不慣れな魔法と戦闘訓練
5人の先には、イノシシに似た獣が下草を食べている。
地面には所々に纏まって僅かに草が生えているので、森の中で生えた草は貴重なのだろう、周囲を警戒してはいるが、草を食べる方が重要なのではないかと思える。
5人は、徐々に間合いを詰めている。
中央にいる3人の先頭の動きが止まり、後ろの二人と左右に合図を送るように声をかける。
「仕掛けるぞ」
左右の2人に判るように体の前で、手でジェスチャーを送っている。
そのジェスチャーを見て、後ろの2人が攻撃のために立ち上がるのを左右の2人が確認すると、展開中の2人は片手を上げて合図を送る。
左右に展開した2人の合図を見た、青年の後ろに居る髪の長いエルフは、ロットを持ち、詠唱の準備を始め、もう一人の髪の短いエルフは手に持つ弓を射る準備を始める。
中央の2人が攻撃準備に入ったのを確認したので、左に展開しているヒョウの亜人は、しゃがみ込みいつでも飛び出せるようにし、左右の腰の鞘からダガーを静かに引き抜く。
抜いたダガーは、左右とも刃渡り50センチメートル程の片刃で、軽く反っている。
鐔部分の刃幅は7センチメートル程あるが先端にいく程細くなっており、そのダガーを両手で逆手に持ちいつでも飛び出せるようにしている。
右に展開しているウサギの亜人も左手で腰から獲物を引き抜き、そのまま逆手に持つと、いつでも飛び出せるようにしている。
左右に展開した2人の準備が整った事を確認した、中央の長身の青年も自分の腰の刃渡り80センチメートルの片刃の両手剣。
鐔から先端まで身幅はほぼ同じ3センチメートル程の片刃剣で、刃は少し反っている。
一般的な侍ソードである。
その剣を右手で左腰からゆっくり引き抜き、切先を右に流しながら、両手で持つと右腰の位置に持ち、切っ先を地面より数センチ上に置き、いつでも逆袈裟で斬りかかれるように身構えている。
全員の準備が整ったのを確認し、中央に位置しているエルフの金髪ロングの少女がロットを目的の獣に向けて、空間に魔法紋を描く。
その魔法の詠唱が始まると隣にいた髪の短い少年とも少女とも言えるエルフが弓を引き獲物に狙いを定めようとする。
金髪ロングのエルフの少女は、隣で弓を引いているのを気にもせず自分の魔法に集中する。
集中したロットの先端に光が浮かび上がると、ロットで円を描き始める。
円は12時の位置から時計回りに一つ描くと、その12時の位置から、ほぼ5時(24分)の位置へ線を描き円に接すると、上に10時よりやや下(48分)の位置へ線を描き、円に接すると並行に右へロットを動かすと、2時よりやや下(12分)へ平行に線を引き円に接すると、ほぼ7時(36分)の位置まで線を引き、円に接すると12時に戻り五芒星を完成させる。
円を描いたその中に五芒星を一筆書きで描きで描いた。
すると、「力」と唱えもう一度円を描く。
時計回りで先ほどの五芒星の頂点の位置で、「物」「粒」「理」「活」と、唱え12時の位置まで円を描く。
ロットを一旦胸の位置に引いて、五芒星の中心にロット添え、目標の獣を目で捉えて呪文を唱える。
「スロー」
そう言うと、獣が自分の体の異変に気が付いたのか、慌てて3人とは反対の方向に逃げようとする。
しかし、獣は、“スロー” の魔法の影響で、動きが鈍く、スローモーションのように動き始める。
その呪文を唱えた瞬間に、隣で弓を構えていたエルフが矢を放った。
ビュンと、弦音がすると同時に、左右に展開している2人の亜人が一気に走り出した。
獣は魔法の影響によって、動きが悪い。
弓は、ゆっくりと動く獣に、矢は、一直線に獣の後ろ足(右太ももの中央)に刺さり、獣は後ろ足を引きずりながらも走り去ろうとするが動きは遅い。
獣は手傷は負ったが、まだ、動ける状態である。
「よし、当たった」
弓を射ったエルフが小さく声を出す。
それを見た左右に展開している亜人の二人は、間合いを詰める。二人は獣の後方45°の方向から其々向かう。
そこに魔法職の少女の支援魔法が来る。
「クイック」
右に展開していたウサギの亜人の移動速度がはやまり、ヒョウの亜人より先行する形になり、右から獣の前脚の太ももも目掛けてダガーが一閃する。
獣の筋肉に深く抉るように刃が入るので、右前足はほとんど使い物にならない状態になる。
剣の感触から、手応えは有ったと感じたウサギの亜人は、そのまま走る速度を落とす事なく獣の前を横切るように通過する。
獣の目の前を横切ったので、獣には、何か白いものが自分の目の前を通り過ぎた程度に見えていただろう。
ウサギの亜人は、獣の視線を自分の方に向ける為、獣の目の前を走り去っていく。
ヒョウの亜人は、プラチナブロンドの髪のウサギの亜人が獣の前を通過するのを確認した。
左に展開して獣に迫っているヒョウの亜人は、ウサギの亜人が右前足に深傷を負わせたその刃が胴体の下からで見えていたのだろう。
ヒョウの亜人の視線は、獣とウサギの亜人と、両方を確認していた様子で呟いた。
「さすが、アリーシャ姉さんだ。 スピードが突然上がっても、狙いは狂ってない」
今度は、自分の番だと思ったのか、獣を睨むように見ると、そのまま進む。
支援魔法を受けてない左に展開していたヒョウの亜人が今度は、左前脚の太ももをダガーで一閃すると、獣は悲鳴のような鳴き声をあげる。
「うん、こっちも狙った場所に入った」
ヒョウの亜人は、納得した様子で、つぶやくと、前にいるウサギの亜人の方に走り抜ける。




