後期の武道大会 シュレイノリアの知るジューネスティーン
シュレイノリアの直接的な物言いにレィオーンパードだけでなく、アリアリーシャも黙ってしまっていた。
そんな中、試合会場では準決勝の第1試合が終わり、3年生の次席が順当に勝っていた。
「なあ、アンジュ」
ジューネスティーンは、試合会場を見ながら声をかけた。
「何?」
「あの人と対戦した時、使っていた武器は槍だったね」
今、試合が終わり勝った3年生の次席を指してジューネスティーンが聞いた。
「ええ、そうよ」
アンジュリーンは、一瞬考えるような表情をしてから答えると、聞いたジューネスティーンは納得するような表情をした。
アンジュリーンは、表情を見つつ、何でそんな事を聞くのかといった顔をし、そして、その理由を聞こうと口を開けようとしたら、ジューネスティーンが大会委員に呼ばれ行ってしまった。
アンジュリーンは、聴きそびれた事が気になった様子でジューネスティーンの動きを視線で追いかけていた。
ジューネスティーンは、大会委員の前に行くと一言二言声をかけられてから会場の入口の前で退場してくる第一試合の選手を待った。
「アンジュ! ジュネスは、今の試合とアンジュの試合の事を聞いて、何かに気がついたみたいだ」
シュレイノリアが、アンジュリーンの気になっている様子を見て声をかけた。
「あれだけの事でジュネスは、何か分かったって言うの?」
アンジュリーンは、驚いたように聞き返したが、シュレイノリアは、自分の事のようにドヤ顔をしていた。
「あいつは、昔から観察する事が好きだったからな。パワードスーツの出入りの機能だって、昆虫の蛹が羽化する所を見て閃いたんだ。一言を聞いたら、それをキッカケに幾つもの疑問が解けてしまうはずだ!」
パワードスーツは完成してはいないが完成予想図はメンバー達は見ているので出入り方法も知っている。
フルメタルアーマーは、自身の体にパーツを順番に取り付けていき形になるので、補助をする人と時間が掛かってしまうが、パワードスーツは完全な人型に作られている。
人が、分厚い硬鉄の扉を拳で殴った時、扉は破壊される事はなく自身の拳が痛んでしまい、場合によっては骨折する事もある。
その力の受け皿として、人体の周りに外装骨格を取り付け攻撃の反動を人体ではなく外装骨格が引き受ける。
フルメタルアーマーでは人の体に取り付ける事から個々のパーツは接続されてない為、身体の可動部分である各関節をカバーできないが、外装骨格を持つパワードスーツであれば関節もカバーできる。
しかし、全身を覆う外装骨格作った場合、出入りをどうするかとなった。
それをジューネスティーンは、庭の花壇で蝶が蛹から羽化するところを見て、背骨を2本にして左右に開き、そこから出入りすることを閃いていた。
シュレイノリア以外は、パワードスーツの基礎設計段階の話を知らない事もあり、パワードスーツの完成図を見て完成度の高さの一つが、そんな事から見つけられていたのかと思ったようだ。
「それにジュネスの剣も強度のある硬鉄が刃を形成して衝撃を吸収する為に剣の芯に軟鉄を使っている。それを刀鍛冶から技術を教わる事もなく、現場を見たわけでもなく、道具を作る鍛冶屋から鍛治の基本を教わっただけで作ったんだ。部分的な答えを聞いたとしても、その繋がりを考えるから、全体が見えてくる。一つの理解が数個の疑問の解決の鍵になるから、ジュネスは情報を大事にする」
転移した日が1日しか違わない事もあり、親代わりのように管理を任されていたギルド職員のメイリルダにしたら、弟と妹のように2人を1人で見ていた事もあり、何かあれば一緒に連れ歩いていたので、ジューネスティーンの行くところは、シュレイノリアも一緒に出かけており、後でジューネスティーンの考えをまとめる時のアドバイザーをしていた。
そんな事からもシュレイノリアは、ジューネスティーンの考えている事が理解できていた。
「じゃあ、シュレ。さっきの私の言葉だけで、ジュネスは何か気がついていたって事なの?」
「ジュネスの事だ。準決勝で勝っても負けても次の試合が有る。どちらと対戦する事になっても勝つ為の対策は怠ってないはずだ」
「ああ、そうか、俺は準々決勝で負けたから終わりだけど、準決勝なら3位決定戦があるのか」
「そうね。3位決定戦が有るのよね」
それを聞いていたアリアリーシャが嫌そうな表情をした。
「そう、私とアンジュの敗者復活戦の3位決定戦は、ジュネスの試合が終わった後、少し時間を空けてからになるわ」
そう言うと、がっかりした表情をした。
「アンジュ、忘れてたわね」
あまりに残念なアンジュリーンの発言にアリアリーシャは、いつもの語尾を伸ばす事もせずに話していた。
そして、アンジュリーンは、言われて忘れていた事を、自身の相手であるアリアリーシャに指摘されて気まずそうにした。
「ふん! 私なんか眼中に無かったみたいね! 小さすぎて目に入らなかったみたいね!」
「あ、いえ、そんなつもりは無いわ、よ」
言葉同様に不味いと思った表情でアンジュリーンは答えた。
そんな会話を一番端にいたレィオーンパードは不思議そうにして聞いていた。
隣に居たカミュルイアンを見ると顔を近づけた。
「なあ、小さすぎて目に入らなかったって、アンジュの事か?」
「いや、アリーシャの事だと思う」
「ふーん、どう考えてもアリーシャ姉さんの方が大きいと思うんだけど」
カミュルイアンは、何だか変だと思ったようだ。
「だって、下を見たらアンジュは下まで視界がはっきりしているだろうけど、アリーシャ姉さんは、大きすぎて足元は見えないだろう」
それを聞いてカミュルイアンは、レィオーンパードが何を勘違いしているか理解できたようだが、少し遅かったようだ。
鬼の形相のアンジュリーンとアリアリーシャがレィオーンパードを睨んでいた。
それを見て慌ててカミュルイアンの後ろにレィオーンパードは隠れた。




