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後期の武道大会  アンジュリーンを思うカミュルイアン


 アンジュリーンの気持ちが落ち着いたのを見て、カミュルイアンは安心した。


 3年生の次席に敗戦、そして、準決勝では自身の失敗から敗戦した時には見せなかった涙は、アリアリーシャとの対戦だった事もあり思い入れもあったようだ。


 メンバー同士では、練習する事も多く、お互いに相手の技量も知っていた。


 そして、1年近く同じような練習をしていたら、お互いに勝った負けたはある。


 その延長線上だと割り切れば良いとは思うだろうが、当事者からしたら大会のような場所での敗戦は、とても悔しいものである。


 今までは、ほとんどが3年生との対戦であって、負けたとしても当たり前として捉えられるところだが、同じ学年であり同じパーティーメンバーであるアリアリーシャとの試合は負けたくなかった。


 そんな事からアンジュリーンは感情を抑えきれなかったのだ。




 アンジュリーンの気持ちがおさまると、カミュルイアンは考えだしていた。


(どうしよう。このまま、ここでジュネスの試合を観戦した方が、アンジュのためには良い? でも、同じパーティーメンバーなんだから一緒の控室で観戦するのが当たり前じゃないのか?)


 アンジュリーンは顔を拭い終わると、気持ちを落ち着かせるようにしていたので、カミュルイアンは黙って見守っていた。


(どうしよう。今のアンジュの状態でアリーシャと顔を合わせたら、落ち着き始めたアンジュが、また、不安定になってしまうじゃ? それに試合の後、アンジュが涙を流しているところを、アリーシャは見ていたはずだ)


 カミュルイアンは、困ったように腕を組んだり、顎に手を当てたりしていた。


(今まで、アンジュの涙なって、ほとんど見た事なんて無かったし、それに、あの時、アリーシャは、アンジュを見て不安そうな表情をしていたから、あれは絶対にアンジュが涙を流している事が見えていたはずだし、あんなアンジュを見たアリーシャが、どう思っているかって事も心配……)


 カミュルイアンは、視線を窓に向けた。


 その先には試合場があり、さらにその先には、今、アンジュリーンが戦ったアリアリーシャが居る。


 カミュルイアンの視線は、向こう側の控室を見ていた。


(どうしよう。アンジュは落ち着き出したけど、このまま、あっちに連れていったら、また、気持ちが動転してしまうんじゃない? アリーシャを見たら、また、泣き出してしまわない?)


 カミュルイアンは、この後、どうしようかと悩んでいた。


「カミュー、ジュネスの応援よ! 向こうの控室に行きましょう」


 向こう側の控室を見て不安そうにしていたカミュルイアンにアンジュリーンが声を掛けた。


「えっ! ああ、うん」


 カミュルイアンは、意外な言葉を聞いて、慌てて返事をするだけになっていた。


 アンジュリーンは、立ち上がるとスタスタと歩き出したので、カミュルイアンは慌てて荷物を痛くない方の腕で持ち上げて肩に掛けると、その後を追うように歩き出した。




 反対側の控室に向かう際には、大会の掲示板があり、そこにはトーナメントの山が記載されていた。


 そこで、アンジュリーンは立ち止まって、トーナメントの山を確認した。


 そこには、敗者復活戦の3位の位置に、アリアリーシャの名前があった。


「もう、表示されているのね」


 それだけ言うとアンジュリーンはカミュルイアンを見た。


「ごめん、ちょっと、顔を洗ってくるわ」


 アンジュリーンは、掲示板の隣にある洗面所を指した。


「あ、ああ、そうだね。じゃあ、これを」


 カミュルイアンは、持っていたバックの中からタオルを取り出して渡した。


「ありがとう」


 アンジュリーンは、タオルを受け取りお礼を言うと洗面所に入っていった。


(顔には涙の痕が有ったから、みんなに見られるのは嫌だったんだろうね。やっぱり、アンジュも女の子なんだ)


 その行方をカミュルイアンは目で追い、その姿が消えると入口の脇に立ってアンジュリーンを待つ事にした。


 ホッとした様子で壁に背を付けていると大きなドスンという音がした。


 その音の方向は洗面所の中から聞こえてきたので、アンジュリーンが中で何かをしたのだとカミュルイアンは思ったが、アンジュリーンの居る洗面所は女子専用な事もあり、カミュルイアンは入る事が出来ない事から洗面所の入口を見ていた。


(ど、どうしよう。アンジュ、中で何してるんだよ)


 困った表情をしたカミュルイアンは、洗面所の前を行ったり来たりと歩き出した。


 入口付近だと、誰かに見られたら不審者と思われると思ったカミュルイアンは、少し離れた所をウロウロしていた。


 すると、洗面所からアンジュリーンが出てくると、スッキリした清々しい表情をしてカミュルイアンを見た。


 カミュルイアンは、その姿を見て、一瞬、驚いたような表情をしたが、安心した表情を見せた。


 数回、洗面所の前で3・4メートルを往復していただけだが、不安に駆られたカミュルイアンとしたら永遠の時間のように思えていた事もあり、アンジュリーンの表情の変化が想像を超えていた事から驚いたが、その清々しい表情見て安心した。


 ただ、さっきの音の事が気になった。


「ねえ、アンジュ。さっき、中から凄い音がしたけど、何かあったの?」


 アンジュリーンは、一瞬、表情を硬らせたが、直ぐに戻った。


「ああ、壁の中にネズミが居たみたいなの。だから、脅かしたら居なくなったわ」


 それを聞いてカミュルイアンは、引き攣った笑いを浮かべた。


(ちょっと、壁の中って……。ここの壁って板張りじゃなくて、石壁じゃん。隙間の無い壁に生き物なんて入り込まないでしょ)


 そして、真剣な表情に変わった。


(そうか、壁を叩いて、憂さを晴らしたのか。アンジュは、気持ちの切り替えができたのかな)


 カミュルイアンは安心したようだ。


「さっ! 行くわよ。早く行かないとジュネスの試合が始まってしまうわ」


 アンジュリーンは、動こうとしないカミュルイアンに声を掛けた。


「ああ、そうだね。みんなでジュネスを応援してあげないとね」


 2人は、ジューネスティーンの控室に向かった。


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