後期の武道大会 レィオーンパードの準々決勝
レィオーンパードは、早足で会場の中を進み試合会場に入り開始線の前に立ったが、相手は腕を伸ばしたり、身体を捻ったりしながら、ゆっくりと歩いてきた。
それは、レィオーンパードが、控室を出た時から相手の選手は、レィオーンパードの様子を確認してから、その動きに対応するように進んでいた。
相手は、明らかにレィオーンパードの様子を見つつ自分は、どうするのか考えての行動のように見えたが、レィオーンパードは、開始線の前に立ってから初めて相手の様子を確認していたので、相手が控室を出る時の様子は見ていなかった。
レィオーンパードは、胸に当てる革鎧と、腕に取り付ける革の小手、額とこめかみを覆う金属製の鉢当て、そして、両腰には刃渡り50センチの木刀をさしていた。
開始線の前に立ったレィオーンパードは、相手がゆっくり歩いてくるのを、不思議そうに見ていた。
(あの人、なんで、あんなに、ゆっくり歩くんだろう。それに、体をほぐしているけど、あの人、ウォームアップしてないのかなぁ)
レィオーンパードには、その様子から試合前の準備を怠ったように見えていたようだ。
しかし、相手としたらレィオーンパードが早く会場を移動していたのを確認していたので、余裕を見せつけるようにしながら、少しでもイラつかせられればと思っていた。
待つ時間というのは、長く感じる事があるので、少しでもストレスを与えられるのであればと思えば、そのような態度をとっていた。
相手も停止線の前に立つと主審は2人の様子を確かめ、剣を構えるように指示した。
レィオーンパードは、右手で左腰の剣を抜いてから左手で右腰の剣を抜いた。
左手の剣の切先を相手に向けると、右手は腰の後ろに回し半身になった。
その様子を相手は黙って見ており、レィオーンパードが構えるのを確認すると自身も左腰にさしておいた剣を抜いた。
その剣は、ジューネスティーンの使っている剣と、ほぼ変わらない細身の曲剣だった。
そして、抜いた左腰には、その剣と同じ形ではあるが、刃渡りはその半分程度の短めの剣がさしたままにされていた。
(なんだ、珍しいな。にいちゃんと同じような木剣だ)
レィオーンパードは、少し驚いたような表情をして、その光景を見ていた。
(でも、相手がどんな武器を使っても、戦い方は変わらないさ! いつものように戦うだけだ!)
主審は、2人の準備ができたと判断した。
「初め!」
開始の合図と同時にレィオーンパードは、飛び出して左手で相手の武器を払った。
しかし、相手は、自身の剣の切先を払われた方に向けると同時に柄を反対側に動かして、払われたレィオーンパードの剣が外れると、そのまま自身の剣を前に出してきた。
水平に振られた相手の剣が、レィオーンパードの首元に迫った時、レィオーンパードは右手の剣で、その剣を上に跳ね上げると、相手の右側にステップして一気に距離を取った。
そのステップした場所を相手の剣が空を切っていた。
少し遅れていたら相手の剣は、レィオーンパードの胸に入っていた。
その剣の軌跡は、レィオーンパードの革の胸当てを狙って打ち込んだようだが、寸止めするつもりは無かったようだ。
レィオーンパードの付けている胸当ては革製なので、振り切ってくる木刀が当たれば悶絶する事は間違いない。
その剣を避けたレィオーンパードは、そのまま走って距離を取るが、相手はそんなレィオーンパードを追いかけるでもなく、その方向に向くと黙って自身の剣の切先を向けているだけだった。
レィオーンパードが横に動くと相手も正面に捉えるように方向を変えるだけで、その場所を動こうとしていないので、徐々に間合いが空いていった。
四角い試合会場の端まで移動するとレィオーンパードは、突撃するように走り出し、左右にステップしながら相手に近付き、間合いに入ると相手の剣を右手の剣で制しつつ、左手の剣を相手の首元に添えようと打つと、相手は自身の身体を避けつつ剣の柄を持ち上げ、レィオーンパードの剣を両方とも受けてしまった。
すると、相手は一気に剣ごとレィオーンパードを押したので、レィオーンパードは、その力を利用して後ろに飛び去り、また、間合いを空けた。
しかし、その間合いを空けた瞬間に、今度は、踏み込んでこられて上段から一気に剣を叩き込んできた。
レィオーンパードは、着地すると同時に左右どちらかに回避しようとしたが、相手の踏み込みがそれを勝っていた事から、慌てて左右の剣をクロスして相手の剣を受け止めた。
そして体重を掛けるように一気に踏み込んでこられたので、レィオーンパードは相手の剣の重さを、クロスした剣で受けて耐えるしかなかった。
鍔迫り合いになる程に相手との距離が詰まってしまった。
「勝負あり!」
主審の決着を告げる声がした。
レィオーンパードは、何が起こったのかと思うが、主審の声を聞いて冷静になると、目の前の相手の剣は右腕だけで持たれている事に気がついた。
そして、相手の左手には腰にささっていた2本目の木剣があり、その木剣はレィオーンパードの首に添えられていたのだ。
「あっ!」
レィオーンパードは、自身が負けた事を悟った。
「中々、良い攻撃だったよ。でも、少し経験が足りなかったね。でも、もし、次に対戦したら、僕は、君に敵わないだろうね」
相手は、剣を収める時に話し掛けた。
「えっ、あっ、はい。ありがとうございます」
レィオーンパードは、よく分からないうちに答えたので、相手は、笑顔で、それに答えた。
そして、自身の開始線に戻っていった。




