付いてしまった事を考えると、シュレイノリアが一方的に責められる可能性が出てきた。
これ以上、この話をするのは不味いと思うと、早めに話をまとめる事にする。
「人には得手不得手というものがあるのだから、今のお前だと、魔力を最小限にとどめてつかう事ができないのだから、今度、平野のような場所の時は、お願いするから、今はもう少し待ってくれ。 それより、さっきのアイスランスのように狭い場所でも使えるように魔法制御できるようにするんだよ。 物には限度と言うものが有るのだからね。 本当は、お前に魔法で倒してもらいたいんだよ。 もっといろいろな魔法で周囲に影響が出ないようなら、お前に任せるから」
微妙な顔をする、シュレイノリアなのだが、少し納得ができないようなので、少し心をくすぐれば機嫌も晴れるかと思い、ジューネスティーンは笑顔をシュレイノリアに向けると一言いう。
「期待しているよ」
そう言うとシュレイノリアの気が晴れたのか表情が少し和やかになる。
「じゃ、これ。 収納しておいてくれ」
そう言って、先ほど拾ったコアと金塊をシュレイノリアに渡すと、肩から幼稚園掛けのポシェットを腰の前に回してランドセルのような蓋を上に上げて、中にコアと金塊をしまう。
コアはそれ程重くは無かったので問題は無かったが、金塊は片手で持てそうに無かったのでジューネスティーンが手助けして収納する。
20×30センチ程のポシェットだが、中は収納魔法によって内部は別空間になっているので、入口の大きさより小さければ入れる事ができて、重さも感じ無い。




