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転移者の少年 3


 メイノーマは、自分にも少年の助けになる事があると思ったようだが、また、直ぐにメイノーマの表情が不安そうに変わった。


(これで戻ったら、この子は、転移者をギルドに渡してしまうわ。そうなったら、この少年の未来も開けるはずだけど……、それでお別れなのね)


 メイノーマは、少し残念な気持ちが表情に出たのだ。


「これから先、この子がどうなるのか楽しみね。でも、ギルドに着いたらお別れよね」


 少し残念そうに、メイノーマはつぶやいたが、その表情には何か思うところがあるように見えた。


「でも、私がこの子に期待をするのは別の話よね。励ましたりするのは、別の事よね」


 自分のできる範囲で助けることができればとメイノーマは考えたのだ。


 横で背負っている男の子の顔を、愛おしそうに見ているメイノーマの顔をセルレインは見た。


 メイノーマの顔には、その中に少し寂しさが浮かび上がっているように見えるのは、ギルドにこの少年を届けることで、セルレイン達とこの少年とのつながりが終わってしまう。


 または、ギルドの意向により続きがあるのかは分からない。


 言葉も分からない少年なら、言葉が喋れるようになり状況が理解できるまではギルドが保護してくれる。


 その後は、ほとんどが冒険者として活動をしていると聞いた。


 少年が冒険者になれば、これで少年とセルレイン達が二度と会えなくなるようなことは無い。


 しかし、ごく稀に転移者の才能をギルド本部が有用と判断すれば、ギルド本部の所属となったら出会える可能性は無くなる。


「この小僧も、しばらくは始まりの村のギルド支部の預かりとなるだろう。俺達もこの辺りで活動していれば、また、出会う事もあるだろうな」


 セルレインは、何か気掛かりな事が有るような表情をして答えていた。


 しかし、メイノーマは会える可能性が有ると言われた瞬間嬉しそうな表情に変わった。




 メイノーマが、セルレインの背中で寝ている少年に、また、会う事ができると言われて少年に何かあった時、助けられる言葉を自分が掛けられないかと思っていた。


 しかし、直ぐに後ろから現実的な話が飛んでくる。


「でも、この子と、私達が、話せるようになるのは、しばらく先になるわね」


 アイカペオラが、正論を言うと、横にいるウィルザイアが、意地悪そうな笑みを浮かべた。


「そうよ。ギルドでしっかりと言葉を覚えてもらわないと、メイノーマの顔を見て泣き出しちゃうかもしれないわよ」


 それを聞いてメイノーマは振り返ってウィルザイアを睨んだ。


「そんな事、無いもん。きっと、この子は、いい子で、笑ってくれます」


 そう言って、頬を膨らますと前を向いてしまった。


 しかし、メイノーマは言葉が通じないという事実は受け入れなければならない。


 転移前の言葉は、この世界の言葉と全く異なっている事から直ぐに話をすることはできない。


 転移者は、始まりの村のギルド支部で保護され、言葉も常識も教えられるので、その間は簡単には会うことが出来ない。


 ギルドの完全管理下に置かれてしまうので、助けたメイノーマ達でも簡単に会わせてもらう事は不可能なのだ。


(すぐに、この子と話をすることはできないのね)


 メイノーマは、ガッカリしていた。


 そんな、メイノーマの様子を見たセルレインは仕方なさそうな表情をした。


「なあ、メイノーマ。子供は、何をするにも覚えるのが早いと言うから、明日・明後日に話せなくても数ヶ月後には大丈夫だと思うぞ。言葉が喋れるようになれば、外出する機会もあるだろうから、それまで我慢する事だな」


 セルレインは、先ほどまでイタズラぽく話をしていた事で、ウィルザイア達が自分を真似てメイノーマを揶揄ったのではないかと思い反省したようだ。


 今のセルレインの言葉から、後ろにいるアイカペオラとウィルザイアのはメイノーマを揶揄うことはしなくなった。


 メイノーマを揶揄った2人の話を、セルレインがフォローしたので揶揄う事はやめた。




 メイノーマは、この少年が言葉を覚えて、ギルドの保護下から出るようになれば、また会うことも可能なのだ。


 その時、この少年と、何を話そうかなどと考えているのか、表情は明るい。


「早く言葉を覚えてくれるといいわね。 その時、どんな話ができるか楽しみだわ」


 メイノーマは、つぶやくように言った。


 そして、セルレインの背中で寝ている少年について、メイノーマは、想像を膨らましつつ、少年の顔を見るのだった。


 そんなメイノーマを、後ろの2人は、可愛い妹分だと思うのか、嬉しそうな表情を見せている。




 先頭を行くアジュレンと、しんがりのストレイライザーは、そんな会話を快く思いつつ、周囲を警戒しながら聞いていた。


 アジュレンとストレイライザーは、4人の会話を、面白そうに聞くだけで、話に入ろうとはしなかった。


 それは、魔物の不意打ちを喰らって、助けた少年を死に至らせないためだ。


 サソリの魔物から、少年を助けたのだが、今、歩いているのは、砂漠で、いつ何処から魔物が襲いかかってくるか分からない状況なのだ。


 サソリの魔物から少年を助けて、砂漠を移動中に、少年を死なせてしまったら、報酬が無くなってしまう。


 それどころか、そんなことになった事が、始まりの村の、他の冒険者に知れたら、酒の肴にされ、笑い物になることは、間違いないのだ。


 ギルドに少年を届けるまで、気を抜けない状況なのを、先頭であるアジュレンと、しんがりのストレイライザーは、知っているので、4人の会話に入る事はせずに、周辺の警戒を怠らないのだ。


 日は、まだ、高く、明るいうちに、始まりの村に帰ることができそうなのだが、このパーティーには、安心して、警戒を怠るようなことはない。


 そして、個人の思惑を思いつつ、6人のパーティーは帰路を急ぐのだった。


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