後期の武道大会 本戦の決勝戦 3
ジューネスティーンは、次席の槍を使えなくさせるという事と、武器の変更によって身体が武器の変更によって動きが鈍る可能性を考えて攻撃を加えた。
しかし、甘い期待だと思っての攻撃を次席にあっさり躱され、期待は簡単に打ち砕かれた事に苦笑いをしていた。
次席は、ジューネスティーンが試合中に笑った事が気に食わなかったというように眉を顰めると、踏み込みと同時に上段に振りかぶって頭上を狙って振り下ろしてきた。
ジューネスティーンは、その攻撃を左のスモールシールドで防ぎつつ、右手で首を狙って振ったが、その攻撃は次席も読んでおり、抑えられた木剣を戻して自身の左肩近くで防ぎながらバックステップで間合いを取った。
次席としても今の攻撃が当たるとは思って攻撃したのではなく自身の剣技の確認とジューネスティーンの様子を伺ったようだ。
そして、万一、兜を付けている頭部に木剣が当たったとしても有効打と認められる事は無いが、その攻撃が当たる衝撃によって脳震盪を起こしてくれれば反応が鈍る。
その間隙を突いて剣を添えれば勝てるが、今までの攻防を考えれば、そんな作戦が決まる訳がないと思っていたから防御にも対応できていた。
間合いを開けた次席は主審に左の掌を向けた。
「待て!」
主審は試合を止めたので、ジューネスティーンも身体から力を抜いた。
「すみません。場外に飛ばされてしまった槍を拾いたいのですが、よろしいでしょうか?」
主審は、何を言っているという表情をした。
「さっき、彼に蹴り飛ばされてしまい場外に出てしまいましたので、僕は試合中に拾う事ができません」
主審は考え出した。
試合中に場外に出る事は禁止されており、出てしまえば失格となってしまうが、場外に槍を飛ばしたのはジューネスティーンが故意に蹴り出していた。
ジューネスティーンとすれば、会場内に槍が落ちているのは、踏んでしまって体勢を崩す事を嫌った為に行っていた。
会場に落ちてしまった物は排除しなければ、場合によってはケガに繋がる事もあるので、ジューネスティーンの行為は反則にはならない。
主審は、ルール上の問題を考えていた。
すると、槍の近くの副審が次席の槍を拾った。
「主審! これは決勝戦だ!」
そう言うと、次席に槍を渡してから主審に視線を送ると、観客席の上の方を見た。
そこは、各国から招かれた来賓達が決勝戦を観戦している。
後期の武闘大会は、3年生の卒業後の進路にも影響を及ぼす。
来賓達は、各国に出没する魔物退治のために軍の増強を行うために、ギルドの高等学校の卒業生をスカウトする。
卒業生に実戦参加してもらうのは勿論のことだが、ギルドで本格的に魔物退治に特化した卒業生によって、新入隊の軍人の指導や場合によっては軍隊全員の指導教官、隊長として組織的な魔物の討伐、作戦の立案など卒業生については各国が興味を示している。
魔物の討伐が進んでも、魔物は、魔物の渦から定期的に発生する。
その魔物の渦について、魔物が発生する場所だと理解はされているが、何故魔物が発生するのかは分かってないので、どれだけ魔物を討伐しても魔物は発生する。
その為、各国は軍の補強を常に行っており、ギルドの高等学校で目ぼしい卒業生が居たらスカウトしている。
また、卒業生が各国の軍に入った事によって、ギルド所属の冒険者にならなくても、ギルドとしては問題無い。
ギルドは、魔物のコアの活用によって莫大な利益を得ているので、魔物のコアが入手できるのであれば、冒険者でなく各国の軍隊からでも問題はない。
むしろ、軍を組織的に動かして効率的に魔物のコアを回収してくれる各国の軍はギルドに取っても都合の良い相手でもある。
そして、ギルドとしては、大陸の東側に大きく広がる東の森に生息する魔物に興味を持っていた。
そこに生息する東の森の魔物と呼ばれるそれは今まで倒された事が無い。
東の森に隣接する大ツ・バール帝国の軍隊は大陸最強と言われているが、建国の父であるツ・エイワン・クインクヲンが使った魔物の嫌う物質を杖に取り付けて、その杖によって森に戻すだけで討伐には至ってない。
そんな国に卒業生を送り、東の森の魔物の討伐が行われれば、その魔物のコアをギルドが買い取る事も可能となる。
魔物に関する研究はギルドが一番進んでおり、討伐されていない東の森の魔物のコアはギルドも欲している。
そして、昨年には大陸に唯一ギルドの無かった大ツ・バール帝国にギルド支部が設立され、今年は大ツ・バール帝国からの来賓もあった。
その来賓には、時期皇帝(第22代皇帝)を指名されている第一皇子であるツ・リンケン・クンエイも居た。
ギルドとしては、この大ツ・バール帝国にも卒業生を送りたいと考えていた事もあり、その中でも首席と次席のような実力者が帝国軍に入り東の森の魔物を討伐してくれれば良いとも考えていた。
ギルド本部の意向を考えたら、副審は場外に出た槍を渡してでも次席の評価を上げておいた方が良いと判断したのだ。
それを主審に分からせるための目配せをした。
主審は納得すると、副審に視線を送った。
次席は、今使っていた木剣を腰にさすと、槍を頭上で回転させてから左右に袈裟斬りに振り、そして何度か突きを繰り出して槍の感触を確かめた。
その槍の動きには玄人の演武のように研ぎ澄まされていた。




