表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

339/1356

エルメアーナの日本刀推し  〜天才鍛冶屋の観察力〜


 4人は、店の中に入ると、エルメアーナは、そこに座れというように、商談用のテーブルを指差した。


 ジューネスティーンは、店のカウンターの上に置いてある鞘を取ろうと思ったようだが、それを邪魔するようにエルメアーナがテーブルを指差していたので、抜身の剣を持ったまま、テーブルに移動した。


 ジューネスティーンは、持ってきた自分の剣を、仕方なさそうにテーブルの上に置いた。


 エルメアーナは、テーブルの上に抜身の剣が置かれているのを確認し、全員がテーブルに座ると、自己紹介もせず、ジューネスティーンに剣について質問を連発していくのだった。


 テーブルに置かれた剣を見てしまうと、頭の痛みよりも好奇心の方が優ったようだ。


「おい、この剣の材質は、鉄だろう、ただの鉄の剣が、こんなに細くて使いものになるのか? これだけ細いと大型の魔物を叩いたら、一発で折れて使えないだろう。」


 まず疑問をぶつけるように話し始めたのだが、すぐに剣の刃を指差した。


「だが、この剣は、刃こぼれがあるという事は、今まで、使った事があるという事だ。 この細身の剣が、何で折れずにここにある。 折れない曲がらない、こんな細身の剣は、今までに見た事がない。 どうやったら、こんな剣が作れるんだ」


 その剣幕にジューネスティーンは驚いていた。


 そして、説明を始めようとすると、その前に、エルメアーナが口を開いてしまった。


「いや、これは、刃と峰で、素材が違う。 この素材の違いに、細身の剣でも折れずに使える秘密があるのではないのか。 太くて厚い曲剣と同等の性能を、この剣は有している。 その秘密が、この刃と峰の素材の違いではないのか」


 ジューネスティーンは、エルメアーナが見ただけで本質を見抜いたことに少し驚いた様子でエルメアーナを見ていた。


 また、説明を始めようとすると、ジューネスティーンが話し出す前に、エルメアーナは、また、話し始めた。


「それに、この刃のところに描かれた変な波は何だ。 これは、どうやったら出るのだ? これは、色を塗ったりして出る模様じゃない! 微妙な素材の変化が、刃に波を作っているはずだ。 だが、この剣の素材は、どう見ても、全部、鉄だ! これはどうなっているんだ!」


 ジューネスティーンは、今の質問で、かなり、詳細な事まで、エルメアーナが観察していると思ったのか、興味を持った様子で話を聞くことに専念しようと思ったようだ。


 素材の違いが有りそうだと言った事から、ジューネスティーンは、エルメアーナが、何処まで見えているのか気になったのだ。


 そして、それは、ジューネスティーンの横に座っていたシュレイノリアも同じように思ったようだ。


「お前、これ、焼き鈍しを怠っただろ、刃こぼれは、焼き鈍しを怠った時に起こる。 お前は、発想は良いんだ。 だが、お前の鍛治技術は、素人同然だ。 この剣は、南の王国なら、何とかなるだろうが、帝国のような高レベルな魔物だと、使い物にならないだろう。 もっと、鍛治技術を磨かないと名刀は作れないぞ」


 ジューネスティーンは、その自分の剣に対するエルメアーナのダメ出しに苦笑いをしていた。


 それは、鍛治についてジューネスティーンは誰かに教わったわけではない。


 見学させてもらった鍛冶屋で遠巻きに見せてもらえた程度で、技術的な事を何一つ教えてもらうことはなく独学で剣を作っただけなのだ。


 エルメアーナのように、カインクムという大ツ・バール帝国でも名のしれた鍛冶屋を父に持つわけでもなく、そして、13年という鍛治経験も無いいのだ。


 そのため、エルメアーナのようなベテランの鍛冶屋から見たら、幼稚な部分も見えてしまうのだった。


 ジューネスティーンは、エルメアーナの指摘を聞いて、その通りだと素直に認めた表情を浮かべた。


「はい。 自分は、独学で鍛治を始めたので、基本的な部分が欠けているはずなんです。 もし、よろしければ、私に鍛治を基礎から教えてもらえないでしょうか?」


 ジューネスティーンは、控え目にエルメアーナに聞くと、エルメアーナは、ニヤリと笑った。


 エルメアーナとしたら鍛冶屋としての強かさが出たのだが、ジューネスティーンには、少し怖く感じたようだ。


「おお、いいとも、お前の剣の作り方を教えてもらうのと引き換えだ。 私に鍛治を教わったら、お前も鍛治の天才となるだろう」


 そう言って、ジューネスティーンの肩を叩きつつエルメアーナは大笑いをした。


「おお、そうだ。 お前の剣の作り方を教えてくれたら、私がもっと完成度の高い剣にしてやろう。 こんな曲剣を見たのは初めてだが、私の腕なら、きっと、お前が今持っている、この剣より満足できる剣を作ってやれるはずだ。 だから、まず、この剣の作り方を教えてくれ。 私が、最初に作る剣は、お前の剣だ」


 そう言って、また、笑うのだが、それを隣の席で、面白く無さそうに、シュレイノリアが見ていた。


 シュレイノリアは、先ほどの態度もあったので、エルメアーナが、ジューネスティーンに馴れ馴れしくしていることが、少し不満のようなのだ。


 それに、この剣の開発には、シュレイノリアとジューネスティーンの合作のようなものなのだ。


 それを教えろと言われた事も、その時の苦労を考えたら、面白くなかったようだ。




 ジューネスティーン達が、硬鉄を軟鉄に被せて作る日本刀と同様の技術を開発して、それを初めて鍛冶を専門にしている人に話をした。


 素人の鍛治でも、大きな効果のあったジューネスティーンの剣を、本職の鍛冶屋が方法を聞いた。


 技術革新により新たな剣の作り方を知った天才鍛冶職人であるエルメアーナが、その技術を知ることになった。


 それは、エルメアーナの名前を、大陸に知らしめるキッカケとなるのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ