後期の武道大会 ジューネスティーンの本戦準決勝
大会委員に呼ばれたジューネスティーンは、一言二言、大会委員から注意事項を聞いた。
毎回、同じ事を言われるのだが、ジューネスティーンは面倒臭がる事もなく真摯に聞くと、前の選手と入れ替わって会場に入って行った。
控室を出ると直ぐにジューネスティーンは、反対側の入口を確認すると、相手の選手と視線が合った。
その視線には、相手をくまなく観察するようだった。
(なるほど、相手の事をしっかり確認しているって事か。だったら、こっちは手の内を見せないようにするか)
「オフ」
ジューネスティーンは、小さな声でパワードスーツのスイッチを切ったので、反対側の相手には聞こえることは無かった。
そして、ジューネスティーンは動き出すが、その動きは鈍かった。
可動部分は人の動きを補助するように自身の動きに連動して動くパワードスーツなのだが、その動きを補助する魔法紋の効果を切ってしまったので、パワードスーツではなく重いフルメタルアーマーになってしまっていた。
その動きは重装甲の兵士のように重そうに歩いていた。
ジューネスティーンが、重そうに歩きだしたので、相手は不思議そうに見てから、歩き出し試合会場に向かった。
試合会場の開始線の前まで、歩いて移動するのだが、ジューネスティーンは、オフの状態で歩いていた事もあり、相手の選手より歩みは遅かった事もあり、遅れて開始線に立った。
そして、ため息を吐いた。
(やっぱり、オフ状態だと動きが鈍くなるし、重さが全部掛かるから、結構、これだけ歩くだけでもキツイな)
通常なら可動部分が連動して動いてくれるので、それ程重さは感じないのだが、金属の鎧の重量が完全にかかってしまっていた事から、少しの移動でも大変さを感じていた。
(シュレの魔法紋は、本当に完成度が高い)
納得するような表情をした。
その様子を相手の選手は、伺うような表情で見ていた。
そして、ジューネスティーンが、控室を出て試合場の開始線まで移動する姿を見て何かを悟ったような表情をした。
2人が開始線に立った事を確認した主審は一度呼吸をした。
「両者、構えて!」
ジューネスティーンは、腰に差した木剣に手を当てた。
「オン」
小さな呟くような声で、パワードスーツのスイッチを入れた。
動力としてモーターやエンジンを使うのなら、軽い動作音なり、それなりの音がするのであろうが、魔法紋を使って各部の関節を補助的に動かす為、音はせず、体の動きに合わせて可動部分が動作するので、周囲にはオンとオフの違いを気付かれることはない。
(やっぱり、軽い)
ジューネスティーンは、安心したような表情をしつつ、ゆっくりと木剣を抜いて構えた。
(さあ、ここまでの様子を見ていたなら、相手の戦術で一番勝率の高いものは、……)
ジューネスティーンは、相手から視線を外す事なく主審の合図を待った。
主審は、2人の様子を確認し戦いの準備ができたと判断した。
「初め!」
主審の合図とともに、相手の選手がジューネスティーンに向かって、一気に間合いを詰めると、お互いの剣が触れる瞬間、相手選手は、剣を叩き落とす為に上から押さえ付けるように叩いてきた。
ジューネスティーンは、手首を下に向けるようにしつつ、相手の叩き落とす力に抵抗する事なく切先を下げた。
その瞬間、相手の剣は逆に戻すようにして、ジューネスティーンの首筋に向かって刃を合わせるように上げてきたのだが、その剣の下からジューネスティーンは剣を上げるため、腕全体を持ち上げるようにした。
パワードスーツが動作しているので、その動きはとても早く直ぐに相手の剣から首を守った。
腕の力を最大限にして向かってくる相手の剣に合わせるように上げ軌道を自身の手前で上にそらしつつ、相手の剣が自身の首筋にくる頃には、剣の軌道は、首筋から50センチはズラされており、ジューネスティーンは、その勢いのまま相手の剣を自身の剣で下からそえる形で持ち上げていた。
そして、ジューネスティーンは、そえられた剣を徐々に相手の鍔側に持っていったので、ジューネスティーンの剣の切先が、相手の頭を掠めるように動いていたので、相手は、その切先の動きに視線を向け回避行動を取っていた。
その結果、ジューネスティーンと自身の剣の当たっている位置が変わっていることに気が付かなかった。
ジューネスティーンの切先を回避しつつ、合わせている剣によって、相手は身体も腕も伸び切ってしまった。
そこを一気にジューネスティーンは剣を外に払った。
宙を舞う剣が放物線を描いて場外に飛び、地面に落ちると何回かバウンドして止まった。
相手の剣が弾き飛ばされた。
一瞬、相手はたじろいだようだが、直ぐに、腰にさしている予備の剣を抜き、ジューネスティーンの間合いから一気に遠かった。
相手の構えた剣は、片手持ちの短剣タイプの木剣で、右手に持って半身に構えていた。
明らかに護身用の剣であり、戦闘には不向きの剣であり、アリアリーシャとレィオーンパードから勝ちをもぎ取った剣だったが、相手の不意をつくなら武器として価値はあっただろうが、今は、その剣以外に戦う術が無くなっていた。
すると、相手の選手は、ため息を一つ吐くと、身体の力を抜き、整体すると両手を上げた。
「負けました」
「勝負あり!」
主審は、試合を終わらせた。
お互いに開始線に戻り、主審の勝ち名乗りをジューネスティーンが受けると、相手の選手は笑顔を向けて中央まで歩いてきたので、ジューネスティーンも、それに倣った。
「君は強かったよ。それに、試合は開始する前から始まっている事を良く知っているね。控室の前で視線が合った時点で君のメンバー達とは違うと分からなかった時点で僕は負けていたよ。今までの1年生は、まだ、経験が足りなかったみたいだから、君も同じだと思って開始線までの動きで何かトラブルがあったと思ったんだ」
完敗だったというように、両手を左右に開いた。
「次の試合も、それに来年、再来年の大会も頑張ってくれ」
「ありがとうございます」
そう言うと、相手は清々しい笑顔をジューネスティーンに向けると控室の方に歩いて行った。
(なんだか、姉さんとレオンの試合が俺の布石になってしまったみたいだ)
ジューネスティーンは、少し複雑そうな表情をしつつ少し考えるような表情をした。
そんなジューネスティーンは、主審の咳払いを聞いて、自身も控室に戻っていった。




