後期の武道大会 3位決定戦(敗者復活戦)のアンジュリーン
アンジュリーンは、控室についてきてくれたカミュルイアンの事も、良く分からない程に緊張していた。
時々、何か話し掛けてくれていたのだが、全く耳に入らなかった。
ただ、大会委員に呼ばれた事は分かり、言われるがまま、そちらに向かったが、大会委員がいつもの口上を述べている事も聞こえてない。
(どうしよう。アリーシャと試合なんて、ジュネスの試合が終わった後に3位決定戦の話を聞いてから緊張したままだわ。格闘技室で身体を動かしたら戻るかと思ったけど、ダメだった)
アンジュリーンの表情は硬く、口上を述べていた大会委員は、そんなアンジュリーンの緊張が威圧されているように思ったようだ。
ただ、大会委員としたら、試合に挑む選手の一般的な態度程度だと、嬉しくはないが指示された事を正確に伝えると会場に続く扉を示した。
アンジュリーンは、その指示に黙って従い会場に入る。
(ダメ! ここまで来ても緊張がおさまらない! 何で私が、同じパーティーメンバーのアリーシャと戦わなくちゃいけないの!)
アンジュリーンは、自身の事だけを考えていた。
そのため、周囲の様子も、人の声も入ってこない。
しかし、試合には挑まなければならないので、会場内を歩き開始線に向かった。
開始線に立った。
(そうだわ。私は、これからアリーシャと試合なのよ。試合相手を見なきゃ!)
アンジュリーンは、初めて、アリアリーシャを見ると、まだ、会場に入る前だった。
そして、アリアリーシャは、腕を大きく後ろに振っていた。
(えっ! 何しているの? あれって、お前は邪魔だから、さっさと何処かへ消えろって事?)
アンジュリーンは、アリアリーシャが、自身の腕の可動域を確認している動作を見てムッとした。
アリアリーシャは、歩く歩幅もアンジュリーンより狭かった事と、自身の身体の状態を確認しながら歩いていたので、まだ、開始線に向かって歩いていた。
開始線に立ったアリアリーシャは、フッと笑顔を見せた。
(ちょっと、どういう事なの? あれは、私なんか弱すぎて試合にならないだろうと思ったって事なの!)
アリアリーシャの態度が、アンジュリーンには侮辱したように思えた。
(な、何よ! 1年生のランキングは、私が31位で、アリーシャが13位だからって、楽勝とでも思ったって事? 1年生のランキングは、教授達が授業の成績で決めているから、そんなにあてにはならないのよ!)
アンジュリーンは、怒りが湧き上がっていた。
(いいわ。目にもの見せてあげるわ! 今のランキングが全てじゃないと思い知らせてあげるわ!)
そんな事を思っていると、アリアリーシャも試合モードの顔になった。
主審は、そんな2人の様子を見つつ、納得した様子になった。
「両者、構えて!」
すると、アンジュリーンは、震える手で自身の剣に手を当て引き抜こうとしたが、手の震えのお陰で、いつものように抜くことが出来ず、少し手間どいつつ抜いた。
(な、何よ! 私の手は、何を振るえているの? ……。そう、これは、武者震いなのよ。アリーシャを倒すと思えば、こんな風になってしまうのよ!)
アンジュリーンが構え、アリアリーシャも構えたのを主審は確認した。
「初め!」
(一気に決めてやる!)
アンジュリーンは、主審の合図とともに、一気に間合いを詰めた。
そして、なりふり構わず、剣を振りかぶって打ちつけた。
(下手な小細工は無し! 力でねじ伏せる!)
身体が小さいアリアリーシャは、機敏な動きとスピードを使って戦ってくる。
そのスピードに合わせたら、アンジュリーンに勝ち目は無いとアンジュリーンは判断していた。
それなら、アリアリーシャに優っている力で勝負に出たが、緊張の解れないアンジュリーンは、自身の思いとは裏腹に猛スピードで剣を叩きつけていた。
しかし、アンジュリーンの剣は、アリアリーシャに避けられ、受け流され、有効打を与えるような攻撃にはならなかった。
攻撃しているのは、アンジュリーンだが、その攻撃は、周りから見たら、ただ振り回しているように見えた。
(もう少しで、アリーシャを捉えられる!)
アンジュリーンは、ガムシャラに剣を振っており、そして、相手に攻撃の隙を与えないように振り下ろし、躱されれば、直ぐに剣を返して振り上げ、剣の方向を変えられ横に流れれば、また、剣を返して横に振る。
そんな事を繰り返していたが、それでもアリアリーシャに躱され、受け流されてしまい、有効打になる事は無かった。
(な、何でなの! 何で、私の剣は当たらないの!)
アンジュリーンは、試合は寸止めルールだという事も忘れて打ち込んでいた。
そんなアンジュリーンの様子を主審も副審も気にはなっていたが、相手のアリアリーシャが上手に躱しているので、試合を止めることもなく様子を伺っていた。
ただ、そんなガムシャラな剣が何時迄も続く事は無い。
アンジュリーンは、息が上がり始めていた。
しかし、相手のアリアリーシャは、最小限の力で躱していたので、息が上がることもなく、ただ、機会を伺っていた。
アンジュリーンは、その無闇矢鱈な攻撃を続けていたが、何一つ効果を与えられないまま体力の限界を迎えようとしていた。




