後期の武道大会 試合前の控室
本戦と敗者復活戦は、敗者復活戦の後に本戦を行う事になっていた。
最初の試合は、アンジュリーンとアリアリーシャの敗者復活戦の3位決定戦となり、その後に首席の決勝戦が行われ、本戦の3位決定戦とジューネスティーンと次席による決勝戦となる。
ジューネスティーンとアリアリーシャは、先程の試合場脇の控室へ、アンジュリーンは反対側の控室に入り、そこにカミュルイアンが付人として入った。
ジューネスティーンとアリアリーシャが控室に入ると首席が入ってきた。
勝ち上がって敗者復活戦の決勝戦に進んだとはいえ、2回戦でジューネスティーンに負けた首席は、ジューネスティーンの顔を一目見ただけで、直ぐにジューネスティーン達とは反対側に移動してしまった。
そんな中、アリアリーシャは、少し緊張気味にしていると、先程ジューネスティーンと戦ったランキング4位の選手が入ってきて、ジューネスティーン達の方に歩いてきた。
「やあ、君は一番最後の試合なのに早く入るんだね」
声を掛けられたジューネスティーンは、一度視線をアリアリーシャに向けてから答えた。
「ああ、メンバーの1人がこの後の3位決定戦に出るので一緒に入りました」
その答えを聞いて感心した表情をした。
「へー、君のパーティーは優秀なんだね」
そう言うと、レィオーンパードの顔を見た。
レィオーンパードは、目が合って気まずそうな表情をしたが、そんなレィオーンパードに笑顔を向けた。
「本戦決勝戦に1人、ベスト8に1人、敗者復活戦ベスト4が1人も居るのか」
それを聞いて、ジューネスティーンは苦笑いをした。
「いえ、アリーシャ姉さんの相手は、うちのパーティーメンバーなんです」
その答えに意外そうな表情を浮かべた。
「そうなんだ。君たちは、すごいね。僕なんか、1年生の時は、1回戦も勝てなかったよ。あの時、1回戦を勝ったのは、あそこの首席と君と対戦する次席だけだったからね。それに、2人とも2回戦は勝てなかったんだよ」
レィオーンパードは、その話を聞いて意外そうな表情をしていた。
「その時に学校が用意したカリキュラムが、とても優秀なんだと思えたから、それからは一層真剣に授業を受けてたよ」
そして、レィオーンパードを見た。
「ねえ、君は、若いよね。今、幾つなの?」
「14歳です」
その答えを聞いて少し驚いたようだ。
「へー、顔は若いけど、身体は普通の14歳より、はるかにできているね。良い体力作りができたみたいだね」
「うん。にいちゃん達と綱上りをしてたから」
その答えを聞き、ジューネスティーンを見て何か思いついた。
「そういえば、格闘技場に綱が設置されたけど、あれを使って体力作りをしたのか」
そして、4人を一人一人確認するように見て納得するような表情をした。
「ふーん、綱上りか。かなり効果が高いみたいだね。今度、試してみるか」
そんな中、アリアリーシャが緊張気味にしていたのが目に止まった。
「ねえ、君の相手は、同じメンバーなんだね」
アリアリーシャは、アンジュリーンとの試合に緊張気味だったのを見て、その3年生は声をかけた。
アリアリーシャは、答える事はせずに声を掛けられたので、話を聞くつもりで顔を向けた。
「同じメンバーだと、お互いに手の内を知っているからね。試合なんて、とてもやり難いさ」
アリアリーシャは、心の内を覗かれたと思ったため、少し睨んだようになった。
「ああ、それは、誰でも一緒なんだよ。そんな時は、変な小細工はせずに、正攻法で戦うんだ。自分の一番得意な技を中心に戦った方が良いよ。無理に相手の知らない部分で戦うというのは、自分自身、大した練習をしてない部分で戦う事になるからね。その方が、隙を見せてしまったりするから、そこを突かれてしまうものなんだよ。だから、よく知る相手には、一番得意な技で戦う事だよ」
アリアリーシャは、なる程といった表情をし、それまでの緊張が解けていた。
「ありがとうございます」
ただ、アリアリーシャは腑に落ちないような表情をした。
「でも、なんで、そんな大事な事を教えてくれるんですか?」
いつもの語尾を伸ばすことはせずに聞いた。
「ああ、特に意味は無いよ。僕と戦ってくれた相手が勝ってくれたらと思っただけだよ」
普通を装って答えていたが、その表情には僅かに焦りがあった。
「いや、ごめん。君達が同じパーティーで、それにジューネスティーン君と戦って、圧倒的な力差を感じて、そのパーティーメンバーも強いとなれば、卒業後は僕なんかより有名な冒険者になりそうだからね。今のうちに少しでも好印象を与えておきたかった。……。そんなところだよ」
その答えに嘘は無さそうだと思うと、アリアリーシャもメンバー達も、このランキング4位に親しみを感じたようだ。
「そうでしたか。とても、落ち着きました。アンジュとは、授業でも一緒だったから、試合運びをどうしようかと思って、気になっていたのですけど、今の話を聞いて落ち着けました」
その答えを聞いて、良かったという表情をした。
「良かった。じゃあ、君も頑張ってね」
「ええ、良い話を聞かせていただき、ありがとうございました。終わったら、あなたの試合を見て、しっかり勉強させていただきます」
その答えを聞いて、ジューネスティーンを視線だけで見てからアリアリーシャを見た。
「僕は、彼に簡単に負けているんだから、僕より彼の試合の方が勉強になるんじゃないかな」
「いえ、試合経験なら、あなたの方が多いですから、きっと、私のような者には一番勉強になると思いますので」
それを聞いて納得したようだ。
「なら、僕も真剣に取り組まないといけないね。全部出し切るつもりで頑張るよ」
そう言うと、その3年生は、ジューネスティーン達から離れていった。
その後ろ姿とアリアリーシャの様子を見ていたジューネスティーンは、今の会話でアリアリーシャの極度の緊張が解けてくれたので良かったと思っていた。




