後期の武道大会 試合予想を聞くカミュルイアン
ジューネスティーンの身体のチェックをシュレイノリアが行っている間、カミュルイアンが自身の敵討ちの為に無理をしたのかと不安そうにジューネスティーンの側にいたが、メンバーの残りの3人は入口付近に居た。
次の試合は、3年生のランキング3位と6位の対戦だったが、入口付近に来ていたレィオーンパードに、大会運営委員が声を掛け入口に居るように指示されていたので、アリアリーシャとアンジュリーンは、レィオーンパードの側に居て見守っていた。
第3試合は、ランキング6位の選手が棄権していた事から、3位の選手の勝ち名乗りだけで終わり、直ぐにレィオーンパードの試合になる事から入口に待機させたのだ。
控室に3位の選手が戻ってくると、レィオーンパードは、直ぐに試合会場に入るように言われた。
それを聞いてレィオーンパードは、ジューネスティーンの方を見た。
「にいちゃん!」
そう言うと、右手の拳をジューネスティーンに向けた。
ジューネスティーンも答えるように右手の拳をレィオーンパードに向けた。
「レオン! 頑張ってこいよ!」
一声掛けると、レィオーンパードは、安心した様子で控室を出て試合会場に向かった。
控室と会場を隔てる扉の閉まる微かな音を聞くとシュレイノリアが口を開いた。
「おい、ジュネス。レオンは勝てると思うか?」
レィオーンパードが試合会場に向かったと判断すると、シュレイノリアがジューネスティーンの身体を確認しつつ聞いてきた。
それを聞かれて、ジューネスティーンの顔色が曇った。
「なんとも言えないな。あの4位の人って、アリーシャ姉さんに勝った人だよね。まだ、本気で戦っているのか気になっていたんだ」
ジューネスティーンの意見を聞いて、身体の様子を確認していたシュレイノリアは眉を顰めた。
「どういう事だ? 姉さんは、本気を出す前に負けたって事なのか?」
アリアリーシャは、1年生の女子ではトップで、男女含めても13位だ。
それでも、3年生のランキング4位には敵わなかったが、その試合内容から相手は力を出し切らずに勝っていたとなると、レィオーンパードに全く勝ち目は無いのでは無いかとシュレイノリアは思ったようだ。
「うーん、あの4位の人って、なんて言うか、相手の闘い方が分かっているようなと言うか、その人の戦闘パターンを読むというか、なんだか慣れているような闘い方をしていると思うんだ。まあ、アリーシャ姉さんの対戦を見ただけだから何とも言えないけどね」
そこまで言うと心配そうな表情をした。
「それに、アリーシャ姉さんとレオンって、闘い方が似ているからね。ひょっとすると、あの人は、ああいった闘い方には、特に強いのかもしれないよ」
ジューネスティーンは、考えるような表情をした。
「そうだな。2人とも、スピード重視の闘い方だからな。姉さんと同じような闘い方だと、相手の方に分がありそうだな」
ジューネスティーンの解説を聞いて、シュレイノリアも納得するように答えた。
2人は戦闘スタイルに違いは有るが、スピード重視の闘い方が得意な事に変わりは無い。
スピードが早ければ、受ける側は対応するまでの時間が短くなる。
その対応するまでの僅かな時間しか与えないことにより、相手の対応を遅れさせて隙を作り、その隙を狙って攻撃を加える。
戦闘スタイルが違うとはいえ、基本的にスピードを重視している事に変わりはない。
相手がスピード重視の相手に慣れているなら、アリアリーシャと対戦した時に対応できており対応されていたと考えられる事から、レィオーンパードには不利な相手と言える。
その2人の冷静な解析を、カミュルイアンは少し面白くなさそうに聞いていた。
「じゃあ、2人ともレオンが負けると思っているの? だったら、最初からアドバイスしておいた方が良かったんじゃないの? わざわざ、負けさせるなんて、少し酷いと思うよ」
2人の意見を聞いてカミュルイアンは不満そうに言った。
「ああ、でも、レオンは、13歳だからね。今のうちに負ける事で覚える事もあるから。それに、言葉で言われるより試合の方が、体にも心にも残りやすいだろう。この1年生の後期の武道大会なら、闘い方についても考える良い機会だろうからね。2年・3年の時の為に、今は経験を積んでおいた方が今後の為だと思うよ」
ジューネスティーンは、入学して初めての格闘技の授業で教授から洗礼のような圧倒的な力で倒されていた。
そして、その事から対策を考え綱上りを提案し上半身の筋力を付けた事により結果も出していた。
負ける事で、その悔しさから対応策を考え強くなったジューネスティーンの言葉は、カミュルイアンにも理解できた。
「負けるにしろ、勝つにしろ、今回の相手は、レオンにとっては、良い相手なのかもな。速度だけでは勝てない相手はいくらでもいる。レオンも、もっと考える事を学んだ方が良いな」
ジューネスティーンもシュレイノリアも冷静な感覚で答えたので、その言葉の意味を知るとカミュルイアンも考えさせられたようだ。
そんな会話をしつつもシュレイノリアはジューネスティーンの身体の確認を行なっていた。
そして、試合から戻ってきたジューネスティーンを見ていた時とは違い、落ち着いた表情に戻った。
「うん、ジュネスの身体は問題なさそうだ」
「ありがとう、シュレ」
そう言うとジューネスティーンは立ち上がると、2人の言葉を考えていたカミュルイアンに笑顔を向けた。
「カミューも、レオンの試合を見ておこう。きっと、レオンもカミューに見ておいてもらいたいと思うはずさ」
「それに、お前からレオンの闘い方についてアドバイスを貰った方が、あいつも喜ぶはずさ」
カミュルイアンに、2人は声をかけると観戦用の窓の方に移動を始めると、ジューネスティーンが一緒に観ようと促した。
3人でレィオーンパードの準々決勝を確認し、その試合の反省点をカミュルイアンから伝えさせようとした。
「俺達2人は、レオンにとって兄と姉のような存在だけど、カミューは友達感覚だから」
「友達からのアドバイスは、貴重なはず! そして、心にも残る。だから、カミューからレオンにアドバイスした方が、あいつは、もっと成長できる。学校の大きな大会だとしても、これは通過点だ。先の事を考えたら、ここで負けたとしても次に繋がる」
カミュルイアンは、レィオーンパードが負ける前提で2人が話しているように思えたが、言っている事に間違いは無いので納得するような表情をした。
そして、3人でレィオーンパードの試合を観戦することにした。




