後期の武道大会 本戦の決勝戦 4
次席は場外に飛ばされた槍を手に入れると、これ見よがしに演武を披露して周り見せつけていた。
これが本来の姿だと言いたいようだった。
この特例のような状況にジューネスティーンは、何も言わずに従っていた。
本来なら、ルールに反すると抗議があってもおかしくはないはずなのに黙って様子を伺うだけだった。
それは、ジューネスティーンが武器が何に変わろうが相手にならないというように次席には思えたのか気に食わないという表情をして睨んでいた。
ジューネスティーンとしたら、今の簡易的なパワードスーツであろうと、シュレイノリアの新たに開発してくれた魔法紋のお陰で、パワーも速度も大いに上がり剣や槍の攻撃でも、その速度に追いつけると判断していた事もあり剣も槍も特に問題無いと判断していたので、次席の槍による演武を見ても、その速さなら対応可能だと考えていた。
その落ち着きぶりが次席には気に食わなかった。
次席としたら、首席が初戦負けして優勝の可能性が出てきていた事もあり、この決勝戦でジューネスティーンを倒せば、首席に間接的に勝った事になるので、万全を目指し、槍を使ったのはパーティーメンバーと聞いていたアンジュリーンの時だけとして、それ以外の試合は全て剣で対応し槍は決勝戦まで残しておいた。
アンジュリーンとの対戦に槍を使ったのは、同じパーティーメンバーで1年生なら、相手が槍に対してどんな対処をするか確認が取れると思った事もあった。
その対戦で、素人的な演技をし、1年生なら経験不足から有利に戦えると手応えを感じた事もあり決勝まで槍は温存できる。
勝ち上がった3年生は、今まで試合で対戦し、授業でも対戦した相手でもあるので、相手の技量も十分に理解しており、自身の剣技でも十分に勝てると判断し、1年生のジューネスティーンに初見の槍で確実に勝ちを得ようと考えていたのだ。
しかし、その目論見は外れていた。
ジューネスティーンは、1年近くのトレーニングと授業によって得た剣技や経験と、パワードスーツの魔法紋の改良によって、生身の人間を凌駕する力と速度を備えた事で、今の次席の攻撃なら十分に対応できてしまっていた。
人の反応速度は、電流が流れるように早くはない。
人体の神経伝達の遅さと魔法紋で受信した神経の信号を数百倍の速さで各部に伝えて動きを補填させる事によって、筋力だけでなく人の動きの速度も超えてしまっている。
防御力が高く、筋力も強く、動きも早い。
パワードスーツの魔法紋を開発していたシュレイノリアは、各部に魔法紋を使って神経の伝達信号を拾って、その信号に合わせて各部の関節を動かすようにした。
それは、始まりの村とは比べ物にならない図書館の蔵書から得た知識によって魔法紋の改良を行い、駆動制御の魔法紋の改良によりグレードアップされていた。
図書館の蔵書には人体に関するものもあり、その中に神経に関する記述も有った。
転移者の中には、ジューネスティーンの前世より後の時代の人が、ジューネスティーン以前に転移している事もあった。
その結果、この世界の医療技術以上の記述が転移者により書かれており、書かれた内容を理解できなかった事から、ギルド本部の職員により重要性が低いと判断されギルドの高等学校に卸された書物も多い。
3歳児に大学の専門分野の話をしても、基礎理論の欠如している事から応用理論に付いていけないようなものなので、結果として不要と判断され学校に卸された書物が有った事からシュレイノリアの目に止まった。
その中に有った内容をシュレイノリアは理解しパワードスーツの魔法紋に利用できると判断し魔法紋の改良を行なっていた。
その結果、防具としてのフルメタルアーマーではなく、身体と連動して人体能力以上の力や速度を出せるようになりパワードスーツとなった。
ジューネスティーンは、次席の演武が終わるのを見ていた。
主審も戻ってきた槍の状態を確認するために演武を行なったのだろう程度に見ていたようだ。
(これだけ、槍を使いこなせるのだから、この人、やっぱり、槍の方が得意なんだろうな)
その演武を見ていてジューネスティーンは納得するような表情をした。
(でも、今度の魔法紋は反応速度も早い! ただ、反作用の問題は有るが、使い方次第だというのは、もう分かっている。それに最後の試合なら、無理も出来るってものか)
次席は、演武を終えると主審に頭を下げた。
「ありがとうございます」
主審は、分かっているというように次席に視線を送るとジューネスティーンを見た。
その視線は、試合を再開すると訴えていた。
2人は、お互いに武器を構えると、主審は息を大きく吸った。
「初め!」
試合が再開した。
その瞬間、ジューネスティーンは一気に間合いを詰めた。
それを牽制するように次席は槍を突いたが、ジューネスティーンは槍を左に払うように木剣を振った。
剣と槍が交差し、槍が払われる。
槍は右側に持ち、手前を左手で支えているので、それをジューネスティーンは左に払ったので、次席から見たら右側に払われている。
そして、ジューネスティーンは間合いを一気に詰めていたので、槍を引き戻せず、槍の内側に入ってきていた。
ジューネスティーンは、左に払った木剣を戻す事なく左に添えるように次席に迫っていた。
次席が槍を戻して、再度突き出す事ができないようにして、腕を伸ばせば次席に触れられる所までくると左に添えるように持っていた木剣を横にして、次席の首を目掛けて持ちあげた。
後少しで剣が首に添えられるところで、次席は、槍から左手を離して腰の木剣を逆手に持ち、そのまま持ち上げた。
ギリギリで、ジューネスティーンの木剣を自身の引き上げた木剣で躱すと、そのまま、右後方にステップして間合いをとりながら木剣を腰に戻しつつ槍を右手だけで突いてきたので、左手のスモールシールドで受けた。
次席は、更に槍でスモールシールドを押しつつバックステップして、間合いを取った。
一気に間合いを開けた事によって、次席は試合場の境界付近まで移動していた。
(なる程、一般的な太い剣を持って来なかったのは、今のように槍の死角に入られた時の防御の為だったのか。後の剣をおさめるのも早かった。槍が得意だから、利点も欠点も全部弁えているって事だな)
ジューネスティーンは、納得するような表情をした。
(流石に、決勝戦で3年生トップ2と言われている次席と対戦だと隙は見せてくれないか)
そしてジューネスティーンは、また、踏み込んで間合いを詰めて連続攻撃に出た。




