シュレイノリア
残っていた少女は、立ち上がって正面を向くと、後ろの長い髪が隠れてしまい、側面は、手前から後ろに行く程髪の毛の長さが短く切られて、後ろ髪だけを伸ばしている。
もみあげ部分は、肩に付くかつかないかなのだが、耳の後ろは、首が見えるように前から後ろに向かって上に向かって切っており、前髪は、眉間からV字に切り揃えている。
服は、赤のワンピースで、首元まで完全に隠れており、肩から手首までは、かなり太めの袖で手首だけしまっている。
首から上と手だけが外に出ているが、それ以外は完全に完全に隠れている。
馬車の番をしていたのは、先ほどアンジュリーンが、ボヤいていたシュレイノリアである。
シュレイノリア・ディール・フォーチュンと言うが、名前だけでもシュレイノリアと言いにくいので、メンバーは、“シュレ”と、呼んでいる。
魔法に関する事に長けており、魔法・魔法紋については、自分で新たな魔法を構築する程の腕前であり、ギルドの高等学校時代は、他の学生は、彼女の魔法に敵うどころか、他は足元にも及ばなかった。
また、新たに構築した魔法は、学校の教授陣でも理解できない魔法であって、それを自由に使うため、魔法に関しては、教授陣も舌を巻いた。
ただ、彼女の説明下手なため、教授陣の質問に答えてはいるのだが、説明の表現が、高度すぎて教授陣の知識がついていかなかったのだ。
つまり、四則演算を覚えた程度の小学生に、突然、微積分や三角関数を、大学生と話をするように説明しているので、全く理解できず、結局、教授陣の評価は低かったのだが、実技では桁外れの魔法を放ち、試験においては高得点をとってしまうので、教授陣の受けは悪かった。
そんな説明下手が祟ってしまい、教授陣から彼女は、新たに構築した魔法を、他人に教える気が無いのだと思われてしまっていた。
ただ、シュレイノリアの魔法を覚えるなら、ジューネスティーンに解説させれば理解できることを、このメンバーは知っているので、常にシュレイノリアの説明の際は、ジューネスティーンが通訳(?)に入る。
プログラムに例えるなら、シュレイノリアの魔法の説明が、マシン語で、ジューネスティーンが、それを逆アセンブラして、プログラム言語に戻しているような感じである。
シュレイノリアの説明で分からない部分を、ジューネスティーンが、シュレイノリアから聞き、それを人がわかるように説明をする。
メンバーの中では、それが当たり前になっていた。
ジューネスティーンと男子2人は、天秤棒に担いだ獣を、河原に運んで下すと解体を始める。
そんな男達3人の側で、解体作業を見ているシュレイノリアの隣にアンジュリーンがくる。
「これ、ありがとうね」
そう言って、アンジュリーンは、着ていたマントを脱いでシュレイノリアに渡す。
「ああ」
シュレイノリアは、無造作にマントを受け取ると、首に回してボタンを止める。
アンジュリーンは、そのシュレイノリアの無造作さに、拍子抜けする。
「ねぇ。 それで終わり?」
「ああ」
「私がそのマントを使った時の感想とか聞かなくていいの?」
「必要無い」
アンジュリーンは少しがっかりする。
シュレイノリアの反応は、多分そうだろうとは思ったが、でもやはり、マントを使って少しは効果が良かったか位の、感想は聞いて欲しかったと思っていたのだ。
「でも、少し位、気にしてくれても、……。 どうだったとか、能力アップしたのかとか、初めてシュレのマントを借りて、魔法を使ったのだから、もうちょっと聞いてくれても、……」
付与魔法については通常より強く掛かってくれたので、話したかったのだが、それを拒絶されたように思えたので残念に思う。
「お前の魔法の能力は分かっている。 聞かなくても獲物を見れば分かる」
そう言われて、更に肩を落とす。
「そうなのよね。 もう少し何かあっても良いのに、この子はいつもこうなのよねぇ」
アンジュリーンはつぶやくようにいう。
自分としては、かなり良く出来たと思ったのだが、シュレイノリアには当たり前のようにいうのでがっかりする。
「でも、せめて、一言、何かあっても、良かったんじゃ無いかなぁ」
不満そうに少し膨れた様子でつぶやくが、その声は誰にも聞かれなかった。
戻ってきた5人は、獣の皮を剥いで食べられるところと、そうでない所に分けていく。
今日、食べる分をシュレイノリアにカミュルイアンが渡すと、残りは保存用にする。
シュレイノリアは、肉をもらうと、カミュルイアンに水汲みを頼み、肉を一口サイズに切り分けて鍋に入れていく。
最初は、軽く鍋で塩と一緒に炒めると、水が届いたので、鍋に水を足して野菜を入れていく。
他のメンバーは、切り分けた肉に塩をつけていくもの、毛皮を綺麗にしていくものと手分けして解体を進めていく。
解体が終わる頃には、燻製用の塩漬けの作業も解体作業も終わり、錬成で作った燻製用の竈門に乗せて火をかける。
作業が終わると、鍋の周りに全員が集まってくる。
シュレイノリアは料理を深皿に取り、メンバーそれぞれに渡していく。
川のせせらぎの音と、小鳥のさえずりを聞きながらの食事である。
ちょっと遅い長閑かな昼食をとっている。




