魔物の情報
ジューネスティーン達は、ルイネレーヌと、今迄くつろいでいた場所に戻り、レィオーンパードが、まだ、残っているポットから、予備のカップに、お茶を注ぎルイネレーヌにわたす。
本来なら、アリアリーシャが渡すのだろうが、女性陣が一向に動こうとしてなかったので、レィオーンパードが気を利かせてお茶を渡すことになった。
「ありがとう、チェリーちゃん」
そう言って、カップを受け取る。
「今度、お姉さんが、チェリーちゃんなんて言わせないように、し、て、あ、げ、る」
その言葉に、頬を赤くするレィオーンパードだが、メンバー女性陣の視線に殺気のようなものを感じて、恐る恐る自分の場所に戻る。
その態度に不敵な笑みを見せるルイネレーヌが、お茶を一口飲むと、言わなくても良い一言を言う。
「やっぱり、男の子の入れてくれるお茶は、出涸らしでも美味しいわぁ。 それに毒味の心配もしなくて良いし」
その言葉に反応するアリアリーシャが、ルイネレーヌに食ってかかる。
「私のお茶には毒なんて入ってないです! それに出涸らしでも無い」
先程入れ替えたばかりのお茶にケチをつけられて、アリアリーシャは、表情に怒りを見せる。
ジューネスティーンは、これ以上話がこじれると困るので、ルイネレーヌに口を挟む。
「からかうのはその辺で、仕事の話をしてくれませんか。 お茶が飲みたくなるぐらい急いで出向いてくれたんですから、お遊びはその辺で終わりにしましょう」
ジューネスティーンに、そう言われて、もう一口お茶を飲むルイネレーヌは、カップから口を離すと顔つきが変わる。
そのルイネレーヌの顔付きの変化に、メンバーの女性陣達も顔つきが嫌な物を見る目から一気に真剣な目に変わる。
メンバーの女性陣からしたら、ルイネレーヌの性癖が気に入らないのだが、ルイネレーヌの仕事の確実さはよく弁えているので、仕事の話は信頼できると知っている。
また、ルイネレーヌの性癖さえ無ければ、友人として付き合えるだろうと思っているのだが、ルイネレーヌに、そんな思いを伝える事はない。
そんな、アンジュリーン達、女子3人の思惑など知らん顔で、ルイネレーヌは話をする。
「王国のギルドから連絡があった。 この王国とツ・バール帝国を結ぶ街道沿いの森の中に強力な魔物が1匹棲みついた。 帝国に向かっている、お前達に連絡を入れて欲しいとのことだ」
ジューネスティーン達は、ルイネレーヌが、大ツ・バール帝国ではなく、ツ・バール帝国と言った事が気になる。
ルイネレーヌに、何か思惑があるように思える。
大方、帝国の事を面白く思ってないので、“大”を抜いたのだろうと、大半のメンバーは、そう思い、その事を追求することを行わないでいる。
再び、お茶を啜る、ルイネレーヌを見て、ジューネスティーンが聞く。
「それだけなのでしょうか」
それを聞いたルイネレーヌが、ヤッパリと言うように顔付きを緩める。
「ツ・バール帝国のギルドでは討伐の依頼が出ている。 この前、ツ・バール支部に所属している、Bランクパーティーが討伐に向かったけれど倒せず、生き残ったメンバーが、1人、命辛々逃げ帰ったとのことだ。 私は、ギルドからお前達に危険を知らせるように頼まれた。 まぁ、ギルドとしても、今年度の卒業生の、首席と次席のパーティーに、何かあっては、不味いと思ったのだろう。 それを伝えにきた」
怪訝そうな顔で、お互いの顔を見合わせるメンバー達、Bランクのパーティーが倒される程の魔物が現れたとなったら、Cランクパーティーの自分たちに手におえる相手ではない。
ましてや、パーティーとしてCランクだが、それは、ジューネスティーンとシュレイノリアが、在学中にランクを上げていたから、Cランクになっているのだが、本来であれば、Dランクだったとしてもおかしくは無い、学校を卒業したばかりの駆け出しパーティーなのだ。
Bランクが敗れたのなら、Aランクのパーティーに依頼が移りそうな依頼の話を聞いて、メンバー達は、街道を引き返して、別の街道を使う必要に迫られていたのだ。
そんな中で、エルフのカミュルイアンが声を上げた。
「強力な魔物って言っても、どれだけ強いんだ」
ルイネレーヌに喋らせないように、カミュルイアンの話に、アンジュリーンが口を挟む。
「大ツ・バール帝国のギルド支部がどうだかわからないけど、Bランクのパーティーを倒せるって位だからかなり強いんでしょうね」
魔物の強さが強調される。
ルイネレーヌは、2人のエルフの言い分はもっともな事なのだが、自分の思惑とは異なっていく事が面白くない。
危険を回避させても困るので、ルイネレーヌは最初の餌を出す。
「倒せばギルドから、高額な報酬が入る」
それを聞いた全員が、ルイネレーヌに顔を向ける。
ルイネレーヌは言葉を続ける。
「この魔物は、ツ・バール帝国の東にある森の強力な魔物が移動して来たとギルドのツ・バール支部は考えている。 ツ・バール帝国は国土の拡大のため帝国軍が森の西側に常駐しているが、常時、森を監視している訳では無い。 広い森だから数カ所に詰所が有って、巡回警備をしているだけだから、森を抜ける魔物も出てくる。 それが、この先の森に棲みついたと考えるのが妥当だろう」
ルイネレーヌは、ジューネスティーン達が、魔物の討伐をする事を前提に話をした。
それを聞いたレィオーンパードが疑問を口にする。
「軍が警戒していても抜け出してくる程の魔物なんて……。 そんな魔物を相手にしているなら、大ツ・バール帝国のギルドもレベルが高そうだよね」
ルイネレーヌは、レィオーンパードの言葉に、回避に向かう方向に向かっていると察したようだ。
だが、そうなっては自分の思惑と異なってしまうので更に続ける。
「Bランクのパーティーなら無理でも、それ以上のパーティーなら問題は無い」
当たり前の事なのだが、そんな戦闘に特化した、Aランク以上のパーティーが、ここには居ないのだ。
「そうは言ってもぉ、ジュネスとシュレがC2ランクで、それ以外は、D2とD3ランクですぅ。 そんな強い魔物なら、Aランクパーティーにお任せして、ここは迂回して危険を避けた方が良いですぅ」
アリアリーシャが、自分の意見を言った。
(チッィ! 臆病なウサギめ)
ルイネレーヌは、回避する事になってしまっては、自分の思惑が外れてしまうと思ったようだ。
(このまま、回避して西の街道に向かわれては、こっちの思惑が外れてしまうじゃないか)
ルイネレーヌは、ジューネスティーン達に、なんとしても、この東の森の魔物を、大ツ・バール帝国へ行く途中で、討伐してほしいのだ。
「ここまで来て、ツ・バール帝国の帝都まで後2日、いや、お前達なら1日で着く距離を迂回かぁ。 ここからなら、遠回りの、西の街道を使う事になるわねぇ。 その険しい山脈を越えるか、引き返してから、西の街道に行く事になるから、まぁ、2週間は掛かるだろうなぁ。 それに幾つの国の国境を超える事になるのかなぁ。 関所の通行料だってバカにならないだろうしなぁ」
遠回りの時間と、国境を越える時の通行料を、ルイネレーヌが指摘すると、アリアリーシャが黙った。
「私は、南の王国のギルドから、魔物の情報を伝えるように言われてきただけだから、それもあんた達の選択肢の一つだわね」
ルイネレーヌは落ち着いてお茶をすすった。




