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初めての会話 初めての食事


 ギルドの医務室に運ばれてベットに寝かされた少年は、メイリルダによって、服を着せられた。


 少年は、目を開くと慌てて上半身を起こした。


「◯※□*!」


 少年は、メイリルダの知らない言葉を発すると、メイリルダは椅子から立ち上がって少年の両肩に手を置いた。


「大丈夫。ここは、安全よ!」


 少年は肩を掴まれメイリルダの言葉が分からず更に動揺したように見えた。


「大丈夫だから、安心して!」


 メイリルダは更に言葉を続けるが少年の動揺はおさまらない。


 ベットの上で暴れ出した。


 知らない言葉で喚き散らして収集が付かない状況に困ったメイリルダは、思わず少年を抱き抱えた。


 ドタバタと足掻く少年はメイリルダに抱き抱えられ胸と胸が触れ合い、メイリルダの髪が少年の顔にかかると、足掻いていた少年が、徐々に、足掻く事を止めた。


 少年は、メイリルダの柔らかさと温もり、それに、僅かに香る女性とも少女とも言えない仄かな香りに、徐々に、興奮から覚めて足掻くのをやめたのだ。


 メイリルダは、動かなくなった少年の両肩を持つと、目を見て優しく語りかける。


「大丈夫よ。あなたは、大丈夫よ」


 その優しさが少年に伝わったのか、少年はメイリルダを見て答える。


「だゃ、ひ、じょ、う、びゅ」


 少年は、メイリルダの言った事を繰り返したのだ。


 メイリルダは、少年が答えてくれた事が嬉しかった様子で笑顔を少年に向けた。


「そうよ」


 そう言うと、少年の目を見る。


「だいじょうぶ」


 メイリルダは、ゆっくりと言葉にした。


「だ、い、じょ、う、ぶ」


 少年は、また、繰り返してくれた。


 メイリルダは、少年が落ち着いたと思ったようだ。


 少年の肩から手を離すと、自分に人差し指を向けた。


「メイリルダ」


 自分の名前を伝えると、少年は、何なのかという表情をするので、もう一度、同じようにして自分の名前を、もっとゆっくり伝える。


「メ、イ、リ、ル、ダ」


「め、い、り、る、だ」


 少年も同じ様に声に出してくれたので、メイリルダは嬉しそうにした。


「そう、私の名前は、メイリルダよ」


 そう言って、少年を、もう一度抱きしめる。


「うーん。ちゃんと話せるじゃない」


(かわいい。歳の離れた弟って、こんな感じなのかしら)


 そう言って、抱きしめた少年に胸を擦り付けるようにしたのだが、少年は恥ずかしいのか苦しいのか、それとも、その両方なのかメイリルダを引き離そうとするように、少年は、メイリルダと自分の体の間に両手を入れた。


 メイリルダは、少年の肩を持って離した。


「私の名前、呼んで、く、れ、た……」


 メイリルダは、少年に話しかけるのだが、胸に何やら違和感を感じたらしく話している途中で自分の胸を見た。


 メイリルダの視線には、自分の胸に、少年の小さな手のひらが、両胸を鷲掴みにしている映像が目に入った。


 メイリルダは、顔を真っ赤に染めると、慌てて少年の肩から手を離して体を後ろに下げた。


 そして、両手で自分の両胸を隠すようにすると、恥ずかしそうにメイリルダは少年を見た。


 すると、少年はメイリルダの胸を押さえた時の状態のまま固まっていたのだが、メイリルダと目が合うと直ぐに顔を赤くして間の悪そうな顔をすると反対の方を向いてしまった。


(まずった。軽率すぎたかも)


 その少年の表情を見て、どうしようかと思っていると、医務室のドアが空いて職員が入ってきた。


「ああ、メイリルダ。その少年も目が覚めたのね」


 そう言うと、手に持っていたトレーを近くのテーブルの上に置いた。


「ほら、これ、少年の食事。あなたの分も有るから、一緒に食べてね」


「えっ、私も?」


 職員は、当たり前だという表情でメイリルダを見た。


「当たり前でしょ。この少年だけだと、これが食べ物かどうか分からないでしょ。あなたが、食べるところを見せて、これが食事だと認識させるのよ」


 メイリルダも納得したようだ。


 転移してきて、この世界に予備知識も無い、それに言葉も通じないのなら誰かが態度に示して教えるしかない。


「そうね。そうするわ」


「じゃあ、後は、よろしくね」


 そう言うと、食事を持ってきた職員は医務室を出ていった。


 メイリルダは、それを慌てて呼び止めようとしたが、職員もメイリルダが何を考えているか分かっていたのか、面倒事に巻き込まれたくないと思ったのか、そそくさと出ていってしまった。




 職員が出ていくと、メイリルダは、仕方なさそうに少年に向くと、ベットの毛布を剥いで足元に置いた。


 そして、少年の手を取ってベットから降りるように促した。


 少年は、メイリルダにされるがまま、ベットから降りると、メイリルダは、その手を引いてテーブルまで連れて行った。


 少年を椅子に座らせると、メイリルダは、トレーに乗っている鍋の蓋を開けた。


 中には、野菜たっぷりのシチューが入っていた。


 そのシチューを皿に盛ると、その皿を少年の前に置きスプーンを少年に渡した。


 メイリルダは、自分もシチューを皿に盛ると少年の対面に座る。


「さあ、食事よ。一緒に食べましょう」


 少年は、不思議そうな顔をメイリルダに向けるが、シチューの匂いが気になっているようだ。


「食べよう」


 メイリルダは、ゆっくりと発音する。


「た、べ、よ、う」


 少年もメイリルダの言った事を繰り返すと、メイリルダはシチューをスプーンで掬って自分の口に運んだ。


 少年もそれを見て、同じようにシチューを食べ始めた。


 少年は、一度、シチューを口に入れると、どんどん食べ始めた。


 まるで、何日も食べてなかったようにガツガツと食べ始めた。


 直ぐに食べ終わるので、メイリルダは、少年から皿をもらうと、お代わりをしてあげた。




 何度か、お代わりをしてあげると、少年のお腹も落ち着いたようだ。


(こんなに小さいのに、食欲は大人並みにあるわね。まあ、食欲が無いよりは、いいわ)


 その様子をみて、メイリルダは笑顔を向ける。


 少年は、自分の、お腹をさすっていた。


「お腹、いっぱいのようね」


 メイリルダは、思わず呟いた。


「い、ぱ、い」


 少年は、メイリルダの言葉から、いっぱいが、耳に入ったのか、そこだけを繰り返した。


 教えるつもりで話してなかったメイリルダは、ちょっと驚いたような顔をした。


「そう。……。お腹、いっぱい」


「お、な、か、い、ぱ、い」


 メイリルダは、ちゃんと喋れたので笑顔を向けた。


(この子、カタコトでも話せるようになるのは、早いのかもしれないわね)


 食器をトレーに片付けるのだが、その時、鍋の中も、ほとんど終わっていたのでトレーも軽くなった。


 片手で、トレーを持つと、もう一方の手で少年の手を握った。


 そして、椅子から立ち上がらせた。


(気が付いたし、お腹も満足したみたいだから、今度は、住む場所よね。片付けながら、ギルドの寮に行きますか)


 メイリルダは、少年を見つつ医務室の扉に向かった。


(途中で、調理場にトレーを置いてから、寮に行こうかしら)


 ただ、歩き出すとメイリルダは、医務室のドアの前で止まってしまった。


「……」


 メイリルダは、ドアをどうやって開けようか悩んでしまった。


 片手はトレーを持って、もう片方の手は、少年の手を握っているので、両手が塞がっている事に、扉の前に立って気がついたようだ。


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