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ギルドの寮


 メイリルダは、少年を連れてギルドの寮に向かった。


 管理人に転移者である少年を紹介すると、管理人も転移者の少年が現れたことを聞いていたのか、直ぐに理解したような表情をした。


「ああ、この子なのね。話は聞いているわ。それで、メイリルダが、担当なんだって。じゃあ、しばらく、一緒に暮らしてね」


「えっ!」


 管理人の話を聞いてメイリルダは驚いた。


 メイリルダとしたら寮に預けて生活してもらい、昼間は自分が言葉や日常生活について教えてあげれば良いと思っていたのか、一緒に暮らすと言われてキョトンとしていた。


 管理人は、そんなメイリルダの事を気にするつもりもなく話を進める。


「だって、この子、初めて見たのは、あなたでしょ。親も居ない子供なのよ。きっと、あなたが、部屋を出て帰ろうとしたら、泣き出すわよ」


 管理人に言われて少年の顔を見ると、不安そうな視線をメイリルダに向けていた。


(確かに、この子が見たことのあるのは、私ともう1人だけ。それも、食事を持ってきただけだから、少し顔を見せただけだったわ。それを面識があるとは言えないわね)


 メイリルダが、考えていると管理人が声をかけてきた。


「今までの転移者だって、その子と同じ位の年齢なのよ、担当になった人は、転移者が、ある程度、喋れるようになるまで泊まり込みで見てたわよ」


 メイリルダは、微妙な顔をする。


(やっぱり、そうなるのか。って、ギルマスったら、そのつもりで私を担当にしたのかしら。……。だったら、私にも担当として、どんな風に教えていくかとか教えてもらいたかったわ)


 そして、少し考えるような表情をしていたが、諦めたようにため息を吐いた。


「そうなるのね」


 ガッカリしながら独り言を呟いた。


「ねえ、ところで、メイリルダは、その子と一緒の部屋で構わないよね。部屋数が少ないから、その方が有難いのよ」


 メイリルダは、唖然とした顔を管理人に向ける。


(えっ! 私、この子と一緒の部屋で寝泊まりするの?)


 ビックリしたような顔をしたまま、手を繋いでいる少年の顔を見ると、そこには、不安そうにメイリルダの顔を見上げる少年と、また、目が合った。


(私は、……)


 メイリルダは、悩んだ表情をする。


(仕方がないわね)


 メイリルダは、諦めた表情をした。


「分かったわ。一緒に暮らそうね」


 仕方なさそうにメイリルダは少年に伝えた。


 その様子を少年は、不思議そうな表情で覗き込んでいた。


「く、ら、……」


 少年は、メイリルダの言葉を繰り返そうとしたので、メイリルダは少年に視線を合わせた。


「一緒に、暮らそうね」


 メイリルダは、ゆっくりと、言葉にした。


「い、しょ、に、……」


 少年は、全部は言えなかった。


 そんな少年に、メイリルダは視線を合わせるように少ししゃがみこんだ。


(そうね、ここから、言葉を覚えさせればいいのよ。じゃあ、ここから、スタートね)


 そして、メイリルダは、満面の笑みを少年に向けた。


「一緒に」


「い、しょ、に」


「暮らそう」


「く、ら、そ、う」


 メイリルダが、ゆっくり発音しつつ口もいつも以上に大きく動かして話をしたので、少年は繰り返すように答えた。


 そのギコチナイ様子が、メイリルダには、とても可愛く写ったのか、メイリルダは頬を赤くしていた。


「そうよ。一緒に暮らそう」


「いっ、しょ、に、く、ら、そ、う」


 メイリルダは、嬉しそうにする。


「うーん。この子ったら、可愛いんだから」


 そう言うと、メイリルダは少年を抱きしめた。


「ちょっと、あんた。そこまで、するのは、やり過ぎよ」


 メイリルダの、少年を抱きしめるのを見て管理人が文句を言った。


 メイリルダは、言われて医務室での事を思い出して慌てて離れた。


「ああ、ごめんね。苦しかったよね」


 少年は少し赤い顔をしているが、医務室の時のことがあったためなのか、どう対応していいのか困ったような表情をしていた。


「じゃあ、メイリルダ。少年と一緒の部屋でいいわね。ああ、4人部屋になるけど、2人だけだから安心して使ってね」


「ありがとうございます。でも、私、何の準備もしてないから、着替えとか家から取ってきたいのですけど」


「ああ、だったら、その子と一緒に行っておいで」


 メイリルダは、キョトンとしている。


「あのー。この子を預かってくれないんですか?」


 メイリルダは、管理人に聞く。


「当たり前でしょ。その子の目を見てみなさいよ。あんたしかみてないでしょ」


 メイリルダは、不安そうに自分を見ている少年の目を見た。


「そうね。一緒に連れて行きます」


「ああ、それなら、家まで絶対に手を離さないで行ってね。その子、誰とも話が通じないし、ここの場所だって帰ってこれないわよ。それに、言葉を喋れない少年だったら、誘拐されて売り飛ばされるわよ」


 そう言われて、メイリルダは誘拐された場合の事を考えた。


(はぐれたら、見つかる可能性は、ゼロだわね)


 メイリルダは考える表情をしながら少年を見ると、少年も見つめ返した。


(この状況で、部屋に1人で置いておくのは、不安にさせるだけだし、外に出てしまったら、見つけられないわね)


 メイリルダは、また、目線を少年とあわせた。


「おでかけしましょう」


「お、で、か、け、し、ま、……」


 そんな少年に、メイリルダは微笑みかける。


「おでかけ」


「お、で、か、け」


「そう、お出かけよ」


 そう言うと、管理人に断りを入れる。


「じゃあ、ちょっと荷物を取りに行ってきます」


「はいよ。じゃあ、それまで部屋に風を入れとくよ」


 メイリルダは管理人に断ると、少年の手を握ったまま寮の外に歩いて行った。


「じゃあ、私の家に行くわよ」


 メイリルダは、少年を連れて寮を後にした。




 寮を出ると、メイリルダは、指を差しながら少年に話しかけつつ道を歩いて行く。


 手を離さないように、少年の手をしっかりと握って、看板や、馬車、馬、地竜を指差し、その名前を声に出していく。


 それを少年が、繰り返しながら話している。


 周りから見たら、歳の離れた姉弟が歩いているように見えただろうが、少年の喋り方が不思議な喋り方をしている。


 それを聞いた人は、一瞬、不思議そうな表情をするが、直ぐに別の国の子供なのか程度にしか思わなかったようだ。


 それ以外は、普通の少年と姉のように見えていた。


 メイリルダは、楽しそうに自分の家に少年を連れて歩いて行った。


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