後期の武道大会 女子の都合
ジューネスティーンが立っていた時、隣にシュレイノリア、その反対側にカミュルイアンが立っていた。
レィオーンパードの試合の後、3人の方に移動した時、女子2人はシュレイノリアの横にならび、カミュルイアンの横にレィオーンパードが並んで立った。
レィオーンパードは、少し遠い場所だった事から、アンジュリーンとアリアリーシャの話が所々しか聞き取れなかったので、聞こえた部分を繋ぎ合わせて聞いた事により間違って聞き取っていた。
それをカミュルイアンに尋ねたのだが、それは女子からしたら極めて敏感な話になっていたので、女子2人にとっては聞こえなくても良いはずなのに聞こえてしまっていた。
それは、エルフ特有の横に伸びた長い耳と、ウサギ系の長い耳を持っている2人にとっては、少し離れたヒソヒソ話程度なら聞き取れてしまう。
レィオーンパードのヒョウ系の亜人では、人種より多少大きめの耳とは違っていた。
「レオ〜ン! 何が、小さいのかなぁ〜」
最初の一言は、アンジュリーンの低い声だった。
その一言は、明らかにレィオーンパードを威圧するように発していたので、レィオーンパードは肩をピクリと動かした。
「「レオ〜ン!」」
今度は、2人がレィオーンパードを呼んだ。
レィオーンパードは、カミュルイアンに聞こえるだけの声で話したつもりだったが、アンジュリーンにもアリアリーシャにもハッキリと聞かれていた事を、今、2人が同時に呼んだ事で完全に理解した。
そして、隠れていたカミュルイアンから僅かに顔をずらして2人の顔を見たが、直ぐに隠れてしまった。
カミュルイアンは、硬直したまま、成り行きに身を任せていたが、時々、迷惑そうにレィオーンパードを見ていた。
メンバーの女子には、小さいという言葉には敏感であり、一部のワードに対しては地獄耳なのだ。
特にアンジュリーンは、成長の遅いエルフである事から、通常の人種と成長速度が同じウサギの亜人であるアリアリーシャと、入学時からの成長具合の違いを気にしていた。
その為、アンジュリーンにとっては禁句とも言える言葉であり、アリアリーシャとしては、自分だけ大きくなり始めていた事から、残りの2人に対して引け目を感じていた。
そんな事から、可能な限りメンバーがそろっている時には話題にしない会話だったが、レィオーンパードは、カミュルイアンと2人だけの会話のつもりで小声で話していたが無理だった。
レィオーンパードは、逃げ出したいと思い控室を出ようと動こうとすると、その前にアリアリーシャが一瞬で移動して、自身の胸の下で腕を組んでレィオーンパードを見上げていた。
「どこへ行こうとしているの、レオン!」
いつもの語尾を伸ばす口調も無く鋭い表情でアリアリーシャは見上げていた。
焦ったレィオーンパードは、カミュルイアンの前を抜けて反対側に行こうとすると、そこにはアンジュリーンがおり、アリアリーシャと同じように胸の下に両腕を組み、両手は腕に隠れるようにして自身の脇の脂肪を胸の方に押し上げるようにしていた。
そして、たいした身長差の無いのを、顎を上げるようにして、見下ろすような視線を作っていた。
「ねぇ、レオン。私の何処が小さいのかなぁ〜」
レィオーンパードは、マズイと思って一歩後ずさるのだが、背中に何か柔らかいものに当たった事に気がついた。
後ろを確認すると、そこにはアリアリーシャが胸を張るように立っていた。
レィオーンパードは、カミュルイアンと窓の間に、その左右の隙間を塞ぐようにアリアリーシャとアンジュリーンに囲まれてしまっていた。
そして、カミュルイアンは、自身にとばっちりが来ないように、その場で固まっていた。
後ずさったレィオーンパードは、何が背中に当たった何かを理解すると慌てて前に、つんのめるように飛び出すと、今度は、目の前に居たアンジュリーンにぶつかったのだが、その当たった場所が悪かった。
つんのめるように飛び出した事によって、レィオーンパードの顔の位置が30センチほど下がっていた。
後ろを向いたまま、アリアリーシャから逃げるように前に飛び出したので、前を見る余裕が無かった。
そして、レィオーンパードの顔は何か柔らかいものにぶつかったのだが、レィオーンパードは、アリアリーシャから視線を外せずにいたので、何にぶつかったのか理解できずにいた。
レィオーンパードは、そこから顔を離そうとして片手を顔の前に添えた。
そして、その手の感触が柔らかい事が気になり自分が手を添えた部分を見て青い顔をした。
そして、申し訳なさそうに上を向くと、笑顔のアンジュリーンの顔があった。
それは清々しい程の笑顔だったので、レィオーンパード、余計に怖いと思ったようだ。
「ねえ、レオン」
「……、はい」
「小さな胸の感触は如何ですか?」
そこまで言われて、自分の片手と片頬がアンジュリーンの双丘に有るのだと認識させられた。
「小さいから、弾力も無かったでしょう。顔を埋めることもできないでしょうし、その手の中も硬くて仕方ないでしょうね」
レィオーンパードは固まっていた。
アンジュリーンの一言一言が、レィオーンパードに恐怖を与えていたのだが、僅かに添えている手が動いた。
その動きを感じてアンジュリーンは顔を赤くした。
「い、いえ、とても、柔らかいです」
その一言を聞いてアンジュリーンは耳まで赤くなると、レィオーンパードを突き飛ばして、両肩を抱くようにして一歩下がった。
そのレィオーンパードを正面にいたアリアリーシャが受け止めた。
「そ、そんな感想は要らないわよ! な、なんで、揉むのよ! 触っただけじゃ、何で済まないのよ!」
「いや、柔らかいかと聞かれたから、つい、ねぇ」
レィオーンパードは、そう言うとカミュルイアンに同意を求めるように視線を向けたのだが、カミュルイアンとしたら、同意するような事をしてアンジュリーンの逆鱗に触れることを恐れて、思いっきり顔を横に振って否定した。
カミュルイアンは、アンジュリーンとの付き合いが長い事もあり、こんな時にアンジュリーンの気に触るような事をしてはいけないと身をもって知っていたから、どんなにレィオーンパードが納得できるような事を言っても絶対に肯定してはいけないと思っていた。
「おい! お遊びは、そこまでだ。ジュネスの試合が始まる」
そこまで沈黙を守っていたシュレイノリアが声を掛けた。
「それに、この試合が終わったら、少し時間を空けてから、2人の3位決定戦になる。身体を少し伸ばすなりしていた方がいいのではないか?」
アンジュリーンとアリアリーシャは、それ以上、レィオーンパードに何か言う事を止めると2人は真剣な表情に戻った。
そして、2人は、お互いの顔を見る事もなく試合会場の方を見るとストレッチを始めた。
シュレイノリアの一言によって、アンジュリーンとアリアリーシャは、一気に試合モードに切り替わった。




