後期の武道大会 3位決定戦(敗者復活戦)の結果
アリアリーシャが間合いを取った事から、アンジュリーンは呼吸を整えられるように動こうとした。
しかし、アンジュリーンは、呼吸が整えられると思った矢先にアリアリーシャが間合いを詰め、攻撃を仕掛けてきたので、慌てて剣を構えて対応しようと、剣の切先を引きアリアリーシャに向けて突き出した。
疲れが見えてる突きであれば、軽く流してきたアリアリーシャのスピードに追い付く事は無く、軽く横にステップして躱した。
慌てて、アリアリーシャの方向に切先を向けようとするが、その時には剣の間合の内側に入っており、アリアリーシャは向かってきた剣を、片方の剣で受けながら鎬を滑らせて、アンジュリーンの鍔まで自身の剣を持っていった。
そして、もう一方の剣をアンジュリーンの首に当てようとしてきた。
(やっぱり、そうくるのね! でも、簡単に首は取らせないわ!)
アンジュリーンは、向かってくる剣側の手を離すと、その手でアリアリーシャの首を狙ってくる剣の手首を掴んで止めた。
片手は剣と剣で鍔迫り合いとなり、もう片方は、向かってきたアリアリーシャの剣を持つ手首をアンジュリーンが抑えていた。
(しめた! アリーシャの動きが止まった。ここで押し倒してマウントを取ったら私の勝ち!)
アンジュリーンは、押し潰すように力を入れた。
アリアリーシャは、掴まれてしまった腕を下に押さえつけるようにされては、身長がアンジュリーンより30センチも低い事から不利な体勢といえた。
アンジュリーンは、このまま床に押さえつけたらマウントが取れると思って、アリアリーシャを上から押さえつけようとしたのだが、アリアリーシャは、掴まれた腕を引きながら身体を180度回転させた。
アンジュリーンは押さえつけようとしていたので、前につんのめるような形になると、そこには、アリアリーシャの背中が有り覆い被さってしまった。
アリアリーシャの腕を掴んだままの腕が伸びきり、自身の身体はアリアリーシャの背中に覆い被さるように乗ってしまうと、そのままクルリと宙を舞って、背中から床に叩きつけられてしまった。
「勝負あり!」
主審の声が会場に響いた。
驚いたアンジュリーンは、慌てて主審の方を見て、何か言いたそうな表情をした。
(えっ! 何? 叩きつけられたから勝負がついた? これは格闘技の試合じゃ無いでしょ!)
アンジュリーンは、剣の試合で格闘技の技が決まって負けたのかと思ったのだ。
何でというように、今度は、自身の目の前を見ると、そこには、覗き込んでいるアリアリーシャの顔が目に入った。
視線が合うと、アリアリーシャは息を吐いた。
そして、アンジュリーンは、首に何か当たっている事に気がつき視線を下に向けると、アリアリーシャの剣が見え自身の首に当たっていた。
床に寝ているアンジュリーンの首には、アリアリーシャの剣が添えられていたのだ。
アリアリーシャは、変則的な背負い投げでアンジュリーンを投げると、自身の剣を首に当てていた。
(あっ!)
アンジュリーンは、首を取られてしまった事に気がついた。
アンジュリーンが自身の負けに気がついたとアリアリーシャは気がつくと、木剣を引き立ち上がり、両手に持った木剣を腰におさめた。
アンジュリーンは呆然として、その光景を眺めているだけだった。
すると、アリアリーシャは、笑顔を浮かべると、利き腕とは違う右手を差し出した。
アンジュリーンは、その差し出された手を握ったので、アリアリーシャは、身体を引き上げるようにしたので、アンジュリーンは、されるがまま立ち上がった。
「ありがとう」
立ち上がるとアンジュリーンは、思わずお礼を言った。
それだけ言うと、アンジュリーンは、まだ、結果を受け入れられてなさそうに呆然として自身の開始線に戻っていった。
その様子をアリアリーシャは見送ると、自身も開始線に戻った。
主審の勝ち名乗りを聞き会場を後にすると、アンジュリーンは大粒の涙を流していた。
それを心配そうにアリアリーシャは見ながら、自身の控室に戻っていった。
控室に入ったアンジュリーンは、顔を上げられなかった。
入口の前で立ち止まっていると、目の前に誰かが来て立ち止まった。
アンジュリーンは、涙で揺れる視界の中、その足を見ていた。
「アンジュ、お疲れさま。残念だったね」
目の前に立ったのは、カミュルイアンだった。
そして、その一言を聞くと、耐えられなくなり、大きな声を出して泣き始めた。
「わ、わだし、アリーシャに負げた」
それだけ言うとカミュルイアンは、片方の手でアンジュリーンの身体を優しく抱いた。
そして、泣きじゃくるアンジュリーンを抱えて、入口から奥の方へ誘導していき、備え付けの椅子に座らせた。
アンジュリーンは、声を上げながら泣いており、控室に居る人達も黙って様子を伺うだけだった。
全力を出し切っても勝てない相手、届きそうだった勝利を掴めなかった悔しさを控室の誰もが知っているので、泣きじゃくるアンジュリーンに誰も声は掛ける事は無い。
気が済むまで泣かせてあげれば良いと、誰もが思っているのだ。
カミュルイアンは、そんなアンジュリーンを見て困っていた。
周りの人達からしたら、気の済むまで泣かせれば良いと思っていたとしても、付き人としての立場から、周りに迷惑を掛けているように思えていた。
「アンジュ、初めての大会だったのだから、この結果は受け止めよう。でも、来年、再来年には、このリベンジを果たそうよ。オイラなんて、6回戦で負けて、敗者復活戦も欠場だったんだ。3位決定戦に進んだアンジュは凄いことをしたんだ」
カミュルイアンは、アンジュリーンを宥めていると、時々、頷いていたので言われた事は理解していたようだ。
「初めての大会だったのだから、次の大会に向けて気持ちを切り替えようよ。オイラも悔しかったんだ。敗者復活戦の5・6回戦を勝って3年生の首席と対戦してみたかったよ。たとえ叶わないとしても対戦したら、きっと得るものがあったはずなんだ」
「うん」
初めて、アンジュリーンは返事をした。
「アンジュは、4・5回戦、5・6回戦、準々決勝まで勝ったんだよ。4位だって誇れる順位さ」
「うん」
「オイラは、アンジュの事を誇らしいと思っているよ」
「本当?」
「うん」
すると、アンジュリーンは、両手で流した涙を拭い始めた。
涙で濡れた部分を拭うと、カミュルイアンを見た。
「ありがとう、カミュー」
その目は、流した涙のせいで少し充血しており、瞼も少し腫れぼったくなっていた。




