表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

354/1356

エルメアーナのベアリング開発  エルメアーナの検討 2


 エルメアーナは、窓の外で子供が持っていた風車を見て、自分の考えの中に、何か閃きを感じたようだ。


(そうだ、風車小屋の石臼だ。 ただ回すだけなら動力は色々有るぞ。 何も高価なイスカミューレン商会の機械だけが使える物とは限らない! 他にも使えそうなものが有るって事か。 ……。 いや、動力のトルクが重要? スピードを落としたらトルクも上がるから回転数を落とせばいいのか)


 考える様子で、窓の外で遊んでいる子供が手に持って遊んでいる風車を見ていた。


(いや、これは、まだ、検討するのは早いな)


 そして、何か吹っ切れたような表情をした。


(ちょっと先走りすぎた。 私もジュネスと一緒だな。 それより今はベアリングの完成品を作る事が最優先か。 ジュネスの試作品は完成には遠いみたいだったから、あれでジュエルイアンを説得できたもんだ)


 エルメアーナは、試作品のベアリングについて、回る時に引っ掛かるような感覚を思い出していたのだ。


 何か引っ掛かるような感じがあってはいけないのだから、ボールの真円度を上げる必要がある。


 ジューネスティーンが持ってきた試作品のボールベアリングを見た時の事について、ジュエルイアンがどんな風に思ったのか、エルメアーナは気になったようだ。


(しかし、ジュエルイアンは、あれだけで、よく、ベアリングの将来性を理解できたな。 やっぱり、ジュエルイアンは、やり手の商人なのか。 ……。 それとも、技術的な事については疎くて、ジュネスの口車に乗っかってしまったのか? いや、それで大陸一の商人になるなんて出来ないな。 だったら、やっぱり、ベアリングの将来性について、理解できたから、開発させようと思ったんだろうな)


 エルメアーナは、納得したような表情をした。


 ジュエルイアンは、大陸において、すべての国に支店を持つ大商会の筆頭で、それだけの手腕を持つジュエルイアンなら、ベアリングの有用性も収益率についても計算しているはずである。


 ベアリングの大量生産が行われ、それを使う場面の多さを考えれば、開発に掛かる費用について無理も通してしまうが、時間が掛かり過ぎる事については、良い顔をしないだろうことはエルメアーナにも理解できている。


 今、エルメアーナが考えることは、完成を早める事が最優先となる。


 開発するアイデアの豊かさ。


 ジューネスティーンにはそれがあり、エルメアーナをジュエルイアンが付けた理由は、鍛治技術が未熟なジューネスティーンには無い部分をエルメアーナにフォローさせる事にある。


 どんな鍛冶屋や職人に聞いても、1000分の1の精度と言われて、誰も作りたいとは言わなかった。


 むしろ、そんな物を作る事は不可能だとも言われたのだ。


 エルメアーナは、どんな鍛冶屋でも職人でも、匙を投げた話に手をつけたのだ。


 そして、エルメアーナには、ジュエルイアンの依頼に対して断りきれない理由があった。


 カインクムとフィルランカの、新しい鍛冶屋兼自宅もだが、エルメアーナが鍛冶屋として独立できたのは、全部、ジュエルイアンが用意してくれた。


 自分の家族の事を考えると、依頼を断り難いのだ。


 そんな状況が、エルメアーナのベアリング開発に手を染める羽目になったのだが、最初は地味そうなパーツの開発だったため乗り気ではなかったが、その内容を聞いているうちに、その奥の深さを感じて鍛冶屋としての性からなのか、この仕事に挑戦したいと思い始めていたのだ。


 そんな事もあり、エルメアーナは、ジューネスティーンの仕様を満足させ、ジュエルイアンが望んでいる納期に間に合わせるために知恵を絞っているのだ。


 思考的には、かなりの重労働となっているのだが、エルメアーナは、ジューネスティーンの描いた絵を見つつ、自分のアイデアによって作業時間を減らす算段をしていた。


 作業時間を減らすだけではなく仕様も満足させるという二つの課題を、エルメアーナは、見つけられそうになっているのだ。


(待てよ。 ジュネスの描いた石板では、固定された螺旋状の円盤と、放射状に線を描いた回転する円盤だったな)


 エルメアーナは、ジーッとジューネスティーンの描いた石板を眺めていた。


(これ、放射状の直線の円盤だと、回っている時に引っかからないか?)


 そして、険しい表情をすると、別の石板に円盤を描き同心円を幾つも描き出した。


(これ、内側から順番に入れて、徐々に外側に移動するようにした方がいいかもしれないな。 でも、どうやって説明する?)


 エルメアーナは、真円度が出ていない、表面に円柱をビットで丸めただけで、バリも出ている状態の球なら、早いスピードで回る部分では、バリが引っかかるだろうし、それに放射状の円盤だと角に引っ掛かる事に気がついたようだ。


(これなら、両方とも同じ円にしたほうが、バリで引っ掛かる可能性が低くなるのか。 角は可能な限り作らないほうがいいだろう。 上の円盤も下の円盤も同心円にして、その中を転がらせるようにしたら、ボールは、丸いトンネルの中を転がっていくって事だから、ボールにバリが出ていても引っかかりにくいだろうな)


 エルメアーナには、更に何かが見えてきたようだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ