東街道に出た東の森の魔物 〜ルイネレーヌの囮り〜
配置が終わったジューネスティーン達のパーティーは、ルイネレーヌが呼び寄せている魔物を待つ。
そんな中、アリアリーシャが聞き耳を立てて、ルイネレーヌの状況を伺っている。
レィオーンパードもそれなりに耳は良いのだが、アリアリーシャには及ばないので、周りに聞き耳はたてているが、パーティー的には、アリアリーシャの補助的に、レィオーンパードの耳を使っている。
レィオーンパードは、もっと良く聴こえるようになるコツを掴む事が出来ないかと考えながら、そのヒントでも掴めればと考えながら、アリアリーシャと一緒に聞き耳を立てている。
ジューネスティーンは、うさぎの耳とヒョウの耳では構造的な違いもある事から、耳ではアリアリーシャに、敵う事は無いと思っているようだが、当人が頑張っているので、その努力を否定するような事はしないのだ。
(今日も、レオンは、聞き耳を立てているけど、また、いつものように、姉さんの方が早いだろうな。 耳の長さが違う、構造的な差は仕方がないと思うけど、努力する事で、姉さんに近づけるかもしれないな)
パワードスーツの中のモニターからレオンの様子を、ジューネスティーンは見ていた。
後ろに居るシュレイノリアのサーチについては、森の中では、木々の魔素のノイズによって、遠くまで見渡すのは難しいとの事だったので、この状況で頼りになるのは、アリアリーシャの耳となる。
アリアリーシャのウサギ耳がピクッと動く。
「引っかかった……。 多分、この音だと思う」
そう言って、正面の少し右側を指す。
レィオーンパードも、その方向に目と耳を集中する。
アリアリーシャは、指し示す方向を左右に振っているので、ルイネレーヌは森の木々を避けながら魔物に追いかけられているのだろう。
一旦、正面を通り過ぎて回り込んだりして、魔物を正面から向かわせるようにしている。
魔物に追いかけられながら、木々を避けつつ、一定の距離を維持して、魔物に自分を追いかけさせているので、ジューネスティーン達と合流する前に、追いかけられる際のルートを下見して頭の中に入れておいたのだろう。
ただ、蛇行して進む場合は、後ろからの距離を詰められる可能性もあるのだが、ルイネレーヌは、それも含めて、移動しているみたいだ。
予め設定されたコースを辿っているのだろうが、それも、この場所にジューネスティーン達を誘導した際に、どの方向が都合が良いのかも、考えての行動なのだろう。
そうでなければ、自分の命を代価にする可能性がある囮役を、ああも簡単に引き受けるわけはない。
特に、今回の魔物は、東の森の魔物という事もあり、簡単に倒せる魔物でないこともだが、ルイネレーヌのような軽装備の冒険者なら、一撃で、致命傷を与えられてもおかしくはないのだ。
ジューネスティーンは、ルイネレーヌが、ギルドやジュエルイアンに言われて大急ぎで追いかけたような事を言ってたが、自分達と接触する前に、魔物の位置、自分達の戦術から戦闘に適した場所の探索、魔物を誘き寄せる際に囮りとして、自分が通るルートまで、全て調べてくれていたのだと確信するのだった。
「さすがだ。 できる人間は、数手先を読んで行動している」
ジューネスティーンは、思わず声に出してしまった。
それを、パワードスーツの外部スピーカーによって、2人にも聞こえたと思うのだが、2人は、ルイネレーヌと魔物がくる方向に意識を集中している。
そんな2人をジューネスティーンは、ありがたいと思ったのだろう、鼻を慣らすような声を出した。
アリアリーシャが、指差している方向に意識を集中しているレィオーンパードなのだが、距離が遠かったのか、レィオーンパードには聞き分ける事ができなかったので、ちょっとがっかりしている。
「手筈通りですぅ。 方向もいい感じですぅ。 嫌な人だけどぉ、仕事は完璧にこなしてるのですねぇ」
アリアリーシャの、何時もの語尾を伸ばす喋り方を聞きつつ、ジューネスティーンは、ルイネレーヌの正確な仕事に安心する。
「そうでなければ困る」
そう言って、鼻で笑うジューネスティーンだが、パワードスーツの中の表情は、誰にも見えてない。
そして、レィオーンパードが聞き取れなかったことに、少し気を落としていたことに、ジューネスティーンは気持ちを切り替えさせるような言葉をかける。
「レオン、人には得手不得手というものがある。 音の聞き分けがダメだとしても、この後の働きで自分を示せば良いんだ。 お前の最初の刃が、今後の戦略に大きく影響するんだ。 この後の仕事の方が大事なんだから、気持ちをきりかえて!」
「お、おぉぅ!」
レィオーンパードは、自分の最初の刃によって、魔物との戦い方が変わってくると思うと、自分の役目を思い出したようだ。
アリアリーシャに対抗して、音の聞き分けをする事が、今の自分の仕事では無いと思い出したようだ。
「お前は一撃目で、足を止める。 だが、初めての魔物だから状況報告も忘れるなよ」
気を取り戻したレィオーンパードが、背負っていたホバーボードを外す。
「分かった。 自分の仕事をする」
そう言って、ホバーボードに乗る二人。
ホバーボードの魔法紋に魔力を流し込みボードを地面から10cm程浮かす。
レィオーンパードとアリアリーシャが、ホバーボードを左右に向けて飛び出す構えを取る。
「いつでも出れる」
聞き耳を立てながらホバーボードの準備をしていたアリアリーシャが状況を伝える。
「そろそろ森を抜けますぅ」
そう言うと、森の木に止まっていた鳥達が、森から上空に一斉に飛び出あがると、森からホバーボードに乗ったルイネレーヌが奇声をあげて飛び出してくる。
そのルイネレーヌの奇声に、アリアリーシャがムッとした。
「あの女、遊びじゃないんだからぁ」
嫌そうに言うのだが、レィオーンパードが、苦労して乗りこなせるようになったホバーボードなのだが、アリアリーシャのホバーボードは、レィオーンパードの苦労のおかげで、1日の練習で乗りこなせるようになったのだが、アリアリーシャも最初は、尻餅をついたりしていたのだ。
だが、ギルド経由でルイネレーヌに回ったホバーボードは、性能重視で作られている為、設定も最高性能が出るように作られているのだ。
かなりの運動神経と反射神経を要求される仕ようになっているのだが、ルイネレーヌは、それをものともせずに乗りこなしているのだ。
アリアリーシャは、森の中を木々を避けながら、魔物との距離を保ち、魔物に、諦めさせずに追わせて連れてくる事が、どれだけ難しいことかと考えると、かなり難しい事を行ってくれたのだ。
アリアリーシャは、そう思って、自分を納得させるように考えるのだが、相手がルイネレーヌということで、いまいち納得できてないのだ。
そんなアリアリーシャを見てジューネスティーンが声をかける。
「まぁ、そう言うな。 ルイネレーヌさんが居なければ、囮りの役目はアリーシャ姉さんの仕事なんだし、仕事のやり方は人それぞれだから」
「そうですけどぉ」
納得してないアリアリーシャが頬を膨らませる。
だが、ルイネレーヌが森を抜けたのだから、その直ぐ後ろには、魔物が追いかけているのだ。




