後期の武道大会 3位決定戦(敗者復活戦)のアリアリーシャ
3年生のランキング4位と、ジューネスティーン達が立ち話をしていた事ににより試合時間になった。
大会委員に、アリアリーシャが呼ばれ、試合会場に続く扉の前に行くと、毎回同じ注意事項を伝えられ、扉から試合会場に向かった。
アリアリーシャは、控室を出た扉の前に立つと、ゆっくりと息を吐き向こう側の控室の入口を見た。
アンジュリーンも控室の扉を出たところだった。
しかし、アンジュリーンは緊張気味にしており、周りを見る余裕が無かったのか、周囲を確認するでもなく直ぐに会場に歩き出していた。
(アンジュは、気持ちの切り替えができなかったみたいね。私は、さっき、あの人から話を聞けた事で落ち着けたけど、アンジュの方は、そんな事も無かったのかしら)
アリアリーシャは、アンジュリーンの様子を伺いつつ会場に向かった。
(そうよ。自分の力を最大限に引き出すには、緊張とリラックスを適度に保つ必要があるのだから)
アリアリーシャは、歩きながら自身の両手を見た。
格闘技室ではアンジュリーンと一緒に居て、次に戦う相手だと思うと緊張して震えが止まらなかった。
それを紛らわすために身体を動かしていたのだが、今は、その手の震えも止まっていた。
(緊張は、力を増す効果が有るけど、力が入り過ぎてしまうとコントロールが効かなくなる。リラックスしすぎたら思ったような力が出ない。バランスが大事なのよ)
そして、見ていた手を握ると軽く剣を振るように動かした。
(うん、良い感じだわ。腕の可動域も広く取れているわ)
アリアリーシャは、自身の身体の状態を確認しつつ歩いて試合場に入ると、また、アンジュリーンに視線を向けた。
アンジュリーンは、表情も硬く身体も少し硬直気味にしていた。
(あー、アンジュったら、ガチガチに緊張している。……。演技? いえ、そんな様子も無さそうね。完全に緊張している? 闘志をむき出しに? いえ、怒っているのかしら? ……。あら、自分の事よりアンジュの事を気にしてるわ。変なの!)
そして、ふとウォームアップの時の事を思い出していた。
(そうよね。あの時、私もアンジュと同じように緊張していたわ。試合って、知っている相手との方が緊張するのかも……。ああ、お互いに手の内を知っているから、余計に気持ちの整理も出来なくなるのか)
アリアリーシャは、今までの行動を考えると、今までの自分が可笑しくなり、フッと吹くような笑いを浮かべた。
(なる程、あの人の言っていた事って、こんな気持ちになるから、下手な小細工はせず、自分の一番良いものを相手にぶつけろって事だったのか。これが、経験によるものなのかもしれないわね。試合前に良い事を聞けたわ)
そして、直ぐに戦えるというように、アンジュリーンに視線を向けた。
主審は、2人が開始線の前に立ち、試合のモードに入っていると判断した。
「両者、構えて!」
それを聞いて、アリアリーシャは、ゆっくりと腰に付けた剣を抜いた。
しかし、アンジュリーンは、緊張のため震える手で自身の剣を抜こうとするが、ぎごちなさがハッキリと見てとれた。
アリアリーシャは、アンジュリーンに声を掛けようとして止まった。
(これは試合なのよ。相手がアンジュじゃ無かったら、私は、そんな事はしない! メンバーだからなんて、そんな気持ちを捨てなければ、アンジュには勝てないわ。気持ちの整理を付けられてないなら、それを利用する。そして、私は勝つ!)
そして、アリアリーシャの表情は、完全に戦闘モードに変わったが、アンジュリーンの表情には、まだ、硬さが残っていた。
「初め!」
その主審の合図とともにアンジュリーンは飛び出してきた。
自身の使う両手持ちの細身の曲剣は、ジューネスティーンから譲り受けた日本刀を模した形になっており、扱いやすい事もあり間合いを詰めながら振りかぶって打ち下ろしてきた。
アンジュリーンが、敗者復活戦で初めて決めた剣を絡めて落とす技は、アリアリーシャのように両手に剣を持つ相手では、片方の剣を、その技を使って落とさせたとしても、もう一方の剣で戦う事になる。
奇襲的要素の高い技なので、アリアリーシャには通用しない事をアンジュリーンも分かっていたので、使うつもりは無いだろうが、レィオーンパードやアリアリーシャが得意としたスピードを重視した戦いを挑んできた。
そんなアンジュリーンにアリアリーシャは、ギリギリまでアンジュリーンの剣筋を確認して、ギリギリのところで左に躱すと、そのまま、横に移動するようにして間合いを取ろうとすると、アンジュリーンは、アリアリーシャを追いかけて、アンジュリーンは剣を左横に構え直して、アリアリーシャを追うようにして、剣を横に振り切った。
しかし、アリアリーシャの敏捷性が勝り、その剣は空を斬るだけだった。
(アンジュ! その剣筋は、雑すぎるわ!)
アリアリーシャは、アンジュリーンの剣筋を冷静に見て、練習で見せるような優雅さも無く、ただ、振り回しているように思えた。
そして、アンジュリーンには、アリアリーシャの様子が良く見えて無いのか、そのまま、アリアリーシャを追いかけて剣を振ってきた。
アリアリーシャとしたら、アンジュリーンのただ振り回すだけの剣を、時には躱し、時には自身の剣で剣筋を変えるように斜めに添えるようにしていた。
決して、アンジュリーンの剣をまともに受けるような事はせず、自身に当たりそうな有効打を受けないように、そして、まともに剣を受けて、自身の足が止まる事を徹底して嫌った。
足が動かなくなってしまっては、アリアリーシャの回避しつつ相手に有効打を与える戦法が生きなくなる。
アンジュリーンの無闇矢鱈の攻撃を受け流しつつ、自身のチャンスを狙っていた。




