調達と剣の手入れ
亜人2人の攻撃により、獣は、前足の自由を奪われた。
獣は、両前脚を切り裂かれた事で、前につんのめるように倒れこむ。
斬りつけたヒョウの亜人も、そのまま駆け抜け、獣の前方5メートル程の所で、ウサギの亜人と左右に3メートル程離れた位置で、振り返り次の攻撃を加えられるように身構え獣の状況を確認する。
獣を確認すると、その後ろからくる2人を視線に捉えたのだろう、2人の亜人は左右に分かれるように走り出す。
獣は3本の足に傷を負って、動けないが、必死に逃げようと立ち上がろうと、悲鳴に近い鳴き声を上げながら首を上げる。
眼前に自分の前足に怪我をさせた2人が左右に動くのを獣は視界に捕らえていたので、背後から剣を持った二人に気がつかなかったのだろうか、獣の習性なのかは分からない。
獣は必死に逃げようとして、首を上げてもがいていたので、顎が上がって首筋が良く見える。
それを後ろから来た2人が、水平に剣を持ち、獣の首筋をかすめるように切る。
左右同時に首に入った切先は、獣の頸動脈を斬る事に成功して、切り口から大量の血が噴き出す。
後からの2人は、並行して走ってきたので、先行した2人のように、左右を入れ替わる事なくそのまま外に広がるように走り、先行した2人が立ち止まった位置に移動して振り返って獣を見る。
獣はゆっくりと頭を地面に落とす。
獣は首から大量の血を左右に撒き散らしながら倒れたので、それを見て獣は逃げる事はできずにその場で事切れると確信する。
すると、最初に足に刃を入れた若いウサギの亜人の女性の、嬉しそうな声がする。
「これから先のぉ、肉ゲットですぅ」
ウサギの亜人であるシルバーブロンドの、アリアリーシャ・ミンツ・フォルミールが嬉しそうに言うと、一緒に前衛で獲物の前足に刃を入れた黄色い髪を短くカットしているヒョウの亜人の、レィオーンパード・アーシュ・フォーチュンがアリアリーシャに声をかける。
「やったね。 アリーシャ姉さん」
先行した二人うち、黄色い髪の1人が、刃に付いた血を拭き取りながら、獣に近づいていく。
「レオンも、しっかり仕事をしてくれたからぁ、新鮮なお肉が食べられますぅ」
近づいてきたヒョウの亜人であるレィオーンパードにアリアリーシャは嬉しそうに答える。
メンバー内では、名前を略して読んでいる。
ウサギ系の亜人のアリアリーシャは、メンバー内ではアリーシャ姉さんと呼ばれている。
姉さんと付くのは、来年には30歳になるアリアリーシャが、見た目がメンバーの中では顔つきが一番上に見えるためである。
ただ、年齢的にはエルフ属であるアンジュリーン・リューシュン・ウルキーセンとカミュルイアン・テラリス・ウルキーセンの方が上ではあるが、成長の遅いエルフなので、40歳半ばのアンジュリーンとカミュルイアンは、未だ10代半ばの顔つきをしている。
その為、アリアリーシャだけは名前の後に、“姉さん” とつけられているのだが、実年齢が上であるアンジュリーンとカミュルイアンからは、“姉さん” と付けられるのは嫌なようだ。
ヒョウの亜人であるレィオーンパード・アーシュ・フォーチュンは、レオンと呼ばれ、エルフの少女(?)のアンジュリーン・リューシュン・ウルキーセンは、アンジュと、また、エルフの少年(?)のカミュルイアン・テラリス・ウルキーセンは、カミューと仲間からは呼ばれている。
特に、レィオーンパードは、名付け親がジューネスティーン・インフィー・フォーチュンなので、生活を一緒にしていくにつれて、何でこんなに長い名前にしたのか聞いていたようなのだが、それについてジューネスティーンは、ヒョウ系の亜人という事で、何となく思いついたイメージをそのまま付けたと答えたらしい。
首に刃を入れた筋肉質の青年と、中性的なエルフであるカミュルイアンも、ヤイバに付いた血を拭き取ると、剣を鞘に収めて体に返り血が付いてないか確認している。
先行した身長の低いシルバーブロンドの女性、アリアリーシャが、鞘に剣を収めつつ、後から来た筋肉質の青年、ジューネスティーンに話しかけてきた。
「いつもの連携プレーだけどぉ、最初の一撃でぇ首を切断したって良いんじゃないのかなぁ。 その方か簡単だしぃ」
アリアリーシャは、今の作戦に、愚痴を漏らす。
ジューネスティーンは、また、いつもの愚痴に付き合うのかと思いつつ、シルバーブロンドの背の低いアリアリーシャに応える。
「まぁ、そうなんだが、魔物を倒す時の訓練にならないし、可能な限り道具は思った通り使えるようにしてもらわないと、いざという時、微妙に位置がズレてしまっても嫌なんで、寸分の差が出ないように、こういった時ほど、難しい事をやってもらっているんだ」
作戦については、ジューネスティーンが考えているのだが、そんな面倒な事をせずにと言うアリアリーシャに、作戦の意義を伝えている。
ただ、ジューネスティーンには、それ以外にも何かある様子で話を続ける。
「それに首を落とすとなると、首の骨を切り落とすことになる。 それだと刃毀れしたりするから、後で刃の手入れが大変になるし、耐久性にも影響が出るだろからね。 獣を狩る程度で後の手入れの時間を考えたら、この方法が一番良いと思うよ。 アリーシャ姉さん」
攻撃を指示していた筋肉質のジューネスティーンが答える。
言われた通りなのだ。
アリアリーシャも、その事を自分でも頭で理解できているのだが、微妙に釈然としないでいる。
そんなアリアリーシャを思って、ジューネスティーンは、アリアリーシャに声をかける。
「それでも、食事用の獣狩りで首を落としたいなら、今度から武器の手入れは自分でやってくれよ」
刀の手入れは、砥石で磨き上げるが、コツが掴めてないと切れ味が落ちる。
いまいちな研ぎ方しか出来てないアリアリーシャは、自分が研いだダガーの切れ味を頭の中に浮かべ、微妙な表情になる。




